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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載26)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 フォレスチェは社での用事をすませると、ジョルジュを連れてカフェ「ナポリタン」へと向かう。フォレスチェはカフェでビールを一気に飲み干すと、黙り込んでいるジョルジュに向かって「どうだい一つ新聞屋を試してみては?」と声をかける。仕事の内容はフォレスチェの指示に従ってあちこち〈探訪〉することで、報酬は〈月に二百五十フラン〉である。鉄道員の給料の二倍である。ジョルジュに断る理由はなく、すぐに承諾する。フォレスチェは明日の晩食にジョルジュを招待する。フォレスチェはそこで社長ヴァルテール夫妻、妻とその女友達、それにノルベール・ド・ヴァレヌとジャック・リヴァルを紹介する心積もりなのである。ジョルジュは当惑した様子で、晩餐にふさわしい礼服を持っていないことを告げる。フォレスチェは二十フラン金貨二枚を出して、借りるなり、月賦で買うなりしてとにかく礼服を揃えるようにと言う。フォレスチェはジョルジュの返事を待つことなく「明日の晩、七時半・フォンテーヌ街の十七番地だ」と告げる。ジョルジュは礼を述べて金を受け取る。二人は再びビールを飲み干し、マドレーヌの方に向かって歩き出す。

 歩き出したはいいが、フォレスチェは特に行きたい所があるわけではない。ジョルジュはフォレスチェにどこへ行きたいかと訊かれて、フォリ・ベルジェールに行きたいと答える。二人は踵を返してフォーブール・モンマルトルの通りに出る。フォレスチェは顔がきくらしく切符を買わずに劇場の中に入る。

 さて、ここで立ち止まって二人の行動を振り返ってみよう。

     二人がどこで何をし、どのような道筋を歩いたか、それは何時頃のことだったか。作者は二人が立ち寄った新聞社やカフェの名前、街や通りの名を記しているので、パリの街に住む者は誰でも彼らが歩んだコースを具体的に思い描くことができるだろう。時刻に関しては、ジョルジュがフォレスチェに会う前、道の中央にあった大時計で九時十五分を確認しているから、その時刻をもとに、ジョルジュが安レストランを出た時刻やフォレスチェに会った時刻、新聞社に着いた時刻、カフェ「ナポリタン」でビールを飲んだ時刻、フォリ・ベルジェール劇場に着いた時刻などを推測することができるだろう。確かなのはパリの夜は長いということだ。街を歩くひとの波は引きも切らず、どこのカフェも満杯で賑やかである。パリの夜は人々の食欲や性欲を満たす巨大な装置と化して、誘惑の口を大きく開けている。ジョルジュはパリに来てまだ四、五ヶ月しか経っていないが、不断にこの誘惑にさらされながら夜の街をさまよっていたことになる。欲望を満たしてくれるパリの街とはいえ、貧乏人のジョルジュはビールさえ満足に口にすることができない。

 この日、ジョルジュはフォレスチェに奢ってもらってはじめてビール二杯を飲み干すことができた。リアリズム作家モーパッサンはフォレスチェとジョルジュのビールの飲みかたを正確に描き分けている。一仕事を片づけて、奢る身のフォレスチェは大声でビール二杯を頼み、運ばれてきたビールを一気に喉に流し込む。一方、戦友に奢られる身のジョルジュは、喉が乾ききっていたにも拘わらず、ビールをちびちびとすすっている。ジョルジュの今現在置かれているみじめな姿を、作者はさりげなく、だが冷酷に描いている。プライドの高い男なら、ジョルジュでなくても「今に見ていろ」ぐらいの気持ちにはなるだろう。しかし、今、頼みの綱フォレスチェを失うことはできない。ジョルジュは屈辱を内深くに押さえ込み、従順に振る舞っている。絶対的優位の立場にあるフォレスチェはジョルジュのこの深く押さえ込まれた屈折した心理に気づかない。このことが後の二人の関係を決定的なものにする。

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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