世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●4千年の歴史と先進国、途上国の顔を持つ国・中国(1)

2019年01月19日 | 日記

 

「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか
クリエーター情報なし
PHP研究所


●4千年の歴史と先進国、途上国の顔を持つ国・中国(1)


習近平の実験国家、中国を本当に理解するのは、ほとんど不可能に近い。識者ぶった連中の間でも、意見は分かれる。そのほとんどが、個人的感情論に基づく観察眼で、現在の中国を観察するのだから、読者の側もリテラシーが求められる。現実の中国を目で確かめると云っても不可能に近い。9,572,900km2の国土、世界3位を占め、13億8千万の人口を抱えているのだから、簡単に中国全体を語れる人物は、きっと詐欺師のような人物だろう。

高橋洋一、長谷川幸洋など嫌中的人物の中国評は読む意味がないが、まあニュートラルかもしれないと思える大前研一、近藤大介、関辰一3氏のコラム、レポートを参考引用した。引用が長く、読むだけでも大変なので、今夜は、3氏の参考意見を以下に引用掲載するだけに留める。

ひと言添えれば、これだけ急速に、経済成長を成し遂げ、近代化に向かう中国には、潜在リスクはつきものと考えていいだろう。アメリカの傘の下で経済成長を成し遂げた日本の何倍も、危険を孕んでいるのは事実だろう。習近平も、その危険は承知しているだろうが、市場原理主義を受け入れた以上、メリットと同時に抱えるデメリットなことは、百も承知だと考えられる。習近平にしてみれば、これだけ雨後の筍と起業されるのだから、それら企業は、玉石混交だと認識している。

公式経済指標の10倍のリスクはあるだろうが、それをカバーする産業全体の新陳代謝があれば、経済成長率が一時3%台に落ち込もうと、成長が維持されていれば問題ないと考えているのではないか。なんといっても、まだ国民に活力、渇望感や成長への貪欲さが残っている。社会主義と市場原理主義的経済のドッキングは、目からうろこだ。この実験国家が、成功するかどうか、実際は、世界各国が見守っている可能性も大いにある。

民主的国家体制で、四苦八苦して、帳尻を合わせながら市場経済を取り入れている国から見れば、中国のそれは、脱法行為、良いとこ取りに見えてくる。しかし、その中国が成功するとなると、民主主義国家の経済と社会主義国家の経済も出るが、あらためて問われることもあり得るわけで、中国の実験的経済行為は、非常に興味深い。

一国二制度にせよ、奇異な考えを平気で行える中国人の行動様式は、虚栄と虚構に明け暮れる日本よりは、数段活力に満ちている。だから、右に倣えとは思わない。中国の生き方があり、日本の生き方がある。そういうことだと思う。この判断しづらい実験国家の本質を見極めることは、日本にとっても、相当重大な外交政策の肝になることは間違いない。



≪新旧の中国が混在 実態は「United States of China」
 映画『ロボコップ』のように、犯罪者を瞬時に見つけ出す「顔認証サングラス」をかけた警官。無人スーパーに自動運転バス。いま中国では、タブーなき実験が次々に進められている。新たな世界を創るのか、それとも危険な暴走に終わるのか。大前研一氏が解説する。

 * * *

 中国は、政治的には北京中心の全体主義国家である。だが、経済的には地方や地域や都市ごとのバラエティが非常に豊かで、画一的に「これが中国だ」とは全く言えない。21世紀の新しい中国と20世紀の古い中国が混在し、いわば「United States of America」に近い、地方自治が進んだ「United States of China」になっているのだ。

 新しい中国の代表的な例は、広東省の深セン、北京の中関村、浙江省の杭州などである。なかでも、先頭を走っているのが深センだ。1980年にトウ小平の「改革開放政策」を担う最初の経済特区の一つに指定された時は人口30万人の漁業を中心とする“寒村”にすぎなかった。それが加速度的に発展して今や「中国のシリコンバレー」と呼ばれる人口1400万人の巨大な知識集約型IT都市になっている。

 当初は香港と隣接(電車で約40分)していながら中国本土の安価な労働力を利用できるため、主に香港企業が労働集約型の組み立て工場を展開しているだけだった。今でこそ香港最大の企業集団となった長江グループを率いる李嘉誠氏も、かつてはここで香港フラワー(ビニール製やプラスチック製の安っぽい造花)を作っていた。

 しかし、その後、中国の通信機器メーカー・ファーウェイ(華為技術)や台湾のEMS(電子機器受託生産)企業・鴻海精密工業傘下のフォックスコン(鴻海科技/富士康科技)などが進出し、1990年代後半から急成長した。それに伴い深センもIT関連の起業やインキュベーション(事業の創出や創業を支援するサービスや活動のこと)の拠点として労働集約型産業から知識集約型産業に進化し、世界有数の最先端IT都市へと大変貌を遂げたのである。

 これほど深センが飛躍した原動力の一つは“中国版ナスダック”や“チャイネクスト”と呼ばれる深セン証券取引所のベンチャー企業向け市場「創業板」だ。これを上海ではなく深センに置いたことで、ベンチャーキャピタルが深センに根付いたのである。

 今や深センでは1兆円を超えるベンチャーキャピタルがいくつも生まれ、1週間で500以上の起業案件を処理しているとも言われる。実際、2016年の新規企業登録数は中国トップの約38万7000社に達し、深セン証券取引所の2017年のIPO(新規公開株)数は222社で世界一だ。ちなみに日本の2016年の新規企業登録は約12万8000社、2017年のIPO数は86社。深センは都市なのに、新規企業登録数もIPO数も日本一国より、はるかに多いのである。

 そういう環境の中で、ファーウェイやSNS中国最大手のテンセント、民間金融の中国平安保険、ドローン世界最大手のDJI、通信設備・通信端末メーカーのZTEといった深センに本社を置く企業が急成長し、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業)も14社を数える。その結果、すでに深センの1人あたりGDPは国内主要都市中トップになって台湾をも追い抜いている。コンテナ取扱量も上海、シンガポールに次いで世界第3位だ。

 また、今や本家シリコンバレーの研究開発は事実上、ほとんど深センでやらざるを得なくなっている。なぜなら、斬新なアイデアを考えついても、シリコンバレーにはそれを形にできる部品もスキルもないからだ。

◆“カエル跳び”で進化
 かたや深センでは、世界最大の電気街「華強北」や部品業者が集積して電子部品のサプライチェーンを形成し、あらゆる電子部品を調達して試作品を半日で作ることができる。だから、パソコン、スマートフォン、ドローン、ロボット、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)・複合現実(MR)などの分野で新しいものを研究開発するとなったら、世界でも深センしかないという状況になっているのだ。

 さらに深センでは、EV(電気自動車)のバスやタクシーの導入、自動運転バスの実験、AIを活用した信号制御・交通整理、大学試験会場での顔認証、無人スーパー・無人コンビニ・無人カラオケ・無人フィットネスクラブといった社会実験・社会実装を積極的に展開し、都市全体がリープフロッグ(カエル跳び)で進化している。

 北京の中関村は、もともと秋葉原のような電子製品街としても有名だったが、中国最大のIT企業・連想集団(レノボ)をはじめ多数のIT産業や研究所が集積し、北京大学や清華大学との合弁企業や合作企業が何百社もある。

 杭州はeコマース中国最大手アリババの本社所在地で、同社出身の起業家が多い。これまで中国はシリコンバレーで生まれた新技術をパクっていたが、もはやそういう時代ではなくなり、シリコンバレーから中国に来て研究開発を一緒にやっていくというパターンが主流になっている。

 現に、2016年の中国人留学生の出国者数は約54万人で、帰国者数は約43万人。かつてはアメリカなどの留学先にとどまる若者が多かったが、近年は帰国して祖国のために働く「ウミガメ派」が増加している。そういう人たちが一獲千金を目指して続々と起業しているのだ。

 一方、古い中国は東北三省や四川省などが、アメリカのラストベルト(錆びついた工業地帯)と同様に新しい産業が生まれず、古い製造業が低迷してもがいている。たとえば、中国には鉄鋼メーカーが100社くらいあるが、国内需要が大幅に冷え込んで、もはやつぶすか統合するしかないという窮地に追い込まれている。しかし、その大半が国有会社や共産党の地方組織と癒着している会社なので、つぶすにつぶせないのである。これを整理・始末するのは非常に大変だと思う。 ※SAPIO2018年9・10月号
 ≫(NEWSポストセブン)


 ≪ 中国は先進国か、発展途上国か…正月の北京で見つけたひとつの答え
この国は「21世紀の実験国家」なのか

■中国は先進国なのか
:正月は、今年も北京で過ごした。この習慣がついてから、はや27年になる。時にマイナス14度まで下がった極寒烈風の街を彷徨いながら、今回、私の脳裏には、常に一つの疑問が離れなかった。
:「中国はいったい、先進国なのか? それとも発展途上国なのか?」
:なぜこんな愚問を発していたかと言えば、それは元日に中国との国交正常化40周年を迎えたアメリカが、この曖昧模糊とした大国をどう捉えているのかが、気になったからである。

:もっとも、40周年の派手な記念式典などは執り行われず、代わりに7日から、ジェフリー・ゲリッシュ米通商代表部(USTR)次席代表を代表とするしかめ面をした貿易交渉代表団が、北京へ来ている。アメリカ側は、3月1日までに交渉がまとまらなければ、昨年9月24日に2000億ドル分の中国製品にかけた10%の追加関税を、25%に引き上げるとしている。

:米中関係の行方は、このコラムの主要テーマの一つであり、今年も中国の立場から存分に書いていくつもりだが、いまの米トランプ政権の面々は、「新冷戦」とも言われる相手のことを、どう考えているのだろう? 中国は、「21世紀のソ連」なのか? それとも、もっと別な存在なのか?

:この問いは、中国側からも発せられるべきものだ。習近平政権は、中国をどこへ向かわせようとしているのか? アメリカに取って代わる「21世紀の覇権国」なのか? それとも、ただやみくもに膨張しているのか? そもそも、中国の成長はそろそろ終わりに差しかかっていないのか?

:かつて温家宝前首相は、毎年9月に中国で開かれる「夏のダボス会議」の非公式の席で、欧米の指導者たちを前に、こう述べたことがある。

■「中国とは、10%のヨーロッパと、90%のアフリカだ」
:その意味するところは、北京や上海などの大都市は、すでに先進国と変わらないが、地方へ行くと、まるでアフリカの国々のような状況だということだ。 だが、この発言からすでに約10年が経過し、中国はその間に日本を追い越して、世界第2の経済大国にのし上がった。私は地方都市へも足を伸ばすが、地方都市もこの10年で、大きく様変わりした。

:中国の現状について、いまの習近平政権の公式見解は、「中国は世界最大の発展途上国である」というものだ。これには、二つの意味があると、私は解釈している。
:一つは、ハード面で発展途上だということだ。なぜなら、習近平政権が掲げる「3つの短期目標」の一つ、「脱貧攻堅」(貧困との戦い)に、まだ勝利していないからだ。

:いまからちょうど一年前、習近平主席は、「中国には貧困層が、いまだ3000万人いる」として、「これから毎年1000万人ずつ減らしていき、3年で貧困ゼロにする」と宣言した。この公約が実現すれば、2021年の年初には、貧困層はゼロになる。中国4000年の歴史で、「脱貧困」に成功した政権はないから、2021年の中国共産党創建100周年を、誇らしく迎えようという思惑なのだ。

:もしかしたら、その時に初めて、「わが国は先進国入りした」と唱えるのかもしれない。ちなみに、世界銀行(WB)は発展途上国と先進国の境界線を、一人当たりのGNI(国民総所得)1万2235ドルのラインで引いているが、2017年の時点で中国は1万6760ドルに達している。

:もう一つの意味は、ソフト面で発展途上だということだ。都市部にせよ農村部にせよ、「国民の民度」がいまだ先進国のレベルに達していない。俗に言うなら、いわゆる先進国の国民としての自覚、道徳、マナーなどがまだ不十分だということだ。

:これは、鶏が先か卵が先かという議論に似ている。中国は国民に政治的な自由を与えていないのだから、国民が国家から「自立」できないのは仕方がない。ではいつ、政治的な自由を与えるのかと言えば、現政権は「習近平新時代の中国の特色ある社会主義を堅持する」と標榜しているのだから、そんな気は毛頭ない。

:また習近平主席は、昨年3月に憲法を改正し、国家主席の任期を取っ払ってしまい、半永久政権を目指している。
:では中国は、社会主義国家として初めての先進国になるのか? 換言すれば、中国人は、政治的自由が与えられない初めての先進国国民となるのか? そのあたりは、そもそも先進国とは何ぞやという議論になっていくので、何とも言えない。

:だが長年、中国を定点観測している私から見て、中国人の意識形態が、この10年で飛躍的に向上したのは事実だ。昨年は、推定で延べ約1億4000万人も海外旅行(香港・マカオ・台湾を含む)に出ているのだから(文化観光部は上半期で7131万人と発表している)、中国人はもはや「井の中の蛙」ではない。

■国家博物館にできた長蛇の列
元旦の早朝、天安門広場に出かけた。気温マイナス12度で、立っていられないほど寒かった。
:日本では、初日の出は全国津々浦々で拝んでいるが、中国では、特に北京では、天安門広場に限る。それは、初日の出と「五星紅旗(国旗)掲揚式」が、ワンセットになっているからだ。
:7時36分、100万人を収容できる天安門広場の故宮側で、人民解放軍の精鋭部隊が、巨大な国旗を空に放ち、国歌演奏とともに旗を上げていった。
:この朝、広場に集まった約10万人もの「老百姓」(ラオバイシン=中国の庶民)たちが、2分7秒に及ぶ軍人たちの雄姿を拝みながら、「新年快楽、恭喜発財!」(新年おめでとう、儲かりますように)と願をかけたのだった。

:例年なら、広場に巨大な「五星紅旗」が靡けば、「老百姓」たちは三々五々帰っていく。だが、今年は少なからぬ人々が、そのまま広場東手の国家博物館に長い列を作った。彼らのお目当ては、開催中の大型展覧会「偉大な変革――祝福改革開放40周年」の参観だった。

:この中国を代表する博物館は、習近平主席と縁が深い。もともとは中国歴史博物館と言って、中国の悠久の歴史文物を展示する博物館だった。それを国家副主席時代の習近平が、大々的にリニューアルさせて、2011年3月に国家博物館としてオープンした。

:私は、リニューアル後に足を運んで、以前とはまるで異なる博物館に様変わりしてしまったことに驚いたものだ。
:具体的には、北京原人の時代から中国共産党ができるまでの歴史は、すべて「古代」として地下に押し込んでしまった。代わりに1階のメインスペースを「偉大なる中国共産党の歴史」の展示にしてしまったのだ。
:とはいっても、悠久の中国史に比せば共産党の歴史など100年にも満たないので、「毛沢東の山上の垂訓」などの革命画を多数展示することで、均衡を保っている。

:そんな巨大な国家博物館を、昨年11月13日から今年3月20日まで、ほぼ全館を、改革開放40周年の記念展覧に臨時改装してしまったのだ。展覧会初日には、習近平主席も、共産党の「トップ7」(外遊中の李克強首相を除く)プラス王岐山副主席を引き連れて、観覧に訪れた。

:そこでも習主席は長い訓辞を垂れたが、要は、「改革開放は共産党の堅強な指導のもとで達成されたものであり、われわれも新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導を堅持し、中国の特色ある社会主義に美しい明日をもたらすようにするのだ」という内容だった

:先月のこのコラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59138)で記したように、1978年12月18日から22日まで開かれた中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で、鄧小平が中心となり、改革開放政策を採択した。それまでの文化大革命の極左路線を修正したことで、中国の「奇跡の経済成長」が始まったのだ。

:中国は昨年末から、国を挙げて「改革開放40周年」を盛り上げている。今回、北京へ行ってテレビをつけると、どのチャンネルでも「改革開放40周年記念ドラマ」を放映していた。合計で何百本、この手のドラマを撮ったのかは不明だが、どれも内容は大同小異で、貧しかった家庭や職場の生活が、40年で激変していく様を描いている。

:それらを見ていると、確かに昔の風景や生活は懐かしいし、右肩上がりのストーリーというのは、胸がスカッとするものだ。というわけで、中国経済が急速に下降局面に向かっている中で、習近平政権としては、格好の宣伝材料にしているのである。

■あるエリート銀行員の嘆き
極寒の中、私も「老百姓」に混じって、約1時間半も長蛇の列に並んだ。 その間、彼らの様子を観察していたが、以前に較べて、着ているものが格段によくなった。一昔前まで、近くに寄ると、ひと冬洗わないオーバーの臭いが、必ずプーンと鼻を突いてきたものだが、いまは3割くらいまで臭う確率が減った。

:それどころか、いま北京の若者たちの間で最も流行しているのは、なんと、カナダグースである。
:「北京の原宿」こと三里屯に、カナダグースの旗艦店が、12月29日にオープンした。本来なら、15日にオープンし、カナダの観光大臣も訪中予定だったが、例の華為技術(ファーウェイ)孟晩舟副会長逮捕事件で中国とカナダの関係が悪化したため、延期したのだ(店側は工事のためと説明している)。

:私もこの店を訪れてみたが、「人山人海」(黒山の人だかり)とは、まさにこのことである。いまの中国では、服はネット通販で買うという習慣が定着しているので、三里屯のファッションブランドは、ユニクロも含めて苦戦を強いられているのだが、カナダグースだけは例外だった。一番人気のオーバージャケットは、8200元(約13万円)もするというのに、飛ぶように売れていた。 「九〇後」(ジウリンホウ=1990年代生まれ)や「九五後」(ジウウーホウ=1995年~1999年生まれ)と呼ばれる若者たちにとっては、華為問題などどうでもよいのだ。親の世代は、「熱心にカネを貯める世代」だったが、彼らは、「熱心にカネを使う世代」なのである。

:国家博物館の脇で長蛇の列を作っているうちに、前方に立つ若い地元カップルと、すっかり打ち解けた。青年はエリート銀行員(25歳)、女性は大学院生(23歳)だという。彼にいまの景気について聞くと、眉を顰めて答えた。

:「景気は悪いなんていうものではありません。私の支店では、取引している約130社のうち、約50社が昨年、経営危機に陥りました。われわれは、中小零細企業に貸し渋りや貸し剥がしをしていると非難されますが、経営危機に陥りそうな企業に、どうして融資しますか? いま銀行員の間で流行っている言葉があります。『2019年の中国経済は、金融危機後の10年で最悪の年になるだろう。かつ、今後10年で最良の年になるだろう』」

:彼はそう言って、青年に似合わぬシニカルな薄笑いを浮かべた。やはり米国との貿易戦争が、中国経済に暗い影を落としているのである。
:この銀行員の青年は、もう一つ、銀行員の間で出回っているという「2019年に守るべき10ヵ条」を教えてくれた。

1. 現金、美金(アメリカドル)、黄金の「三金」を大事にしろ
2. 辞職するな、創業するな、投資するな
3. 日常の消費に回帰し、大きな買い物をするな
4. 身体を鍛えて、病気にならないようにしろ
5. スマホのサラ金には手を出すな
6. 感情を抑制し、配偶者や職場の上司とケンカするな
7. 人混みには近寄るな
8. マイホームを買うな、売るな
9. 株に手を出すな
10. 外食を控えて自炊せよ

:「要は、これからやってくる長期不況時代に備えて、守りに入れということです。私の親や先輩の時代は、右肩上がりしか知らないイケイケの時代を謳歌してきましたが、もうそんな華やかな時代は終わったということです」(同銀行員)

■習近平政権の景気浮揚策
たしかに、2018年の中国経済は、見るも悲惨な状況だった。
:上海総合指数(平均株価)は24%下落。11月の新規輸出実績は前年同期比47%。1月から11月の固定資産投資は5.9%と、過去20年で最低。消費の動向を示す新車販売台数も、1月から11月で前年同期比マイナス1.7%の2542万台で、通年でも1992年以来のマイナスとなった模様だ。

:消費動向を示すもう一つの指標であるマンション契約件数も、首都・北京でさえ前年比マイナス4.27%の4万2994軒だった。中国経済を牽引する「三頭馬車」と呼ばれる輸出・投資・消費とも振るわないのである。
:こうした事態を受けて、中国政府は元日から、個人所得税の大型減税を始めた。家賃、養育費、教育費、介護費、病気代について、所得税から一部控除するというものだ。さらに、月収3500元(約5万5200円)から始まっていた個人所得税の徴収を、月収5000元(約7万9000円)からに引き上げるという減免措置を、予定より3ヵ月前倒しして、昨年10月1日から実施している(個人所得税法実施条例25条)。

:中国では、改革開放初期の1980年に、個人所得税法を定めた。だが一般に所得税が始まったのは、1994年に個人所得税法実施条例が定まってからで、当時は月収850元(約1万3400円)以上が対象だった。
:以後、増税はあっても減税というのは、ほとんど前例がない。それだけに習近平政権は、「庶民のための減税措置」を、大々的にアピールしている。

:実際はどうなのかと、眼前の銀行員に聞いてみた。 「まあ、ないよりはマシという程度ですかね。例えば、私が住むマンションの大家は、『家賃控除を申請するなら、その分家賃を上げる』と、早くも言い出しています(中国の賃貸住宅は一年毎の契約が主流)。借主が家賃控除を申請すると、大家の税金負担が増えるシステムだからです」

:習近平政権はまた、企業に対する減税も視野に入れており、「GDPの1%の大型減税」への期待が高まっている。例えば、現行の法人税は税率が25%で、中国政府は年3.5兆元(約55兆円)の税収を得ているが、これを仮に20%に減税したら、7000億元(約11兆円)の景気浮揚策になるという。

:さらに期待がかかるのが、増値税(日本の消費税に相当)の減税だ。現行では、普通物品などに17%、農産品や水、天然ガスなどに11%、金融・サービス品などに6%の増値税が賦課されている。だが、これらを引き下げることによって、企業収益の回復が見込まれる。

:だが、そもそも論で言うなら、社会主義というのは、「税金のない国」だったはずだ。それが改革開放政策を進めるにつれ、1993年に憲法を改正し、「国家は社会主義市場経済を実行する」(第15条)と定めた。そこから中国は、資本主義国を凌駕する税金大国と化していったのだ。

■40年の中国の進歩
ようやく長蛇の列が、国家博物館の手荷物検査のところまで辿り着いた。実は地下鉄の出口、列の入口に次ぐ3度目の検査で、今度は本格的にカバンや着ている服などをまさぐられ、ペンと目薬を没収されてしまった。ペンは武器になり、液体は爆発物になるリスクがあるのだとか。

:建物の正門をくぐると、「偉大的変革」(偉大な変革)という黄色の5文字が巨大な紅いパネルに書かれていて、度肝を抜く。
:すっかり並び疲れた「老百姓」たちは、5文字をバックにして、記念撮影に余念がない。ちなみにその左右の標語は、「習近平同志を核心とする党中央の周囲に緊密に団結しよう」(左側)、「新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を奪取しよう」(右側)となっていた。

:巨大な博物館の館内には、多くの「老百姓」が入っていた。大別すると、第一に、昔を懐かしむ老夫婦や元職場の退職組、第二に、子供に教えようとする教育熱心な親子連れ、第三に、共産党の教えに比較的忠実な国有企業などの若手社員やカップル、という人々が多いように見受けられた。

:展示の内容は、国家博物館のHPでも見られるので、興味のある方は開けてみてほしい。

:展示は、第一展区「偉大な変革」、第二展区「壮美な章篇」、第三展区「重要な選択」、第四展区「歴史の巨変」、第五展区「大国の気象」、第六展区「未来に向かって」となっていた。順に、鄧小平時代、江沢民時代、胡錦濤時代、習近平時代の中国の発展を、多くの文物や資料、統計などをもとに振り返る展示だ。

:私は、どこぞやの地方の団体の後ろにくっつき、女性の案内員のマイクの声を聞きながら回った。GDP225倍、貿易額1350倍、都市部住民の収入106倍……。たしかに、大したものだ。
:40年前からの家庭内の様子や、着ていた服なども展示してあったが、本当に中国人の生活は、別の国の人のようになった。これを見ると、まあいまは多少、不景気だが、昔に較べればマシだわと思えてしまう。
:ただ一つ気になったのは、後半からは習近平政権が、いかに改革開放政策を継承して飛躍的な発展を遂げさせたかに力点が置かれていたことだった。そもそも習近平主席のパネル写真だけが巨大なのだ。
:つまり一通り見終わると、40年の中国の進歩とともに、習近平政権の正統性をも再認識するような展示になっているのだ。
:国内の経済発展ばかりか、宇宙開発、海底開発、軍事増強……改革開放41年目の2019年、中国は未知なる船出に出ようとしている。それがアメリカとの「新冷戦」なのか、2大国共栄共存の時代なのかは、まだ見通せない。
:少なくとも、中国は先進国でもなく発展途上国でもなく、独特の「21世紀の実験国家」のような気がする。
 ≫(現代ビジネス:国際・近藤大介)


 ≪ 中国は5年以内に"隠れ不良債権"で壊れる
バブル崩壊が起きる可能性は40%
世界第2位の経済大国として米国に迫りつつある中国。だが、そこには「罠」がある。日本総研の関辰一副主任研究員は「中国の公式統計は信憑性に欠ける。推計では公式統計の約10倍の潜在的な不良債権があり、5年以内に金融危機が発生する可能性が40%ほどある」と指摘する。中国の公式統計に潜む「3つの問題点」とは――。
■不良債権の推計額は公式統計の約10倍
:金融は各種の経済活動を下支えする社会インフラであるがゆえに、容易に経済と社会の危機を誘発する導火線にもなる。経済成長を続け、GDPでは日本を抜き去り、米国に迫る中国経済の「罠」とは、水面下で金融リスクが大きく高まったことである。金融リスクの核心が不良債権問題であるため、その実態に迫った。後述するように中国の公式統計は信頼性に欠けると思われる点がいくつもあるからだ。

:中国の不良債権の実態を知るために、筆者は中国上場企業2000社余りの財務データを基に、中国の潜在的な不良債権の規模を推計した。結論を先に述べれば、推計額は公式の不良債権残高統計の約10倍となった。中国の不良債権問題は深刻であり、何らかのきっかけで金融危機が発生する可能性は払拭できない。

:不良債権とは、一般的に、金融機関にとって約定どおりの返済や利息支払いが受けられなくなった債権、あるいはそれに類する債権を指す。中国では、金融機関がリスクを軽視した融資審査のもと、過剰な融資を行ってきた。利息の支払い余力が不十分な企業に対しても、追加で資金を貸し続けているケースも多い。その結果、金融機関は巨額な不良債権を抱えるようになったとみられる。

■公式統計に潜む3つの問題点
:しかし、中国の不良債権の実態は不透明だ。公式統計に実態が十分に反映されていない。銀行業監督管理委員会(銀監会)の公式統計によると、2015年末の商業銀行の不良債権比率は1.7%、不良債権残高は1兆2744億元(1元=約16円)にとどまる。公式統計の問題点は、大きく3つ挙げられる。

:第1に、金融機関が「借新還旧」「降低不良貸款認定標準」のような手法によって、本来不良債権として計上すべき貸出債権を、問題のない債権とみなすケースが存在している。借新還旧とは、企業が新たに銀行から借り入れることによって古い借入を返済すること、いわゆるロールオーバーのことである。降低不良貸款認定標準とは、不良債権の認定基準を引き下げるということだが、言語道断と思われるこうした方法がまかり通っている。

:第2に、オフバランス与信(金融機関のバランスシートに載らない与信)、いわゆるシャドーバンキングが公式統計の対象から漏れている。一般的にシャドーバンキングは、銀行融資以外のルートで資金を融通する信用仲介機能である。その規模が歯止めなく膨張し、銀行自身も深くかかわっているために、システミック・リスクを引き起こしかねない。ここでは、「銀行理財商品」と「委託融資」、「信託融資」の3つをシャドーバンキングとして扱う。

:銀行理財商品とは、銀行が個人や企業向けに販売するリスクの高い金融商品の一つであり、預金よりも高利回りが期待できるため、人気が高い。政府が不動産や石炭など過剰生産が問題となっているセクターに対して融資規制を強めると、銀行はこれらのセクター向けの融資を縮小する代わりに、銀行理財商品で資金を集め、オフバランス(簿外取引)勘定を通じてこれらのセクターに資金を融通した。結果的に、銀行は自らのバランスシート上の融資資産を、銀行理財商品の投資家に移転してきた。

:問題は、銀行が理財商品に対して「暗黙の保証」を与えていることだ。本来であれば、銀行理財商品がデフォルトすると投資家に損失が生じる。しかし、実際には銀行が投資家に対して損失補てんを行っている。もし、何かしらのショックによって景気が大きく悪化し、銀行理財商品のデフォルトが多発すると、それを多く扱ってきた銀行ほど、経営が悪化することになる。

:企業から企業への融資を、銀行が仲介している :委託融資は、銀行を仲介役として企業が他の企業へ貸し付けを行うことであり、本来であれば企業が融資条件を決めて銀行に委託するものの、実態的には銀行が貸付先や用途、金額、金利などを決める。このように、委託融資も実質的には融資資産を銀行のバランスシートから企業のバランスシートに移転するものである。

:銀行が融資資産を信託会社のバランスシートに移すなか、信託融資も急拡大してきた。3つのいずれの形態も、銀行自身が深く関わっているだけに、それらによって仲介された資金の返済が滞ると、銀行に損失が発生する可能性が高い。

:第3に、当局が金融機関に不良債権の認定基準を守らせ、十分な監督責任を果たしているか疑問である。2017年まで、銀行の監督管理を担う機関は、中国人民銀行と銀監会であった。金融機関は銀監会に対して、定期的に不良債権額などの経営状況を報告することになっていた。必要に応じて、銀監会は金融機関に対してより詳細な検査を行うことになっていた。

:もし、この仕組みがきちんと機能していれば、不良債権比率の公式統計はより高い数字になっていたとみられる。中国において、金融監督当局と金融機関の距離感は、往々にして近くなりすぎる。なお、2018年3月には、金融監督の強化をねらいに、銀監会は保険監督管理委員会と合併した。さらに、現行の体制では十分にリスク・コントロールできないという認識のもと、金融安定発展委員会が新設された。

:すなわち、銀行の不良債権の認定基準が緩くなれば、公式の不良債権比率は低下する。また、銀行の不良債権がシャドーバンキングに移し替えられても同じだ。

■2327社のうち223社が「潜在的に危険な企業」
:そこで以下では、本業で稼ぎだすキャッシュを意味する営業キャッシュフローによって支払利息を賄えるかどうかを基準に、独自に「潜在不良債権比率」を推計した。まず、全上場企業の社数は、筆者の集計作業がまとまった2016年5月17日時点で2850社であった。全企業の2015年の財務データを整理すると、借入金および支払利息のある上場非金融企業は2327社であり、この2327社の借入金合計は8兆5499億元であった。

:次に、安全な企業と「潜在的に危険な企業」に仕分けした。その際、1年間の広義の営業キャッシュフローであるEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)が、同年の支払利息を下回る企業を潜在的に危険な企業と定義すると、2327社のうち223社が「潜在的に危険な企業」に分類された。

:この223社の借入金が返済能力面からみた「潜在的に危険な借入金」であり、合計すると7367億元となった。最後に、2327社の借入金総額に対する比率を「潜在不良債権比率」として算出した。結果をみると、2015年末の潜在不良債権比率は8.6%と、公式統計の5倍にのぼる高水準であった(図表)。


 


■不良債権額は名目GDPの18.5%にも相当する
:続いて、8.6%と試算された潜在不良債権比率を使って、金融機関全体の不良債権額を推計する。公式統計の不良債権額は商業銀行のオンバランスの与信(バランスシート上に掲載されている与信)だけを対象にしたものであるが、推計では金融機関の経営破綻リスクを探るため、オフバランス与信も含めた不良債権額の試算を行った。

:まず、オンバランスの与信について、公式統計では2015年末の不良債権残高1兆2744億元、不良債権比率1.7%であり、ここから推計される2015年末の銀行融資残高は75兆元前後である。一方、中国人民銀行の「社会融資規模存量統計数据報告」によると、2015年末の人民元建て融資と外貨建て融資の合計残高は95.8兆元である。ここでは、よりカバー範囲の広い95.8兆元をオンバランスの与信残高とする。

:次に、オフバランスの与信だ。中央国債登記結算有限責任公司によると2015年末の銀行理財商品は23.5兆元、中国人民銀行によると委託融資残高は同10.9兆元、中国信託業協会によると信託業の資産管理規模は同14.7兆元である。したがって、2015年末のシャドーバンキングの規模は、これらの合計である49.1兆元という大きさになる。

:実際には、銀行のオフバランスの与信の方が回収不能となるリスクが高いとみられるものの、ここでは単純にオンバランスとオフバランスを合わせた与信総額144.9(=95.8+49.1)兆元のうち8.6%が不良債権と仮定すれば、中国の金融機関の抱える潜在的な不良債権残高は12.5兆元となる。これは、公式統計の10倍の金額であり、名目GDPの18.5%にも相当する。

■バブル崩壊が起きる可能性は40%
:では、中国経済がハードランディングする可能性はどの程度か。潜在的な不良債権が多い背景には、近年の与信急拡大がある。2011年から16年にかけて銀行融資残高の対GDP比は112%から143%へと5年間で31ポイントも高まった。銀行のオフバランスの与信拡大を加えれば、この数字はさらに高まる。

:これまでの先行研究で、与信の拡大ペースが経済規模に対して速すぎると、金融危機に陥りやすいことがわかっている。IMFの研究によると、これまで全世界において過去5年間で総与信の対GDP比が30%ポイント以上高まった国はのべ42カ国あった。その内18カ国が5年以内に金融危機を伴うハードランディングに陥ったという。

:つまり、中国と同等の与信膨張がみられた42カ国のうち、18カ国、割合にして43%の国で金融危機が発生した。したがって、筆者は中国で5年以内にバブル崩壊による景気失速がみられる可能性は40%と見ている。

:もし、うわさや一部の金融機関の破綻が取り付け騒ぎなどによって連鎖しだすと、金融危機が発生しかねない。実際、近年には債務超過に陥る中小金融機関が出現し、取り付け騒ぎも複数回発生した。そうした状況下では、銀行間の資金の貸し借りがスムーズになされない状況が発生することで、銀行から企業への貸し出しも滞るようになり、やがて企業間での買掛金や売掛金による仕入れや出荷も、相互不信が強まるなかで減少する恐れがある。

:以上、検証してきたように、不良債権の実態は公式統計を大きく上回るとみられるだけに、何らかのきっかけで金融危機が発生するリスクは払拭できない。歪んだ金融システムを改めない限り、いずれ不良債権問題が中国経済の持続的な成長のボトルネックになると懸念される。

:もし中国で金融危機が発生すれば、経済成長率が現在の6~7%から3%台に低下し、労働需要が大きく減少する恐れがある。例年、中国では農村部から都市部に1000~2000万人流入するが、その受け皿がなくなってしまう。そればかりでなく、雇用調整の動きが農村から都市に流入する農村戸籍者ばかりでなく都市戸籍者(同じ中国でも戸籍は都市と農村の2種類に分かれる)に及ぶことも避けられない。数百万人規模の大失業の発生は、1949年から続いてきた共産党による一党独裁の政治体制を崩壊させる可能性すらある。

* 関辰一(せき・しんいち)
日本総合研究所副主任研究員。1981年中国・上海市生まれ。91年に来日し、家族と共に日本国籍を取得。2004年早稲田大学政治経済学部卒業、06年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。野村證券金融経済研究所などを経て、08年日本総合研究所研究員。15年から現職。18年拓殖大学博士(国際開発)。専門は中国経済・金融。「社債市場からみた中国のモラルハザード問題」日本総合研究所『環太平洋ビジネス情報RIM』2017 Vol.17 No.64など論文多数。
 ≫(PRESIDENT Oline)


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