74、75年に録音された小澤征爾、ボストン交響楽団によるラヴェル作品集です。ボストン交響楽団の音楽監督就任が73年のこと。就任からほどない頃の録音ということになります。就任は閉塞的な場であったオーケストラを支えてきた支持層を超え、より広範な聴き手を獲得したのです。印象的な指揮ぶり。引き出す響きは輝かしいものでした。ミュンシュ時代にボストン交響楽団はフランス音楽にも開眼していきました。ラインスドルフ、スタインバーグといった跡を受けての小澤征爾は、59年、第九回のブザンソン指揮者コンクールで名を上げることになります。頑固なフランスのオーケストラを指揮に牽引するのは共通する音楽用語を用いてのものでした。この優勝をはじめフランス音楽は核心の一つとなりました。ウィーン国立歌劇場でも、モーツァルトはもちろん、あまり取り上げられなかったフランス音楽への対応も期待されたのです。サイトウ・キネン・フェスティバルでもプーランクにラヴェル、オネゲルといったフランス系の作品が取り上げられていました。ドイツ系が、楽曲の構築といったシステムの面を重視するのに対し、フランス系は感性や色彩が際立つことが多いものです。ラヴェルのボレロなどは、延々と同じ旋律が繰り返されます。リズムも同じ刻印を刻みます。移り変わるのは音色と音量です。管弦楽法の名手であったラヴェルは楽器の配置にも職人的な手腕を発揮しました。楽曲の構造としては、異様な作品です。ボレロはスペイン系の三拍子のリズムに過ぎません。ショスタコーヴィチの第七交響曲でボレロの手法を使ったなどとするときは、ラヴェルのボレロを前提にしているわけです。

 

輝かしい歌わせ方だけではなく、叙情的で微細な部分の拾い出しも、この管弦楽曲集の魅力です。ボレロの他、道化師の朝の歌、ラ・ヴァルス、スペイン狂詩曲、亡き王女のためのパヴァーヌ、高雅で感傷的なワルツ。斎藤秀雄の『指揮法教程』は指揮を技術という面から捉えました。東洋人的な感性は、これまでの西欧音楽の捉え方とは異なる切り口を見せることがありました。ボストンに愛され、長きに渡っての統率。そこには音楽と集中的に向き合って、多くの時間を音楽の探究にあてていたという証言が多く残っています。音楽的香り以上に、リズムや鳴りで展開する部分もありますが、感じられる生気は他には見られないものです。

 

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