醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  941号  白井一道

2018-12-19 12:49:17 | 随筆・小説


  ポスト・真実の時代


侘助 今年もポスト真実が蔓延したね。
呑助 ポストモダンという言葉は聞いたことがありますがね。
侘助 ポストトゥルースという言葉が2016年ごろから流行ってきたようなんだ。
呑助 アメリカ・トランプ大統領自身がポストトゥルースだということなんですか。
侘助 オックスフォード英語辞典は2016年を象徴する「今年の単語(ワード・オブ・ザ・イヤー)」に、「ポスト・トゥルース(ポスト真実)」を選んでいる。トランプ氏がアメリカ大統領に就任したのは2017年1月だったから、ポストトゥルースの結果だったのかもしれない。
呑助 ポストトゥルースとは、どのようなことをいうんですか。
侘助 世論は客観的な事実に基づく情報よりも一人一人の感情に訴える情報よって作られるということなのかな。
呑助 SNSの普及によって事実を確認しない情報が蔓延したということなんですかね。
侘助 そのようなこともあるだろう。しかしもっと深刻な問題もある。私は栗山尚一著『外交証言録 沖縄返還・日中国交正常化・日米「密約」』を読んだ。この中で後に外務省事務次官になった栗山は尖閣諸島帰属の問題について田中角栄総理大臣と中国周恩来首相の間で棚上げする、触れない、後の世代に任せるということで話合いが成立したと述べていた。栗山は当時条約課長として中国事務方と直接交渉した事務官だった。にもかかわらず後の外務省はこのような事実はないと言った。フェイクニュースが日本国内に出回り、反中国の世論が日本を覆った。これなどポスト・真実の世論だった。
呑助 そういえば、事前の予想に反した結果が出た出来事がありましたね。例えばイギリスのEU離脱なんかもそうでしたね。
侘助 イギリス支配層の意に反する結果がEU離脱だったんだろうね。イギリスがEUから離脱してしまえばイギリス支配層のヨーロッパ各国に対するイギリスの影響力が著しく弱まるだろうからね。
呑助 アイルランドとの紛争が再燃しないとも限らないでしょうしね。
侘助 トランプ氏がクリントン氏に勝利すると予測した人は少なかったようだからね。個人の感情に訴える情報が大衆の心をつかんだときトランプ大統領が誕生した。
呑助 安倍一強政治というのもポスト・真実の結果なんですかね。
侘助 そうかもしれないな。安倍総理は沖縄の民意に寄り添い辺野古の海を埋め立て、米軍基地建設を日本の税金で作ろうとしている。沖縄の民意は辺野古に米軍基地を作るにあると考えているようだ。安倍総理が考える沖縄の民意はポスト・真実だ。アメリカも日本もイギリスもフランスもポスト・真実の時代にあるのかもしれないな。
呑助 消費税を10%にするというのもポスト・真実ですよ。日本の国民が消費税を10%に上げてほしいというのはポスト・真実ですよ。
侘助 国会答弁を「ごはん論争」だと女性の大学教授が言った。「ごはん、食べてきましたか」「いや、食べていません」。「なぜ、ごはんを食べていないというんですか」。「ごはんを食べてきましたかと、問われたので食べていませんと答えました」。「朝は何も食べていないんですか」「いや、パンを食べてきました」。このような問答もまたポスト・真実なのかもしれない。

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