一時預かり中の

盲導犬候補生(月齢8か月)は

なかなかの

お山の大将気質の持ち主で、

家から外に出る際

ドアを開けるまでの

「待て」は出来るし

「よし」と言われてから

動き出すこともできるのですが、

隣に他の犬(この場合は

わが愛犬アーシー)がいると

その犬より前に

屋外に出ずにはいられない。

 

つまり自分が先でないと嫌。

 

8か月ちゃんとアーシーの

双方にリードをつけて

私が8か月ちゃんの綱を持ち

夫がアーシーの担当になり

連れだって出かけようとした時も

8か月ちゃんはアーシーの後ろを

歩くことには我慢できず

アーシーを追い越そうと

前のめりに

突き進んでしまい大騒ぎ。

 

しかし!

 

普段の歩行訓練においては!

 

この8か月ちゃんは

まったくといっていい程

引っ張り癖を出さないのです!

 

 

いや本当月齢8か月当時の

アーシーと比べると

8か月ちゃんの

訓練時の歩行姿勢は

驚くほどにスマートで、

まず絶対に綱を引かないし

歩行速度を人間側に

完全に合わせるし

「・・・歩く位置が

人より後ろ側ですね?

盲導犬候補生は人の

『少し前』を歩くよう

私は訓練されると

思っていたんですが」

 

つまり盲導犬になった場合

そこが犬の立ち位置になるため

仔犬の時からそう教える、

というのが私がアーシーを

盲導犬候補生として

育成していた頃のやり方でした。

 

ところがこの4年の間に

盲導犬協会側の

育成方法が変わったらしく

地域の指導員さんいわく

「最新のやり方では

ハーネス(胴輪)をつけた時のみ

犬は人の前を歩く、という風に

犬に教えるようになっています。

ハーネスを使用するのは

訓練学校に入ってからなので、

候補生時代は常に人の隣か

その少し後方を

歩くように指導しています」

 

というわけで8か月ちゃんは

リードを持った人の少し後方を

気楽な感じについて歩き、

他の犬とすれ違う際も

まったく動じず前だけを見て、

階段の上り下りも

余裕を持って問題なし。

 

ただ前から来る人間が

親し気に手を振ったり

口笛を吹いたりすると

どうしても反射的にそちらに

近づこうとしてしまう。

 

そうした場合リードを持った人は

慌てず騒がずお菓子を使ったり

変な声を出したりして

8か月ちゃんの意識を

歩行に向け直す。

 

「・・・こういう際に

『駄目(ノー)』って

本当に言わないんですね」

 

「そう、今は言わないんですよ」

 

これがこの4年の間における

盲導犬育成方法の最大の変化と

私は故人的に考えていて、

そうなんです、現在

英国盲導犬協会では

犬を育成する際に

『ノー』という言葉を使わない。

 

じゃあ犬が『悪いこと』を

しようとしたらどうするか、

前述のようにお菓子や

身振り手振り、音・声を使って

犬に『他のこと』をさせる。

 

そして褒める。

 

リードをつけての歩行時に

犬が人に飛びつこうとした場合

以前だったら人は

「ノー」と言って犬を止め、

それから「座れ」と

指示を出していたのが、

今は鼻面にお菓子を持って行って

犬の気持ちをそらしたり、

あるいはその近づいてくる人に

「犬があなたに駆け寄ろうとしたら

動きを止めて後退してください」

とお願いをする。

 

すると犬は前から来た人間に

『走って近づこうとすると

人間は離れて行ってしまう』と

理解することになる。

 

一事が万事この調子。

 

良い悪いを人間側が

「ノー!」と

押し付けるのではなく

将来的に犬が自分で

行動の是非を

判断できるようにするための

訓練方法の変化だそうで

「・・・理屈はわかるんですが、

『ノー』という言葉を使わない分

以前よりもっと時間と根気、

人間側の時間と根気が必要な

訓練方法になっていますよね」

 

「そう、その通りです!」

 

『ノー』という言葉を

最大限に活用して

アーシーを育成した身としては

この新しい訓練方法は

本当に大丈夫なのか、と

思うところがなくもないのですが

しかし新しい

訓練方法の結果として

8か月ちゃんは見事な

歩行ぶりを身に着けている。

 

でもこれ、育成責任者、

大変だよなあ・・・!

 

英国盲導犬協会の

地域指導員さんは今もなお

「Norizoさん、新しい仔犬を

生後6週間くらいから

また育成してみませんか」と

私に囁いてくるのですが

・・・私、短気とまでは

いかないんですけど

根気のなさには自信と

定評があるんですよね・・・

 

そんなわけで8か月ちゃんの

潜在能力は高いんですぞ、

というお話でございました。

 

いや本当に別の犬かと

思うほどに見事なんですよ。

 

それともこれは外面・・・?

 

頭のいい犬です。

 

 

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