ガーシュインの畢生の歌劇「ポーギーとベス」。ハイライトですが、強い印象を与える84年録音の一枚。スラットキン指揮のバイエルン放送交響楽団、合唱団。独唱にサイモン・エステス、ロバータ・アレグザンダー。作曲者自身の「キャットフィッシュ・ロウ」組曲や、ロバート・ラッセル・ベネットの交響的絵画「ポーギーとベス」といった管弦楽組曲があります。劇中のクララの歌う「サマータイム」をジャニス・ジョプリンが歌えば、ブルースに命をかけた熱唱となります。本来の子守歌、ソプラノの清新な歌唱とは異なるものになるのです。抜粋や、ハイライトも多く存在します。歌劇とミュージカル、ふたつの性質を備えた作品。歌劇の分野ではアメリカは特殊な地です。1920年代のアメリカを舞台とし、差別や偏見も作品のテーマに含まれます。ボストンのコロニアル劇場で初演され、ブロードウェイのアルヴィン劇場での連続公演。ほとんどの登場人物が黒人のため、メトロポリタン歌劇場での初演は回避されました。ブロードウェイ的、ミュージカルの先駆としての性格も備えています。作曲者自身は「フォーク・オペラ」とみなしていました。スラットキン盤ではエステスを起用。85年のバイロイトでのオランダ人は強い印象のものとなりました。特殊な形状の船に性的な象徴を与えたり、全体をゼンタの妄想とするクプファー演出が話題となりました。このときのオランダ人がエステスです。歌劇は育まれた文化的背景から、オテロといった特殊な役以外に黒人の出番は少ない。アメリカ人歌手が歌劇で活躍する。エステスもまた黒人の活躍が顕著にみられるようになった第一世代です。当盤ではポーギーと、ベスを陥れる麻薬密売人のスポーティン・ライフを一人二役でこなしています。アレグザンダーもクララ、ベス、セリーナの三役をこなしています。つまり、アメリカ人歌手二人でのポーギーとベスのドラマを再編しているのです。

作曲者自身は本作が歌劇であることを望んだ。本作には強い生命力を持った音楽があります。企画の意図もあって、再編された音楽もガーシュインの手になるもので、アンサンブルも強い。足が悪いという不具合をも抱えたポーギー。貧しさはその苦をとりまく背景です。ベスに寄せる思いは強く、二人の間には愛も生まれます。ポーギーはベスのかつての情人クラウンを乱闘の末、殺してしまい警察に拘留されます。殺人は発覚しなかったものの拘留中、ベスは麻薬に手をそめ、麻薬密売人とともにニューヨークに行ってしまう。ポーギーは思いを失うことなく、ベスを求めてニューヨークに向かう。登場人物も血の通ったリアルな内容となっています。


 


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