「と、いうわけで。 今日からお世話になります。 野々村天音です。 調律の専門学校には来年の春から通わせてもらうことになって、学校と仕事の両立に頑張りますのでよろしくお願いします!」
天音は童顔の笑顔でみんなにあいさつをした。
「よろしく。 レッスンの方は社長が産休の間はおれとさよちゃんの二人でやっていくから。 カジはITと受験に必要なソルフェージュを少し担当してもらってる。 レッスン以外の何でも屋になってもらうと思うけど、」
成が説明した。
「はい。 何でもやらしてもらいます、」
「おれより1個上ですかー・・。 逆って感じ・・」
加治木はいつものようにボーっと見たまんまを言った。
「にしても。 小野塚さんが名前変わってたなんて。」
天音はスケジュールのボードに張ってある名前を見た。
「うん。 説明するとめんどいから。 その辺はテキトーに処理しておいて。 んじゃ、少しずつ説明するね、」
成が天音の隣に座った。
そんな二人を見て面白くなさそうな人物がひとり。
小和はなんだか心が晴れなかった。
音に力もないし伸びもない。 調律は合ってるのに余韻の波がブレて聴こえる、
天音のあの言葉が頭から離れない。
思い出すたびにはらわたが煮えくり返るような気持ちになる。
それでもピアノの音を聴いただけで演者の心まで読みこんでくるような彼の鋭さに怖さも感じていた。
気持ちがふさぐ理由はもうひとつあって、
3日ほど前にボストンの瑠依にLINEメッセージを送ったが、ずっと既読にもならず
既読になったと思ったらそのまま返事もない。
忙しいのはわかるけど。
ひとことくらい返す時間くらいあるはずなのに。
小和は日に日に不満が大きくなっていった。
「あっそう。 じゃあ・・予定通りだね。 みんな風邪ひかないように健康管理に気をつけるように言っておいてね、あと変わったことない?」
さくらは毎日成から一日の報告を電話で受けていた。
「変わったこと・・は、特にないけどー・・」
「けど?」
「なんか。 さよちゃんが元気ないみたい。 体調悪いとかそういうんじゃなくて。 話しててもどこか沈んでるって言うか、」
成はこのところの小和の様子を思い出しながら言った。
「さよちゃん?」
「まあ基本おとなしい子けど、最近はけっこうよくしゃべるようになったしって思ってたんだけど。 元気ない感じ、」
「そう・・。 まあ、またあたしからもさよちゃんに連絡してみるね。 じゃあ天音くんに仕事教えるのも大変だと思うけどよろしくね、」
さくらは電話を切った後、ひとつ小さなため息をついた。
天音がセリシールにバイトとして採用されました。一方小和は・・
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