広島学院の校舎に掲げられている標語

 

 

広島学院中学・高等学校の阿部祐介教諭からたったいま送られてきた素敵なクリスマスプレゼントを、みなさんにもお届けします。

 

 「ベツレヘムの星の輝き」

 

 カトリックの家庭に生まれた私は、正直、クリスマスが苦手だった。周りの友人たちが楽しそうにクリスマスを送っている様子を横目に、バスに乗って教会に行き、家族と一緒にミサに参列。ミサ前に聖劇を日曜学校のメンバーで演じなければならず、私は「羊飼いその5」くらいのちょい役。恥ずかしくて、逃げ出したかったが、大人たちはそんな私たちをほほえましく眺めている。聖劇、ミサが終わると、「ご降誕、おめでとうございます」と何やら難解な言葉で大人たちは静かに喜び合い、私は、よい子の作り笑顔を浮かべて返す。

 イエス=キリストの誕生日を祝う…幼年期の私にも確かにその気持ちはあったが、それはどこか、「祝わなければならない」という半ば義務感のようなものでもあっった。多感な中高生になると、その感情はさらに強まり、その上、時代はバブル末期。12月になるとCMには山下達郎の曲に牧瀬里穂が微笑み、「クリスマスは恋人と過ごす日」的な刷り込みが連日行われていた。私も気が付けば、その流れに乗っていき、やがて私は、クリスマスは、イエスの生誕を心のどこかでひっそりと祝いながら、友人、恋人と楽しくロマンチックに過ごす!という青春を手に入れた。

 時は流れ、20代半ば。何かが満たされていない、と感じていた日々。知り合いのフィリピン人の家にホームステイしながら、セブ島プンタ・プリンセサ教区のお手伝いをし、フィリピンでクリスマスを過ごす機会をいただいた。

 陽気に流れるフォークギターのメロディーに合わせて聖歌が流れ、ミサにあずかる。神父の説教に皆がドッと笑う。ミサ後、会う人会う人に「メリークリスマス!」と言いながら笑顔を交し合う。老若男女、なんだかとても楽しそうだ。

ミサ後、スラム街で暮らす教会の信徒家族が食事に招いてくれた。竹でできたその家は、強い台風でも来たら、すぐにでも吹っ飛びそうだったし、お世辞にも衛生的には見えなかった。しかし、その家族の温かな真心を前に、そんな私の愚かな感情こそがすぐに吹き飛ばされた。外国からの訪問者である初対面の私に対し、その家族はパスタ、チキン、魚、フルーツタルトなどなど、豪華な料理をたんまりと用意してくれていた。こんな得体のしれない若者に、こんな贅沢な料理をふるまって、大丈夫なのだろうか?この食事のせいで、今後の生活費が圧迫されることはないだろうか?しかも、私をもてなしたところで、この家族には何の得もない…私は思わず「私のようなブラっと来ただけの日本の若者に、なんでここまで温かいおもてなしをしてくれるのですか?」とその家族の母親に尋ねた。

 「だって、あなたは、わざわざ日本から、クリスマスを私たちの教会で過ごすために来てくれたんでしょ?だったら、できる限り、みんなでクリスマスの喜びを分かち合えたら楽しいでしょ!」

 その母親がそう語ってくれた後、6歳くらいのお嬢ちゃんが小さなチョコレート1粒を私に渡してくれた。なんでも、クリスマスだから、母親からチョコレート5粒をもらったらしい。その1粒を私に。自分の心を覆っていた暗闇を、1粒のチョコレートがベツレヘムの星のように私の心を照らしてくれた。私は、そのチョコレートを受け取りながら、自分の涙がなぜか止まらなくなった。人を信じず、人を罵り、自分が最優先される私の真っ暗な心には竹の家の母親とお嬢ちゃんの笑顔は、世界を照らすに十分だった。

 クリスマスは喜びを分かち合う日。確かに幼少のころから教え込まれてきた。しかし、恥ずかしながら私は形や文字のみで情報として知っていただけで、その意味や本質を実感・体感として感じることができていなかった。経済的に厳しい生活が続くフィリピンの竹の家に住む家族は、それを私にシンプルに教えてくれた。救い主(キリスト、メシア)が生まれた!みんなで最高に喜ぼうよ!喜びも、悲しみも、皆で分かち合って笑いあって、喜ぼうよ!

 先日、2年ぶりに調理活動を伴う炊き出し活動を実施した。生徒・保護者・教員有志で協力してカレーライスを調理、お弁当として容器に詰めて配布。あわせて校内で集められた日用品・冬物衣類を配布。活動後の分かち合いでは、「一生懸命自分たちで作ったものをお渡しし、それを目の前で喜んでいただけた。単純に嬉しかった。」といった感想があがった。心も物も分かち合うことで、喜びが生まれる…そこにイエスはおられる…生徒の分かち合いの言葉を聞きながら、セブ島で私にクリスマスの意味を教えてくれた家族のことを思い出した。

 「今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそメシアである。(ルカ2.11)」

 家畜小屋で生まれたイエス誕生の喜びは、厳しい生活をおくる羊飼い達に真っ先に告げ知らされた。このメッセージを心に刻みながら、皆で喜び合えるクリスマスを準備したい。私たちが贈り物を送り、喜びを届け、分かつことができますように。それを通じて、私たちも新しい人になれますように。

 

(広島学院イエズス会教育 活動通信「希望」第65号より 広島学院中学・高等学校 阿部祐介教諭の文章を転載)

 

※広島学院についてはこちらの記事もご覧ください。

『ロサドさんの木工小屋〜A Man for Others〜』名門校を見守る“スーパー用務員”さんの話

※セブ島の様子はこちらの記事もご覧ください。

【ルポ】セブ島の児童養護施設で見た「子育て」の真髄。カリスマ数学教師「イモニイ」の教育支援同行記

 

※先日フィリピンのセブ島を猛烈な台風が襲いました。セブ島の沖あるカオハガン島という小さな島の友人によれば、暴風が吹いていたのはたった3時間ほどだったのに、全てを破壊してしまったと言います。その近隣の小さな島では、家を守ろうと島に残った男性たちが全員亡くなってしまったのだとか。。。信じられません。セブ島にもたくさんの友人がいますが、メッセンジャーへの応答がまだなくて、心配です。

台風後のカオハガン島の様子