小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿

2018年10月18日 11時46分34秒 | 経済


消費税を負担するのがモノやサービスを買う人なので、増税で直接ダメージを受けるのは消費者であると思いがちですが、もちろんそれだけではありません。
納税者である企業経営者(特に中小企業)も大きな打撃を受けます
経営者の数が相対的に少ないためか、そのことに私たちは、なかなか気づきにくいのです。

筆者は、藤井聡氏が編集長を務められる雑誌『クライテリオン』の臨時増刊「消費増税を凍結せよ」(11月14日発売予定)に、「消費増税の是非を問う世論調査を実行せよ」という文章を寄稿しました。
これを、フェイスブック上でお知らせしたところ、ある中小企業経営者の方(Aさんとしておきます)から、現場感覚にあふれたたいへん的確なコメントをいただきました。筆者自身、とても勉強になりました。
それを筆者なりに補足しながらまとめると、次のようになります。

(1)政府はこれまで増税分を社会保障に充てるというウソを繰り返してきたが(現実には8割を国債の償還に充てている)、そもそもこの発想自体が、社会保険料の会社負担を減らしたいという、大企業の意向を反映させたものである。
なぜなら、本来、社会保険料の財源は「本人+会社」が負担すべきものだからである。その企業が担うべき責任を「税」という形で国民に転嫁しようとする意図が、消費増税には働いている。

(2)大企業(グローバル企業)は、消費税負担の削減にとどまらず、次のような実質負担解消のシステムを構築している。
  A.下請けに価格決定権を持たせない。つまり下請け企業が、きつい労働に耐えている現場労
    働者に、それに見合う給料を払うために価格を上げようとしても、それを認めない。
  B.国際競争力維持の名目で、輸出時に税率ゼロの特例措置を受けることで、還付金を捻出
    る。
  C.現場労働者を外国人化(移民拡大!)したり派遣労働を拡大することで、下請けからの値
    上げ圧力を回避
する。
  D.人件費にかかる消費税分を控除できるようにするために、労働力をなるべく外注化する
    (つまり下請けに背負わせる)。

Aさんは、このように分析した後、自分が起業してから3年目に消費税の納税が大きな壁として立ちはだかったと自身の経験を語り、次のように述べます。
有望な会社が急に売り上げを伸ばすと、資金繰りが安定しない中で巨額の納税を強いられるので、消費税は起業家つぶしの税制でもある、と。
さらにAさんは、大企業が画期的な製品づくりができなくなったのも、かつては得られた下請けからの提案や協力が得られなくなったことが大きな要因の一つだと分析しています。
昔は大企業と下請け企業との結びつきが強く、すそ野も広かったわけですね。
そこには親会社―子会社という見えない紐帯があったために、両者の有機的な連携が可能でした。
ところが、デフレ不況に加えて、新自由主義イデオロギー(自己責任論、成果主義、規制緩和)が襲いかかったために、産業界の中間層が上層部と分断されて脱落しました。
そのため、大から小まで、企業は個別バラバラに自己の利益を捻出せざるを得なくなったわけです。

Aさんは、次のように語ります。

消費税制度の30年の歴史の中で、大企業も、廃れていく中小企業を見ながら、更に自社の利益を確保するためには消費税率のアップをはかることしか道が無くなってきたように思います。

また、次のようにも語っています。(ごく一部改変と補足)

財政拡大には、私も異論を唱えるつもりは全くありませんし、今はその道が最短かつ有効な手立てになることを確信してはいますが、消費税制度というハンデを背負ったままでは、実体経済の本来あるべき構造改革(中略)とはますますかけ離れていきます(中略)から、財政拡大が実を上げるためには、段階的かつ中長期(中略)の消費税率削減は必須だと考えています。そしてそれこそが大企業の本来あるべき収益構造の復活にもつながる道だと確信しています。

こうして、消費増税要求だけでなく、消費税制度そのものが、社会保険料の企業負担削減、移民問題、非正規労働者増加、下請けへの大企業の不当な圧力、新自由主義イデオロギーにもとづく企業の個別分断化などと、すべて連動していることがわかります。
それは、すべて、大企業の利益最大化のためのシステム作りに貢献するという仕組みになっているわけです。
しかもAさんの最後の言葉に現れているように、この利益最大化の方法さえ、笑いの止まらない独り勝ちといったイメージのものではなく、むしろ苦し紛れの自己保身によるものです。
その根底には、株主の圧力に不本意にも屈している資本家の姿があります。
別に彼らに同情はしませんが、ここにグローバル金融資本主義が極限まで進んだ、不健全で歪んだ構造が見て取れることは確かです。

つい先日、安倍首相が10%への増税の意向を固めたことが報じられました。
グローバル金融資本主義に奉仕することしか知らない安倍政権のこうした体質を見抜く政党、政治家が存在しないことを思うと、さらに暗澹とした気分になります。
しかし、増税が決定したわけではありません。まだ闘いの余地は残されています


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拙稿「消費増税の是非を問う世論調査を実行せよ」





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1 コメント

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Unknown (紳士ハム太郎)
2018-10-22 01:57:04
先日少女誘拐でTBSの特定アジア人社員が逮捕されました。
マスコミ・情報産業は政治的影響力が強く実質的に独占産業の筈です。
その業界にコリアン、チャイニーズが多いです。
国家公務員や省庁の中堅以下には多くのコリアン、チャイニーズがいます。
ちなみに安〇晋〇は父方からコリアンです。

これが今の日本の現状です。

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