指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

石井輝男2本 『徳川いれずみ師・責め地獄』『やさぐれ姉御伝・総括リンチ』

2020年01月23日 | 映画
昔、石井輝男がテレビで話していたが、彼は新東宝での助監督時代、渡辺邦男の組についた。
それはエノケンの喜劇だったらしいが、撮影の休憩中に、つい「先生はなんでこんなくだらない映画を作るんですか、もう少しましな映画を作ってはどうですか」と聞いてしまった。
すると大監督の渡辺邦男が怒って、「石井、それなら俺が200本を超える映画を作ってきた理由を言ってみろ!」と怒鳴られた。
そこで石井が「先生は、モラルだけはきちんと守られているからじゃないですか」と答えると先生はにっこりして、
「そうだ、石井、俺もこんな映画は本当は作りたくないんだ」
そこで「先生の作りたい映画はなんですか」と石井は聞くと、
「マルクスの『資本論』だよ」と答えたそうだ。
渡辺は、早稲田大学時代は、後の浅沼稲次郎らと共に建設者同盟にいたマルクス主義者だったのだからおかしくはないのだ。

         

石井輝男の映画もエロ・グロ・ナンセンスだが、ラストはいつも勧善懲悪であり、モラリストなのがおかしいのだが。
『徳川いれずみ師・責め地獄』も、『やさぐれ姉御伝・総括リンチ』も、女の裸が乱舞し、サド的な暴力や凌辱が横行する。
だが、どこかユーモラスで、時には笑ってしまうものになっている。
『徳川いれずみ師・責め地獄』は、刺青師の兄弟弟子の吉田輝男と小池朝雄の戦いで、江戸から長崎に女は連れて行かれ、外人によって海外に売り飛ばされる。
ここで注目されるのは、長崎の町のカスバのような雰囲気で、石井の作品によく出てくる。
これは戦争中に石井が、中国各地を従軍した体験にもとずくエキゾシズムのように思える。

『やさぐれ姉御伝・総括リンチ』は、池玲子主演のスケバンもので、時代がよくわからないが、荒唐無稽で適当なところは石井らしい。
最後、倉庫のようなところで名和宏や遠藤達雄らと悪とのアクションが展開されるが、二階のロビーにずらりと上半身裸の女が並ぶのは、日本映画史で初めてのことだろう。
ただし、この時も一之瀬レナだけは裸にならず、別格だったのだろうか。
多くの女優が、日活ロマンポルノでも見る女優で、これは京都撮影所だが、多摩川の日活スタジオでも仕事をしていた女優はたくさんいたことが分かった。
阿佐ヶ谷ラピュタ

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