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生誕110年 田中一村展@佐川美術館

2018-08-16 | 展覧会

地元、滋賀県にある佐川美術館で、開館20周年の特別企画展としてタイトルの展覧会が開催されています。田中一村は、奄美大島で島固有の植物や鳥などを独特の画風で描き出した唯一無二の画家で、今年、生誕110年を迎えます。

以前、奄美大島を旅したことがあります。田中一村の作品を常設展示している田中一村記念美術館を訪ねることも大きな楽しみのひとつでした。そこでは、奄美時代の大きな作品をたくさん見ることができて、描かれている動植物すべてが静謐な生命力をみなぎらせているような独特の世界を堪能し、感動~!いたしました。

今回の展覧会は、彼の生涯をもっと丹念に追った展開となっており、田中一村が奄美でついに独自の画風を花開かせるまでの、ある意味、葛藤といってもいい道程を辿ることができたのが、とても興味深かったです。

栃木県に生まれた田中一村は、幼いときから彫刻家の父の手ほどきを受け、優れた南画を描きました。展示されていた7才で描いた作品は「まじで?!」と思うほどのうまさです。南画とは、もとは中国で文人が描いていた画風を、江戸時代に日本の文人が学んだもの、池大雅や与謝蕪村などが知られています。神童とよばれた彼は、その後、東京美術学校に入学するも、3ヵ月足らずで退学。先日の日曜美術館では、南画はもはや時代遅れであり、一村には居場所がなかった、との解説がありました。

30才から奄美に移るまでの20年間を、一村は千葉で過ごしています。南画に飽き足らず、新しい独自の画風を模索し、試行錯誤の時代を過ごしました。画壇の公募展にも挑戦し、39才のときに、川端龍子が主催する青龍展に「白い花」が入選するが、翌年、自信作「秋晴」が落選したことに納得できず川端龍子に抗議し、もう一点の入選も辞退してしまったそう。「白い花」は実物は展示されておらず、写真パネルで見たところ、奄美時代に通じる凛とした美しい作品でした。「秋晴」は展示されていたのですが、一風変わった作品でした。一面ピカッとした金地の屏風に農村の風景が描かれていて、大根が木に吊るされているのだけど、何だか違和感…。そしてその後、日展や院展でも落選が続きました。

この時代の作品には、さまざまな画風が見られます。やはり食べていくために描いたであろう、色紙に描かれた個人蔵の作品もたくさん展示されていて、画家の厚みみたいなものを感じることができます。幼い頃から南画で墨を自在に扱ってきたからか、画面の中の墨の使い方が魅力的だな~と改めて思いました。何だか、黒なのに表情豊かって感じ!

一村は現状を打開すべく九州、四国、紀州へ出かけたスケッチの旅で南国の魅力に開眼し、50才のとき奄美大島へ渡ることを決心します。当時まだ沖縄は返還されておらず、奄美大島は日本における最果ての南国でした。

奄美大島では、紬工場の染色工として働きながら粗末な住処で絵を描き続け、無名なまま亡くなったと言われますが、千葉の支援者が、奄美行きの資金を援助するために一村に描かせた襖絵の大作が展示されていて、彼の才能に惚れ込み、援助し続けた一定の人たちがいたんだ、と改めて知りました。だからこそ、こうして多くの作品が残され、今、こうして評価されているのでしょう。彼の作品を目にすることができることを、本当に喜びたいと思います。

日曜美術館で紹介されたこともあり、県外からもたくさん来られているようで、会場は多くの観客で賑わっていました。機会があれば、ぜひまた、奄美で見たい!やはり島の光と空気の中で、実際のアダンの実を目撃してから作品を見ると臨場感が高まります。島で見るからこその素晴らしさが絶対あると思う。

佐川美術館の展覧会は、9月17日(月祝)まで。


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