経済なんでも研究会

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新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-08-12 08:03:12 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪45≫ 帰国へ = ぼくとマーヤを乗せた宇宙船は11月11日の早朝、この島の北端にある発射場から打ち上げられた。船内は日本製の宇宙船よりやや広く、ベッドと椅子が固定されている。ダーストン星は瞬く間に見えなくなった。もう、この星に来ることはないだろう。ちょっと悲しかった。

それにしても、いい人たちだった。みんな異星人のぼくを気持ちよく受け入れ、歓迎してくれた。マーヤに淋しくないかと聞いてみると「少しは悲しい。でも私には親兄弟がいません。それより貴方と地球に行けることの方が嬉しい」という答えが返って来た。

すぐに無重力状態になったが、立ち上がったマーヤは浮き上がらずに歩いている。不思議に思っていると、マーヤがすぐ説明した。「靴底が磁石になっているんです」

ぼくもサンダルを履いて歩いてみた。少しベタつく感じで歩きにくいが、何かにつかまらなくても移動できる。サンダルを脱ぐと体が浮き上がるので、マーヤに抱き付く。来たときとは大違いで、楽しく賑やかな宇宙旅行になった。

まるで新婚旅行のよう。あっという間に1週間が過ぎた。するとマーヤが悲しそうな顔で言った。
「そろそろ貴方には、薬を飲んで眠ってもらわなければなりません」

そう、別れの挨拶に出向いたとき、病院長のブルトン博士にこう言われたのだった。
「君がこの星に来たときは、宇宙船のなかで4年間も冷凍されていた。だが冷凍だと筋肉が固まってしまうから、地上に降りたとき重力に慣れるまでが大変だ。わが国では、薬で眠る方法を採用している。動物の冬眠と同じで、これだと睡眠中も筋肉は動いていて固まらないんだ。薬は私が調合するから、安心してもらいたい。

それから胸のプレートは、下着や服には映らないようにしておいた。服の上から見えたのでは、地球に戻ってから困るだろうからね。ああ、マーヤのプレートも同じだ。だから裸にならない限り、誰にも見られないよ」
そのとき、ぼくのプレートは≪61≫に、マーヤのは≪66≫になっていた。

ぼくはいま、来たときと同じような航空自衛隊の制服を着ている。マーヤは茶色の地味なワンピース姿だ。このまま2人で手を組んで銀座通りを歩いても、誰も何とも思わないだろう。外見だけではなく、マーヤはどこから見ても中年の日本女性に変貌した。もう日本語の読み書きも万全らしい。大化改新、徳川家康、東京オリンピックも、よく理解したという。素晴らしい。

                                (続きは来週日曜日)
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