武弘・Takehiroの部屋

万物は流転する 日一日の命
人生は 欲して成らず 成りて欲せず(ゲーテ)

明治17年・秩父革命(12)

2024年04月28日 04時09分32秒 | 戯曲・『明治17年・秩父革命』

第10場[11月4日午後、皆野にある荒川の渡し船場。 東京憲兵隊の小笠原大尉、隈元少尉、内田少尉に率いられて、憲兵隊員が進撃の用意をしている。]

隈元 「小笠原大尉、きのうは参りました。銃を撃っても、弾が飛んでいかないのですからね」

小笠原 「ハッハッハッハッハ、それは参ったろう。しかし、きょうは大丈夫だ、新品の弾薬を沢山持って来たからな」

内田 「きょうこそが、村田銃の本当の“撃ち初(ぞ)め”というやつだ。 隈元、俺達は陸軍の歴史的な日に立ち会っていると思え」

隈元 「ふむ、内田は相変らず大げさな言い方をするな。しかし、お前と一緒に村田銃の“試し撃ち”とは、同期の腐れ縁というやつだ」

内田 「ハッハッハッハ、相変らずの“減らず口”だな。どちらが腕がいいか試すには、ちょうど良い機会だ」

小笠原 「二人とも気を引き締めろ。 いいか、船場の向うにいる鉄砲隊らしき者を狙え! 全員、構えー筒(つつ)! 撃てーっ!」 (隈元、内田ら憲兵隊員が射撃。ダダダダーン、ババババーンという激しい射撃音が鳴り響く)

隈元 「すごい! 何人も倒れたぞ!」

内田 「ものすごい威力だ! みんな逃げていくぞ!」

小笠原 「よし、進撃だ! 全員、進めーっ!」(憲兵隊員、進撃を開始)

 

第11場[11月4日午後、大宮郷の南方の丘。 赤い“昇り旗”を持ち赤い鉢巻にタスキ掛け、刀を手にした自警団が、猟銃を持った30人ほどの猟師団と集結している。]

川本 「おい、みんな、いま皆野の方角で凄い射撃音がしたぞ!」

岩上 「あれは憲兵隊の一斉射撃のはずだ」

村岡 「間違いない、とうとう憲兵隊が攻撃に出たのだ」

安藤 「よし、俺達も出撃するか!」

林 「この時を待っていたのだ、暴徒どもを残らずやっつけよう!」

山中 「猟師団の皆さん、用意はいいですか?」

猟師1 「いつでもいいぞ、腕が“ムズムズ”しているところだ」

猟師2 「早く行こう、これ以上待っていられるか!」

川本 「猟師団の皆さんも異存がないようだ。それでは、我々も暴徒どもを鎮圧するために出撃しよう!」

岩上 「あいつらを背後から襲撃すれば、憲兵隊と一緒に挟み撃ちだ!」

村岡 「よし、出撃だーっ!」(「うお~っ!!」という喊声とともに、自警団と猟師団が出発。数人の猟師が空へ向って猟銃を撃つ)

 

第12場[11月4日午後、皆野の角屋旅館。 菊池、高岸、飯塚、小柏、井出らが協議している。]

小柏 「荒川の方で凄い射撃音が聞こえたが、軍隊が進撃してきたのだろうか」

高岸 「大宮郷の方でもいま銃声が上がったが・・・」

菊池 「敵が一斉に攻めてきたようだ、我々の主力部隊で戦わなければならない。迎え撃つ準備をすぐにしよう」(その時、“伝令”係りの農民が駆け込んでくる)

伝令1 「大変です! 敵の憲兵隊100人以上が荒川を渡り、いまこちらに攻めてきます。敵は強力な銃を持っており、わが軍の鉄砲隊を打ち破って進んでいるため、守備隊は総崩れとなり逃げる者が多数出ています!」

菊池 「う~む」

小柏 「参謀長、ここはいったん避難した方が良いでしょう」

飯塚 「やむを得ません、いたずらに犠牲者を出すのは得策ではありません」

高岸 「敵が強力な武器を持って攻めてきたら、いったん退いて“遊撃戦”に持ち込みましょう。今はそれしかありません」

菊池 「う~む、主力部隊で一戦も交えずに退くとは・・・」

飯塚 「大宮郷へ退いて甲大隊、丙大隊と連絡を取り、迎撃態勢を考えるしかありません」(その時、もう一人の伝令が駆け込んでくる)

伝令2 「田代総理を迎えに行ったのですが、姿が見当たりません」

菊池 「なにっ、休憩場所にいないというのか?」

伝令2 「はい、一緒にいるはずの井上会計長らの姿も見えませんでした」

井出 「そんな・・・」

飯塚 「一体、どういうことだ!」

小柏 「総理は逃げたのだ! 何の連絡もよこさずに・・・」

菊池 「何ということだ。田代総理が逃げたら、全軍を統率することが出来ないではないか! これでは四分五裂だ。やむを得ない、我々は大宮郷の方へ退くしかない。すぐに退却しよう」(菊池ら全員が角屋旅館から出ていく)

 

第13場[11月4日夕刻、皆野の郊外。 転進してきた加藤織平ら甲大隊のメンバー20数人が、退却中の高岸、井出、萩原勘次郎らに出合う。]

加藤 「おお、善吉さん、わが軍は退却しているのか?」

高岸 「そうです。敵の猛烈な追撃に遭って、残念ながら“総崩れ”になりました」

加藤 「田代総理はどうなっているのか?」

井出 「行方をくらましました」

加藤 「なに、総理はいなくなった・・・」

萩原 「はい、総理も井上さんも犬木さんも皆、どこかへ落ち延びたようです」

加藤 「そうか・・・菊池参謀長はどうしてる?」

高岸 「総理が行方をくらましたので、憤激して小人数で吉田方面へ向いました」

加藤 「ふむ、わが軍は“崩壊”したな。 これでは、どうしようもない。後は散発的に遊撃戦を起こすしかないだろう」

井出 「副総理はどうしますか?」

加藤 「仕方がない、こうなっては逃げるだけだ。ここへ来る途中、幾つもの自警団が立ち上がっていたからな」

萩原 「敵の軍隊の銃撃は凄まじいものがあり、我々も逃げるのがやっとでした」

加藤 「やむを得ない。 おい、みんな、ここで解散だ。固まっていると怪しまれるから、出来るだけバラバラになって逃げよう。 自警団に捕まらないように、諸君の幸運を祈る!」(加藤ら、三々五々に落ち延びていく)

 

第14場[11月4日の夜、金沢村の出牛(じゅうし)部落。 大野苗吉、大野又吉ら甲大隊のメンバーと500人以上の農民が集結。 日下藤吉もこの中にいる。]

苗吉 「みんな、聞いてくれ。 我々困民軍は、皆野方面で憲兵隊などから攻撃を受けた。しかし、ここには500人以上の軍勢が集結しているではないか。 ここに来る途中、我々は警察署や役場を襲って証書類を焼き捨て、金持から軍用金を沢山徴収するなど大きな戦果をあげた! 我々の動員によって、味方はこのように増えたのだ。官憲の圧力は強まっているかもしれないが、今こそ気持を改めて敵に戦いを挑もう!」

又吉 「諸君、この出牛(じゅうし)部落を過ぎると児玉町に入る。道は真っ直ぐに町役場や警察署に延びている。 さらにその先には高崎線が通っており、我々が“大攻勢”をかけるには持って来いの地域だ! たぶん、その辺には敵の軍隊が屯(たむろ)しているだろう。それこそ絶好の機会だ、敵をせん滅してやろうではないか!」

藤吉 「みなさん、我々は皆野や大宮郷で敗れたかもしれない。だから、もう後には戻れないのだ。前進して突破口を開く以外に道はない! 甲大隊の新井隊長を始め、多くの人が傷ついたり犠牲になったりしている。それらの同志の怨みを晴らすためにも、自由で平等な自治政権を樹立するためにも、最後まで断固として戦い抜こうではありませんか!」

農民達 「その通りだ!」「若いの、いいぞーっ!」「俺達も戦うぞーっ!」

苗吉 「この日下君というのは菊池参謀長の伝令係りだが、我々の部隊に来てから“止むに止まれず”戦いの渦中に身を投じたのだ。こういう勇敢な人間がいる限り、我々は決して屈服しない! 彼を見習って徹底的に戦っていこうではないか!」

農民達 「そうだ!」「俺達は屈しないぞーっ!」「徹底的に戦うぞーっ!」

苗吉 「よ~し、それでは児玉へ向けて進撃するぞ! 鉄砲隊を前にして隊列を組めーっ! シュッパーツッ!」

農民達 「出撃ーっ!」「進めーっ!」「軍隊を蹴散らせーっ!」「児玉町を占拠するぞーっ!」(全員が一斉に行進を開始)

 

第15場[11月4日の夜、児玉町の路上。 平田大尉が指揮する東京鎮台第3大隊の兵士が集結。他に地元の警察官10数人。]

警官1 「平田大尉、ごらん下さい。いま元田の方向で火の手が見えますよ」

平田 「おお、よく燃えている」

警官2 「暴徒が近づいているという情報が入っていますので、あれは単なる失火ではなく“放火”でしょう」

警官3 「間違いなく放火だ。暴徒は至る所で金貸しの家などに火を付けていますからね」

平田 「うむ、そうに違いない」

兵士1 「何か喊声のようなものが聞こえます」

兵士2 「あっ、また火の粉が舞い上がりました」

警官4 「あちこちに火を付けているのでしょう」

兵士3 「しょうがない奴らだ!」(その時、数発の銃声が聞こえる)

平田 「暴徒がこちらの方向に近づいてきたぞ! 全員、進軍の用意!」

警官1 「敵は秩父新道の下り坂を真っ直ぐに進んできています。私どもがご案内しますが、宜しいですか」

平田 「ああ、宜しくどうぞ。 全員、出発っ!」(警察官の先導で、東京鎮台兵が行進を開始)


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