97年録音。マッケラス指揮のスコットランド室内管弦楽団によるブラームスの交響曲第一番の演奏です。全集としては98年のグラミー賞を受賞しています。テラークの優秀録音。鮮明な音像とエンジニアリングも高く評価されました。テラークは煌びやかな音響のレーベルですが、解像度は高くとも響きは派手さをねらったものではありません。時代楽器の再現は、ロマンの時代にのぼっています。ノリントンをはじめ時代楽器によるブラームス演奏を聴くことも珍しいことではなくなりました。マッケラス盤の楽器の採択はモダンです。室内管弦楽編成、六十人ほどのもので、重厚なイメージのブラームス像を一変させるものとなっています。ブラームスはベートーヴェンの後継について強く意識していました。特に交響曲はベートーヴェンも中枢に置いた分野です。作品は何度も書いては破棄されました。第一交響曲は着想から完成、初演にいたるまで二十年以上の歳月がかかったことは有名です。ビューローの「ベートーヴェンの第十交響曲」と述べたのも、そうした作品の重厚さがベートーヴェンの後継を思わせたからでした。ロマンは音量の増大の傾向にありました。リストが壮麗な効果をあげるピアノで聴衆を沸かせたのも楽器の音量の増大とは無関係ではありません。管弦楽もベルリオーズ、リスト、ワーグナーといった作品から編成の拡大とともにありました。第一交響曲も、時代の申し子でありベートーヴェンの後継というよりは遥かにロマン交響曲でした。作品が書き上げられた時点で、作品は作曲家の手を離れることになります。ブラームスの時代にすでに第一交響曲は大編成で再現されることも多いものとなっていました。ブラームス自身の好みは当盤のように小編成のものでした。マイニンゲンの宮廷オーケストラはブラームス作品の初演を担うことも多いものでした。厚塗りの弦ではなく、ニュアンスを聞き取ることのできるもの。ハ短調という調性はベートーヴェンの第五交響曲を意識したものでしょう。ブラームスの時代には交響曲にトロンボーンを持ち込むことは自明のものでした。ベートーヴェンの時代には革新的なものだったのです。第一交響曲の編成はベートーヴェン時代と大差がないものです。ベートーヴェンの第五交響曲と異なる点はピッコロを欠きホルンの増強があるぐらい。演奏は難しく、多くは交響曲としての大きさを表すために、隙間風が吹くことがあります。これは作品のイメージ的な大きさに対応してのものです。マッケラスは小編成を生かし、演出を加えたものです。即物的な演奏が主流の昨今、手法自体は懐古的。往年の指揮者のようにテンポを揺らし、バランスに配慮する伝統的なものです。響きを軽さではなく、軽やかさと弦のニュアンスを聞き取るときに演奏の評価は変わるはずです。

 


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