江戸時代、江戸の街で、犯罪や公序良俗に反しないことならどんなことでも相談に応じますよ、ということを生業にするお吟がいた。お吟は目鼻立ち麗しい三十路絡みの妖艶な女性、日本橋に「千成屋」を営み、手伝いに二人の男性、千次郎と与之助を手代として雇う。近所に住む元同心の青山平右衛門は剣術の腕前で頼りにしている。お吟の連れ合い清兵衛は5年前に伊勢に出かけたきり帰ってこないという。
千成屋にはお吟の親切で誠実な対応を聞きつけて、多くの相談者が訪れてくる。平塚から江戸で働く姉を頼ってでてきた11-2歳の少女、お吟がわずかな情報から調べてみると、姉が女郎屋で働きながら、病気の母と幼い妹がいる実家に仕送りをしていたが、悪い男に騙されて殺害されたことを知る。その悪い男は安兵衛、別の店でちゃっかりと手代として働いていることを突き止めた。同時に相談を受けた宇市は、親の敵討ちに江戸に来たという。その相手がたまたま同じ安兵衛だった。お吟は平右衛門の助けを得て、宇市が安兵衛を敵討ちするのを助太刀する。お吟は少女にお金をもたせ、宇市が故郷に帰れるように手配する。事件を解決したお吟は、平右衛門たちと十三夜のお団子を食べる「十三夜」。
昔、勘違いと義母の意地悪から不義の疑いをかけられて膳所の街から江戸に出てきたのがおふさ。今は、ホタルが見えることで繁盛するほたる茶屋を経営する。茶屋で働く幸助がある日、もうここでは働けなくなった、と突然姿を消した。お吟がおふさに頼まれて調べてみると、幸助は昔、犯罪を犯し人足寄場にいたことがあり、その時の悪い仲間にそそのかされて、犯罪に巻き込まれている事がわかる。同じ時に、近江国から昔、家から出ていった元の妻を探しに参勤交代のタイミングで江戸に来ている膳所藩士三崎庫之助が相談に訪れる。話を聞くと、おふさがその元妻であると気がつく。お吟は、おふさと三崎の再会をアレンジすると同時に、幸助が巻き込まれた悪い仲間たちを、おとり捜査で一網打尽にすることに成功する。おふさと三崎はホタル茶屋の一室で、昔の誤解を解く「ほたる茶屋」。
残り2つのエピソード「雪の朝」「海霧」もお吟が事件を解決するお話で、安心して読める、江戸を舞台にした事件解決物語。各エピソードとともに楽しく読めるのは、お江戸の街の紅葉見物やホタルを愉しみながらの食事、十三夜のお団子などなど、当時の庶民の暮らしぶりを知ることができること。自粛読書に最適です。