どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設19年目を疾走中。

自薦ポエム㉓ 『舟賃はバラの花』

2020-07-29 00:24:58 | ポエム

五月の連休さなかに亡くなった義姉よ

あなたは最後まで自分を貫きましたね

世間が浮かれているときに

いたずらっぽい笑いを携えて逝ったのでしょうか

 

身体のあちこちに幾つもの病巣を抱え

アガリスクやフコイダンやプロポリスを飲みつづけ

霊力を持つという先生の教えを終生信じて

見事に術後十年を生き延びました

 

若い頃は小説を愛しサガンを諳んじた人よ

あなたの愛はセーヌの流れに逆らっていなかったか

巴里まで追いかけて振られた男に

夢をつなぎ過ぎたのではなかったか

 

和歌を愛でるようになって名のある夫を得た

生活の妥協はこころの反逆

家庭を顧みないからといって不満を蓄積し

偽りの芝生の上で一粒種を溺愛した

 

惚けて息子にマッチを取り上げられ

ことばの檻に閉じ込められた義姉よ

料理もできず外出もできず

あなたは人生をどのように振り返ったのか

 

落ちぶれて香典にも事欠く僕は

あなたの舟賃がわりに薔薇の花を贈ろう

三途の川の船頭は現し世から持ってきた品を検め

向こう岸へ渡してやらぬと喚くだろうか

 

そうしたら装束を脱ぎ捨てもう一度甦ろうよ

見てきた花園の美しさを語るのもいい

円のレートに一喜一憂する川守に

今度は空から彼岸入りするぞと脅してみたらいい

 

すごすごと焼き場をあとにする僕に

背後から追い抜きざまに初夏の風がささやく

なんのかんのと世迷言を並べても死は時空の穴

お前なんぞに解る「死者の書」など売ってはいないのだ

 

    

 * 「死者の書」はエジプトやチベットなどに古くから伝わる死生観を記したもの。

 

 

(『舟賃はバラの花』2014/05/04より再掲)

 


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