美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

適切な経済用語について

2019年10月16日 16時02分15秒 | 経済


目下、モスラ―のMMT論の訳出に自分なりに精を出しております。なかなかほかの本に目を通す時間が取れないのですが、今日、ちょっとした時間を利用して、三橋貴明氏の『知識ゼロからわかるMMT入門』(経営科学出版)の前半にざっと目を通しました。

氏の、適切な経済用語を使うべきであるという主張に、「なるほど」とうなずけるものがあったので、それに触れておこうと思います。

・「Government Debt」は、「国の借金」ではなくて「政府の負債」である。
これは前々からの、氏の主張ですが、これをはじめて指摘したのは、管見の限りですが、三橋氏と思われます。そのことはいくら強調してもし足りない。と同時に、その指摘を無視して「国の借金1000兆円」を言い募る大手マスコミに対しては、腹に据えかねるものがあります。というのは、「国の借金」というあいまいな言葉を使い続けることによって、「増税やむなし」の雰囲気を醸成し、財務省の緊縮財政・増税路線の応援団を演じ続けているからです。国民経済の破壊に加担しているからです。「政府の負債」という明確な言葉遣いをすれば、「政府の負債」=「国民の資産」という実態が明らかになるのです。

・「国債発行残高」と「財政赤字」は違うものである。
なんでもかんでも「赤字」「赤字」と言い募って、国民の不安をあおり続ければなんでもいいというものではありません。「国債発行残高」は、おおざっぱに言ってしまえば「政府の借金」の別名であって、ストック概念ですが、「財政赤字」は政府の歳出と歳入の差額であって、フロー概念です。これまたおおざっぱではありますが、ストック概念は貸借対照表に対応し、フロー概念は損益計算書に対応します。こういう基本的なところをあいまいにすると、ごくふつうにわかることもわけがわからなくなってきます。

・「国債の貨幣化」(Monetization)を「財政ファイナンス」と訳すのは変だ

中央銀行の国債買取を日本では「財政ファイナンス」と呼んでいますが、これでは字面を見ただけでは抽象的すぎて何のことを言っているのかわからなくなり、意味もなくあいまいになるだけです。Monetizationというはっきりした原語があるのですから、「国債の貨幣化」と表現したほうが、事態をすっきりと言い当てることになります。

・「Money Creation」は、「信用創造」ではなく「貨幣生成」と訳すべき

これまたごもっともなご指摘です。「貨幣生成」という訳語によって、「銀行には、お金を創り出す力がある」という事実(これは、イングランド銀行が言明していることです)を明瞭にするという好ましい効果があります。訳語の異同は、貨幣観の根幹に関わるのです。

・MMTは、「現代貨幣理論」であって「現代金融理論」ではない

三橋氏が指摘するまで、MMTを「現代金融理論」と訳す向きがあることを知りませんでした。「Modern Monetary Theory」の正しい訳は「現代貨幣理論」以外考えられないので、啞然としてしまいました。素人を煙に巻くような「経済屋」が跋扈する日本の退廃した知的状況を象徴していると思います。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« MMTの変わり種・モスラーの『... | トップ | MMTの変わり種・モスラーの『... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事