2009年録音。アルカント四重奏団のフランスの弦楽四重奏曲集。ドビュッシー、ラヴェルの弦楽四重奏曲に加え、ディティユーの「夜はかくの如し」を収めています。モントリオール出身のチェリストジャン=ギアン・ケラスを中心に2002年結成されたクァルテット。フランス、ドイツ、アメリカに学んだケラスは現代を代表する精度の高い合奏を主導します。同時に、音盤の印象は精度以上にフランス産四重奏の雅な雰囲気を伝えます。フランス産の弦楽四重奏曲は多くはありません。室内楽作品全体の総量も少ないものです。教会の音楽に対して、「部屋の音楽」であった室内楽。フランス宮廷文化が華やかであった頃には興隆しました。古典の時代に形式が確立されます。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンによって弦楽四重奏はレパートリーの骨格にあたるものです。ロマンの時代のシューベルトを例外として、量産からは遠ざかっていくようになりました。フランスのフォーレはフランスにあって室内楽に注力した作曲家でしたが、弦楽四重奏は一曲にとどまります。ヴァイオリン属である四つの楽器。四声は四和音を補完し、さまざまな音楽に対応します。同質の響きであるために、音楽の構成原理でもある形式が重要なものとなりました。ゲルマン的な構成原理である形式。フランスで興隆しなかった理由がそこにあります。同時に、あえてつくられた作品からは、意欲的に分野に向かった作曲家の意思がうかがえるものです。

ラヴェルのピアノ三重奏は大戦に赴くそれまでの総決算として生まれました。弦楽四重奏は、それ以前、「水の戯れ」といった新手法から、古典的均衡を意識した最初期の作品です。ドビュッシーも「牧神の午後への前奏曲」で新たな音楽語法を見出した頃、弦楽四重奏に取り組みました。フランスの作曲家にとって、形式を意識するとともに、その前時代であった宮廷音楽の雅美もまた意識されるものでした。フォーレ、フランク、ドビュッシー、ラヴェル、遥かのちのディティユーに連なるまで音響や、感覚的な美はドイツとな異なるものでした。アルカント四重奏団は、この感覚の部分をひろいだしています。

 


人気ブログランキング