ルノー&ゴーティエのカピュソン兄弟に加え、フランク・ブラレイのピアノ。ラヴェルの室内楽曲集です。2001年の録音。ピアノ三重奏曲、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ、ヴァイオリンとチェロのためのソナタ、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(遺作)の四曲を収録しています。戦線が大きく拡大し、世界規模となった第一次世界対戦。大量破壊兵器に加え、毒ガスなどの化学兵器、新しい兵器の投入は、多くの死者を生み出しました。音楽史は文化史の一つです。世界情勢と無縁であることはありません。バルトーク、ストラヴィンスキー、シェーンベルクといった20世紀音楽に起こった潮流にも大きく関与しています。ラヴェルも例外ではありません。ピアノ三重奏曲は、1914年に書き始められました。室内楽的なバランスを形作るのにラヴェルは難儀しました。フランスが参戦することになり、徴兵に応じるつもりであったラヴェルは急遽、作品の完成を急ぐことになります。完成後、赴いたのヴェルダンの攻防戦です。自身のこれまでの総決算としての作品としてピアノ三重奏曲を書き上げることになりました。難儀していたバランスは、得意であった管弦楽的な処方を持ち込むことにで対応することで対処しました。音域が広くとられ、奏者にも高度な技術が求めらる作品となりました。濃厚であったロマンの時代。ラヴェルの世代は、情動の拡大とは反対の進め方をとることになります。非感傷の音で紡がれる音楽。ラヴェルは、新しい音楽語法に近接する以上に、過去の資産を高度にまとめあげ精緻に組み上げることに長けていました。ピアノ三重奏という古典的な形をとった作品も、新しい形式の追及と、古典主義的なラヴェルの性格を映しています。バスク人であった母親の影響を受け、第一楽章には民謡的主題をとっています。フランス宮廷文化華やかであった頃、多くの舞曲が生まれました。室内楽も盛んで、古典的均衡をとったラヴェルの室内楽もゲルマン的な形式主義とは異なるものとなります。

すでにカピュソン兄弟の演奏は、このフランス的な感覚にも対応しています。高度な技術は、作品を構成する要素でしかありません。技術の難儀を意識させることなく美しい音楽が続きます。作品が緻密に織られていて、そこに感傷の入る余地はありません。美しいものをつくりあげ、戦地に赴いた。高度な音楽が、新しい演奏で再生し未来に連なるものです。

 


人気ブログランキング