アントワン・タメスティのヴィオラ。セドリック・ティベルギアンのピアノ。ブラームスのクラリネット・ソナタ、ヴィオラ版を収めた一枚です。ナイチンゲール 作品97、子守歌 作品49-2、歌曲を編曲したものに加え、ヴィオラのオブリガード付きの歌曲、2つの歌 作品91も収録。こちらはゲルネが歌っています。2019年録音と録音年時は新しいもの響きは渋いところを狙っています。ヴィオラはマーラーの名を冠したストラディヴァリウス。ピアノはブラームスが生きた時代に近い1899年製のベヒシュタインです。ヨアヒムとの手紙のやりとりで「さほど難しくない作品」とした二曲は、高い技巧を要求する作品ではありません。ブラームスが愛したヴィオラの音色。人間の声に近い音域は室内楽と歌曲につながった昨日を違和感なくつなげていきます。よく知られた子守唄に至り、タメスティの奏する歌うヴィオラは、奏者の歌心を伝えます。ソナタの二曲にも歌を感じることができるでしょう。ヴィオラの音域が人間の声に近いという所以です。ブラームスが創作力の枯渇を感じていた晩年。最後のまとまった作品を生み出す契機となったのがリヒャルト・ミュールフェルトのクラリネットの音色に触れたことでした。生み出された作品が、当盤の二曲を含む四曲です。ソナタの演奏ではミュールフェルトの演奏にブラームスが帯同したこともありました。先述のヨアヒムへの手紙では「シューマン夫人にも是非にも聞かせたい」と続いています。この時、すでにヴィオラ版が用意されていました。クラリネット五重奏曲などに聴く憂愁。これは楽器の音色と分かち難いものです。ヴィオラ版も音域が活かされています。同時に音色の魅力も含み人間の声域に近い。歌曲と近接する室内楽という趣向が生きています。

 

歌曲をブラームスの最重要の作品群と見做す人がいます。ティベルギアンのピアノがブラームス時代の古色に近いベヒシュタイン。煌びやかさや技巧とは遠い作品です。ブラームスには作品がクララを喜ばせる確信がありました。技巧とは遠い音楽的内容を重んじる態度や、ある種の慎み深さはブラームス的世界を築いています。クラリネットだけではなくヴィオラ版もよく知られた作品。録音は新しく志向はブラームスの時代に根ざしている演奏です。