67年。ミュンヘンで録音されたシェーンベルクの木管五重奏曲。24年に作曲され四十年以上を経て、生々しい音色で展開されるウィーン・フィルハーモニー木管ゾリステンの名盤です。シュルツのフルート、レーマイヤーのオーボエ、シュミードルのクラリネット、フォルカー・アルトマンのホルン、ファルトゥルのファゴット。ウィーン・フィルのメンバーで構成され、録音時、全員が三十代の若さでした。難解に響くはずの音楽に、音色の美しさを加えていて同種のものの中ではとても聴きやすくなっています。「ピアノのための組曲」に続く十二音音楽としては二番目に生まれた作品でした。木管楽器の中にホルンが加わっていますが、ホルンとの相性もよいものです。木管アンサンブルにはホルンが加わることは多い。十二音を均等に振り分けるという方法論は線的な志向となりがちです。音色と、ホルンの音の厚みもあり、全体は立体的です。後期ロマンから出発し、無調、十二音音楽と行きついたシェーンベルク。地域的な出立はウィーンにありました。世紀末的で濃厚な雰囲気から生まれた音楽。ウィーン・フィルのメンバーは、そうした特性を踏まえた上での演奏の展開です。

シェーンベルクは調性の問題に踏み込み無調の方法を見出しました。無調に対しての調性音楽は、無調を見出したあとに生まれた概念です。調性は伝統的な音楽の規範となっていました。伝統的な音楽とは音楽上の規則を学ぶことが重要だったのです。バッハの平均律クラヴィーア曲集、調号のつかないハ長調からシャープが七つもつく嬰ハ長調に至る道は長い。ここでは使われていた音律が十二音平均律かどうかは置いておいておきます。実用的な調性は限られたものでした。無調を見出すとこれまでの明るい長音階、暗い短音階に変わり不思議な感覚の音を奏でるようになりました。そして、それはただのでたらめな響きになりかねません。十二音音楽という方法は、無調の方法をさらに推し進めたものでした。方法論を徹底するところから生まれました。楽曲に形を与えることで単なる無軌道とは異なることを示します。おおむねシェーンベルクの器楽作品は、伝統的な形式を採用します。木管五重奏曲は、ソナタ形式をとり、主題提示、展開と音型を形の上から追うことができるようになっています。無調の難題は大規模な展開をとりにくいということにありました。木管五重奏は一曲で四十分ほどの大曲です。「今後百年ほどのドイツ音楽の優位」を予感したシェーンベルク。器楽を用いて、緊密に織られた五重奏は、なかなか美しさで解かれることはありませんでした。曲としても重要ですが、演奏史の中でも避けて通ることのできない一枚です。


 


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