MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1633 新型コロナとエナジーリスク

2020年06月01日 | 社会・経済


 ひと月以上前の記事になりますが、4月24日の日経新聞で、新型コロナの感染拡大がもたらす日本の電力エネルギーの供給リスクに関する記事を読みました。(2020.4.24「首都電源 コロナから守れ」)

 新型コロナウイルスがもたらす社会問題としてはこれまで思いが及ばなかった分野の話だったので、備忘の意味を込めて小欄に残しておきたいと思います。

 新型コロナウイルスの感染が海運などの事業継続にも影を落とす中、(日本の脆弱なエネルギー供給体制を象徴するように)ここに来て「隠れた停電リスク」が浮上してきたと記事はその冒頭に記しています。

 発電燃料の4割を依存する液化天然ガス(LNG)は、全量を中東や東南アジアなどから船で輸入している。実はこのLNGは、長期保存に向かないことから日本の備蓄量はわずか2週間分にすぎないということです。

 こうした中、都内における新型コロナウイルスの感染拡大を受け、LNG発電の最前線を死守しようと、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する火力発電最大手JERAが水際の対策を急ぎ始めたと記事はしています。

 詳しく状況を見ていきます。

 LNG火力は今や日本の電力の大黒柱。東日本大震災前、28%だった発電に占めるLNG火力の割合は、相次ぐ原子力発電所の停止で2017年度には40%まで高まった。原発は一部で再稼働し始めたものの、九州電力、四国電力、関西電力にとどまっていると記事は言います。

 日本は発電の半分近くをLNGに依存する形になり、(燃料を海上輸送に頼る)島国の日本で電源構成はいびつな状況に陥っているというのが記事の認識です。

 LNG依存にリスクが高いのは、石油と異なり備蓄が難しい点にあると記事は説明しています。LNGは、気体の天然ガスをセ氏マイナス162度に冷やした液体として海上輸送されてくる。専用のタンクに入れておいても徐々に気化してしまうため、大量の在庫を持てないのが最大の難点だということです。

 こうした理由から、(前述のとおり)日本の備蓄量はわずか2週間分程度に過ぎないと記事は指摘しています。

 中東などからLNGを日本に運ぶには、1カ月程度かかる。頻繁に往来しているため、仮に数隻が来なくなったとしてもすぐに発電の燃料不足に陥ることはないが、長期にわたり完全に途絶えると発電できなくなるということです。

 そんな中で、日本や産出国に向かうLNG輸送船の乗組員に一人でも新型コロナが発生したら、その船の輸送能力は失われてしまう。また、海外からの入国などがさらに規制されれば、円滑な輸入に支障をきたすことは避けられないという指摘もあります。

 実際、3月下旬にコロナ対策で全土を封鎖したインドはLNGを輸入できなくなったと記事はしています。日本政府はロックダウン(都市封鎖)に踏み切らないと言明しているが、感染が拡大すれば輸入に影響を及ぼす恐れもあるというのが記事の懸念するところです。

 さらに、今年は日本の電力需給が逼迫する「かなりタイミングが悪い時期」(電力関係者)だと記事は続けます。

 テロ対策施設の工事の遅れから、九州電力が3月から川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を停止しています。広島高裁が仮処分で運転差し止めを命じたことから、四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は動かせないまま。今年稼働できる原発は9基から一時的に半減する見込みで、ベースロード電源である原発に頼れない事態に直面しているということです。

 日本のエネルギー自給率は10%程度と、(お米を自給できる)食料の40%を大きく下回ることは広く知られています。しかしながら、環境問題などの観点から電力エネルギーへの依存度が確実に増え続けている中、都市生活や経済そのものを支えるベースロード電源がこれほど脆弱になっていることを知る人はそんなに多くないかもしれません。

 「脱炭素」の機運の高まりから国内の石炭火力発電に逆風が吹き、(その分)LNG依存はさらに高まる恐れがあるというのが記事の見解です。

 東電が柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を急ぐのも、「東京湾のLNG火力発電の一極集中は安定供給のリスクが大きい」(幹部)ため。新型コロナの感染拡大は電力会社や政府に対し、いかにエネルギーの燃料構成を多様化し、供給リスクに備えられるかという重い課題を突きつけているという現実を、私もこの記事から読み取ったところです。



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