長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

私をころして

2018年08月10日 11時00分02秒 | 近況
 「私を殺してからにしてくれ!」と今朝のニュースでどこぞの首長さんが啖呵を切った話を聞きましたが、あらら?
 コンチ、流行言葉なのかなぁ、思わず笑いました。このところ矢鱈と聞いちゃう言葉なんです。

 ひと昔、ふた昔…いぇもう何昔も前かなぁ、推理小説、サスペンスドラマにもよくある手法で、タイトルに持ってくることによって読む者にショックを与える物騒な言葉だったりしますが、それが、ふた月ほど前から同居している垂乳根の母のことなんでございます。
 母がときどき、「私を殺して!」と、夜中に迫るんだよなぁ。

 …というのは、海馬がだいぶ委縮して、先生の見立てでは新しい記憶が入らない状態らしく、五歳児のような言動でむしろ微笑ましいことも多いのですが、そこはさすがに年を経た八十路のオババ、いろいろなんですねぇ。
 自分の身の回りのことはそれなりにできて、御不浄なんかもきちんとはしているのですが、時々深夜に粗相をしてしまう、そんなとき人間の尊厳が冒されるのか、自己嫌悪に陥って、先の台詞で寝ている私をいじめるのです。

 「私は死にます、こんなに馬鹿になって生きていてもしょうがないもの…!」
 夏目漱石の夢十夜にも「私は死にます…」って話が在りましたね。

 「あのなぁ…」
 抗うすべのない理不尽な仕打ちに、探偵物語の松田優作の如く、眠気のとりこになって朦朧としている私は絶句します。
 (おかあさん、何もそんなにシンコクにならなくても……)
 母は戦中生まれの真面目な人間なので、一大事なのです。
 まったくもう、近松の心中ものかしらん…

 「ちょっと、オカーサン、娘を殺人犯にするつもり?」
 なんだ何だ何だねぇ、面倒に巻き込まないでほしいなぁ、日々の生活の苦難に朗らかにけなげに立ち向かう無力な芸人風情に、これ以上むつかしい問題を持ち込まないでほしいなぁ…
 「あたしゃー、人殺しになるのなんて真っ平ですからね」
 もう眠いから明日にしようよ…と、適当にお茶を濁しているうちに、情熱の嵐ならぬ妄執の嵐は過ぎゆき、台風一過の秋の空のようにカラッとはいかないけれども、八月の朝。

 「オカーサン、水羊羹、おいしゅうございますょ」
 「あら、そう?」なんて言って、無邪気に可愛らしいのですけれどもね、人間の脳って不思議なもんですねぇ。

 それにつけても、このところの世の趨勢を見てるとなんだか、酷いねぇ…数の論理でもって道義も何もない理不尽がまかり通るんですねぇ。

 どうなっちゃうんだろうねぇ、どうしたもんかねぇ…と、田村高廣になって、小林桂樹の梅安先生に相談したい今日この頃。

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