男性妊娠設定ありなので、苦手な方は閲覧なさらないでください。
「荻野さん、入りますよ?」
「お入りなさい。」
千が副長室へと入ると、彼は正座して千を待っていた。
「身体の具合はどうですか?」
「大丈夫です。それよりも、貴方と話したいことがあります。」
「僕と、話したい事ですか?」
「ええ。貴方は、未来から来た人間なのでしょう?」
千尋が自分と同じ蒼い瞳で見つめてきたので、千は胸の鼓動が少しはやまった。
「そうです。僕は、この先新選組に何が起こるのかを知っています。」
「そうですか。」
二人の間に、重苦しい空気が流れた。
「荻野さん、僕は新選組の皆さんに助けられてきました。僕はまだ、新選組の皆さんに恩を返していません。だから僕は、この先どんな事があろうとも、新選組の皆さんのお傍を離れません。」
「貴方の口からその言葉を聞けて良かったです。わたくしは家族を捨て、新選組に居場所を見つけました。」
千尋が居場所を見出したのは、新選組ではなく歳三の存在なのだろうと千は思ったが、口には出さなかった。
「貴方に、これを差し上げます。」
千尋がそう言って千に手渡したのは、いつか彼が自分に見せてくれたカメオのペンダントだった。
「お母さんの形見を、僕が受け取る訳にはいきません。」
「貴方に、受け取って欲しいのです。わたくしに万が一の事があったら、お守りとして持っていて欲しいのです。」
「わかりました・・」
千はカメオのペンダントを千尋から受け取ると、それを懐にしまった。
「失礼します。」
千が副長室から出ると、そこへ斎藤が通りかかった。
「千、荻野君とは何を話していた?」
「ちょっとしたお話をしました。それよりも沖田さんの様子はどうなのですか?」
「一進一退、といったところだ。」
「そうですか・・」
総司は歳三の子を宿している上に、現代で治療した筈の肺結核が再発しており、その容態は徐々に悪化していった。
「このままでは、総司は出産に耐えられんかもしれん。」
「そんな・・」
斎藤の言葉を聞いて千が絶句していると、二人の前に藤堂平助がやって来た。
「伊東さんが呼んでる。」
「わかった。千、君は昼餉の支度をしておいてくれ。」
「わかりました。」
厨で千が他の隊士達と共に昼餉の支度をしていると、歳三が何やら険しい表情を浮かべながら廊下を歩いている姿に千は気づき、彼の方へと駆け寄って来た。
「土方さん、何かあったんですか?」
「ああ。伊東の野郎、御陵衛士となって新選組から離脱するとか抜かしやがった。」
「それで、斎藤さんと藤堂さんは?」
「平助は、伊東についていくそうだ。」
「そうですか・・」
「斎藤は、こちら側の連絡役として御陵衛士に加わって貰う。千、この事は内密にな。」
「わかりました。昼餉の支度が終わり次第、沖田さんに昼餉を持って行きますね。」
「わかった。お前も一段落したら、昼餉を食え。」
歳三はそう言って千の肩をポンと叩くと、厨の前から去っていった。
1867(慶応3)年3月10日、伊東甲子太郎は新選組を離脱し、弟の三木三郎、藤堂平助、斎藤一は御陵衛士として伊東と行動を共にすることになった。
「藤堂さん、お元気で。」
「千も元気でな。」
荒れ狂う時代という嵐が、徐々に千と新選組に近づいてきた。
小説の目次は
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