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株式会社SEES.ii

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2018.08.24
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ss一覧   短編01   短編02   ​短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​こちらから。

―――――

 6月2日。午後16時――。

 耳に押し当てた電話の向こうで呼び出し音が始まると、岩渕の心臓は体全体を絞った
かのように縮こまった。……アナハイムは深夜0時、くらいか? いたたまれなくなり
電話を切ろうとした時、相手か出た。
『はい……もしもし? どうしたの? ……岩渕さん」
 岩渕は言葉に詰まった。何を何から話せばいいかがわからなかった。相談したいこと
があるのに、心配をかけたくないという気持ちも働いて、自分が何を伝えたいのかが
わからなくなりそうだった。

『もしもし……何かあったの? 今、大丈夫?』
 正義と愛に満ちた伏見宮京子の声を頭の片隅で聞きながら、岩渕は噛み締めるかの
ように声を出した。
「……川澄の野郎が……声には出さねえが……助けを求めてやがる……嘘かも、ホント
かも……何もかもわからないが……」
 それはさっきからずっと考えてきた、考えて、考えて、いくら考えてもわからない。
しかし、絞り出すように声を出した瞬間、頭の中に広がっていた霧が少しだけ晴れた
気がした。
『……川澄、さんが? そう……』
 どこかホッとしたかのように京子が言う。『……放っておけばいいんじゃない? 
こんなことは言いたくないのですが……彼は、信用できません……』
「――違うっ! ……信用とか、信頼とか、そんなんじゃあないっ!」
 自分の声の大きさに岩渕は驚いた。頭の中の血管を血液が無尽に駆け巡り、白い、
モヤモヤとした霧が完全に消えた。自分が何をしたいのか? 答えがわかりかけた。

「……あの野郎は……アイツは……京子、キミと同じなのかもしれない……」
『……? 何があったのか、教えてもらっても……いい、かな?』
 京子の声が優しげに響いた。たぶん、いろんなことを憂いているのだろうな、岩渕は
思った。眠ろうとしていた京子の、美しい姿と顔を思い浮かべた。
 
 何を思うのか、何をしたいのか、何が自分らしいのか、答えはもう、決まりかけていた。

 
 事情を説明し終えた後で、京子が真剣な口調で聞いた。『……《カーバンクルの箱》
を手に入れて、川澄さんに渡せたとして……その後、あなたはどうなるの? 川澄さん
が岩渕さんを裏切らない保障は……あるの?』
 そんな保障はどこにもない。そんな保障など必要ない。そんな理由じゃあ、ない。
「……わからない。けど……あの兄妹を出し抜いて《箱》を手に入れるには……この
方法しか思い浮かばない……もしかすると、キミとの関係も終わりになるのかもしれ
ない……ごめん……」
 途端に、京子の口調から優しさが消えた。『ちょっと待ってっ! どうしてそこまで
する必要があるの? 《D》とは本来関係のない話じゃないの? 放っておけばいいん
じゃないの? ……どうして?』
「……別に死にに行くわけじゃない。これは……単に俺のワガママなんだ……」
『ワガママ? ……どうして? ……どうしてなの?』
 京子は、どうして、を繰り返した。
「どうしても、だよ。アイツが何を考えているのか、《箱》の中身が何であろうが、
そんなことは関係ない。アイツは――……キミと同じことを、俺にした……」

 沈黙があった。京子は泣いているらしかった。沈黙の中に時折、鼻水をすするよう
な音が混じった。罪悪感が込み上げる……情けない……。
「京子が戻って来たら、俺はどうなっているかわからないけど……就活のレクチャー
くらいはしてやるよ。……こっちの業界で働きたいんだろ?」
 岩渕は冗談めかして言ってみた。しかし京子は黙ったままだった。
「大丈夫。まだ何も決まったワケじゃない。もしかしたら俺のこの計画も、全部、単に
空想で終わるだけかもしれないしな……」
 岩渕はつとめて明るい声で言った。
 
 受話器からようやく京子の声が聞こえた。
『……やめなさい。あの男は信用してはいけない。……お願い』
 毅然とした京子の言葉に岩渕の心は揺らいだ。そして同時に、京子の、美しき姫君の
願いを無下にする男など――この世の中にいるのだろうか? とも思った。
『……あの男があなたに何をしたのかは知らないけれど……行かないで……私たちの
ためにも……やめて……』
 電話の向こうで京子は繰り返した。

「アイツとキミだけなんだ。……川澄は、俺の……俺の心に触れた。ひとりぼっちの
俺に、カネのことしか考えてないような俺に、『一緒に来てくれ』と言ってくれた。
……打算もあるのかもしれない。……使い捨てにするつもりだったのかもしれない。
……将来、俺や《D》を裏切るのかもしれない。――だけど……放ってはおけない、
アイツを。できることなら、アイツの妹も……」

 そう言うと、岩渕は受話器を置いた。それ以上、京子の声を聞いていられなかった。
行きたくはなかった。誰でもいい、誰か俺を殴ってでも止めてくれ、とさえ思ってい
た。それでも、岩渕は行くと決めていた。

 変わっちまった。京子に出会ってから、生活も、性格も、何もかも変わっちまった。
ひたすらにカネを稼ぎ、いつか澤社長を地獄に叩き込む野心も……見つけ出し、いつか
復讐すると誓った両親への怒りも……変わっちまった。それなら……それでいい。それ
なら、俺は俺自身の選択に付き合ってもらうだけだ……。
 岩渕は窓の外を眺めた。太陽は傾き、ゆっくりと沈み始めていた。

―――――

 一度だけ岩渕に電話を掛けなおした。その呼び出し音を聞きながら、伏見宮京子は
どうやって岩渕を説得しようかと考えていた。……呼び出し音は鳴り続けた。岩渕が
出る気配はなかった。……こんなことは初めてだ。

 閉め切ったカーテンの隙間からアナハイムの街の光が漏れ入り、広い寝室をぼんや
りと照らしていた。明かりはつけていなかった。ついさっき、使っていたパソコンを
閉じた時点でスイッチを切っていた。就寝する直前だった。

「……泣きマネじゃ、ダメか……」
 京子は声に出して呟いた。「……私が……どこにでもいる、普通の、ごく普通の女で
あったのならば……この体ごと岩渕に捧げてでも……構わないのに……それで彼が思い
留まってくれるのならば……構わない……構わないのに……」

 ベッドに潜り込み、京子は神に祈った。
 天照大御神様……また《D》に関わる者たちに危険が迫っております……どうか……
御身の御力により、守り給え……」
 岩渕と《D》のためだけに祈ることに、躊躇いはない。それが不敬だと感じていた
としても、躊躇いはない。
 
 それから京子は、明後日には日本に戻ろうと決めてから――目を閉じて泣いた。

―――――

 6月2日。午後19時――。

 巨大な南京錠の鍵穴に無骨な鍵を差し込み、左回転に向けて力を込める。U字型の
鋼鉄の棒が勢いよく飛び出すガキンッという音が、僕の耳に届く。
 24時間営業の、新栄にある貸倉庫ビルの5階に、人の気配はない。……月極4万の
4畳スペースだ。さすがに利用者は少ないからね……。
 扉を開ける。監視カメラの角度に注意し、そっと入る。一息吸い、電灯のスイッチを
入れる。……微かにカビ臭い。

「こんにちは……迎えに来ましたよ」
 ……何に挨拶? ――いやいや、挨拶ぐらいしますよ。何せ……彼らの所有権は本来
僕ではなく、父なのだから。「どれぐらいの金額かまでは、知らないんですけど……」
 
 ――現金。
 100万円の束が縦横に積み重なった大量のカネ――そう。カネは何も語らない。
無表情で、無言で、次に手にする者の命令に従う、世界の根底を支えるモノ――そう。
それでいい。それでこそ、ここに来た意味がある。

 父が生前、盗品を現金化した際の隠し倉庫で――僕は持参したLOUIS VUITTONの
バックパック・エクリプスをふたつを開き――現金の束を無造作に詰め込む。50万
円以上するバックパックは瞬く間に膨らむ。……かなりの重量だが、しかたない。


 腕時計で時間を確かめる。スーツのポケットに入れてある《カーバンクルの鍵》を
握り締める。それから――4畳の倉庫の真ん中で横になり、大の字に脚を広げる。
 ……これで集まったのは1億3000万、てところか。そう。それは川澄奈央人に
とって、たった半日で搔き集められる金額の限界だった。勝負になるのか不確定な、
おそらくは足りないであろうカネの詰まったバックパックを両脇に――川澄は打ちっ
ぱなしの鉄筋コンクリートの天井を仰ぎ見た。

 新栄の街を歩く、家族連れらしき親子の笑い声が微かに聞こえる。
 目を閉じる。おそらくはジェスチャーであるだけなのかもしれないが、母を思う妹
――瑠美の心情を想い――思う。
 思うのは、『母』を失った息子――……。


 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……
遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと
思っていたのに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。


 ――……ねえ、聞いて。
 いつ? どこで? そんなことは覚えていない。ただ、誰かに話しかけられたこと
だけは覚えている。おぼろげな姿ではあるが……母であることは間違いなかった。
 
 ――……あなたは、とても賢いわ。
 返事はできない。言葉が喋れないようだ。
 
 ――……あなたは、とても強いわ。
 体もうまく動かせない。手が短く、脚も短いようだった。
 
 ――……あなたは、誰よりも賢く、誰よりも強い……。
 ――そんなことはわかっているっ! 僕が知りたいのは……母さん、アンタの……。
 
 ――……ん? コレに興味があるの?
《カーバンクルの箱》とは何だっ? 《箱》の中には何が詰まっているっ?
 
 ――……そうねえ、まだ中身は決めていないのだけど……今、決めたわ。
 どうして《鍵》はふたつある? どういうつもりだっ?
 
 ――……気になる? じゃあ、片方だけ教えるけど……いつか思い出しても、パパ
には絶対内緒だからね?
 
 そうだ。
 思い出した。僕は昔、赤ん坊の時――《箱》の中身を、母に聞いていた。確かに、
聞いた。それを今――思い出す。ようやく、思い出す。

 ――……あなたが将来お金に困らないように、脱税・詐欺・密売・密輸の錬金術を
メモにして置いておくね。もう片方は、今度、ね? ……愛している。


 
 記憶の断片で、母が、僕の頬にキスをした瞬間――……僕は目を見開いた。
 そうか……そういう経緯で、高瀬母娘は《R》を築いたのか。
「ということは……残っているってコトか……僕にもまだ、勝機が……」
 川澄が嬉しそうに微笑んだ、その時――内ポケットに入れたままのスマホが軽やかな
メロディを奏でた。
 直感的に川澄は笑みを強くした。
 直感。そう。脳と感覚が直結し、意識が一致した。スマホの液晶に表示されていた
のは、川澄が最も必要とする男からのものだったからだ。
 躊躇なくスマホを手に取り、通話パネルを操作する。また笑みが強くなる。

『……今どこだ? 迎えに行ってやるよ……俺も大須に行くことにした。最後まで
見届けてやるよ……』
 岩渕の声と内容を聞いた、その瞬間――確信する。

 ――僕の勝ちだ。
 そう。《カーバンクル》に愛されていたのは、僕だけだっ!

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。















本日のオススメ!!! カンザキイオリ……氏。



  カンザキイオリ氏。
 元々はニコ生で楽曲配信するP。CD登録、所属はなし。年齢もわからんし、ツイは
謎だらけ。ミク・レン・リンちゃん以外は使わないみたいだし……。
 だけど……何だろう、それでいいのかもしれないな……。
 この方の歌詞には力があり、魂を震わせる力があると、seesは断言いたします。
 この方の動画で涙したのは1回ではありません。むしろ聞くたびに涙腺が緩くなった
感さえ、ある。動画の構成もシンプルかつ、『歌詞』を強調した作り、非常にわかりや
すい内容……(下手なアニメよりもずっとイイ)。
 新曲でも泣いた。同時に過去作も聞くからまた泣いた。
 ホント……すげー方だと思いますよ。しいて頼むのは……もっと欲を出されても、
良いのでは? くらいかな……。


 カンザキ氏はCD未発表なので……最近seesが買ったモノを少し紹介……。
    

 イアさん。ブトゥームの最終巻(マルチエンドッ!)。泣ける野球マンガ。


 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。
 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖
差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、
クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。
 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、
社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。
 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……
どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。
 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。
行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。

 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回
ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、
その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。
 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw

 seesに関しての情報はもっぱら​Twitter​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓





 好評?のオマケショート 『フィアットとストーカー』

     とある営業帰り――……。
 sees 「あ゛ーフィアット欲しいな……」
 課長 「また同じこと言ってるどー」
 sees 「いや、ね……やっぱり…500もイイけど……新型の500X?、最高ですね、アレ」
 課長 「さっさと買えどー。頭金100で5年ローン? お前ならイケるど?」
 sees 「……簡単に言うスけどね~……今の車も好きだし……(めっちゃ内装イジったし、
     スピーカーも一番高いの装備したし……イキナリ外車は、正直怖い)」
 課長 「おっ、噂をすればだどーびっくり

     そう。我々が車で走っている場所は現在――フィアット守山店前……。
     すると――……。

 課長 「おっおっおっ目……今――販売店から出た車、お前の欲しい車種だど?」
 sees 「――っ! マジか、フィアット500X……しかもイエロー……」
 課長 「sees、見るだどっ!! 運転してるの、でら美人だどー」
 sees 「なにぃっ!!」

     2車線でバネットと並走するフィアットの運転席をチラりと見ると……。
 sees 「……うわっ、北川景子(通称セーラーマーズ)みたいや……やべえなぽっ
 課長 「……sees、久しぶりに、ヤルかど?」
 sees 「………」
     欲しい車、セーラーマーズ、これはもう……ヤルしかねえっ、いや……
     やらいでかっ!うっしっし
 sees 「……粘着走行、イキまーすwww」
     
            【粘着走行とは、決して煽り運転ではない。あくまで自然を装い、並走し、
     横に並び、背後にゆっくりとテイルトゥノーズする、seesの特殊運転スキル
     であるっ!】

 sees 「……フィアット……マーズぅ……ふふふ、ふふふのふ……都合の許す限り、
     じっくり観察させてもらうでぇ……へへへww目がハート

     だが――……変態たちの幸せな時間は、ものの5分と持たなかった……。

 マーズ?『ムカッ……火星に代わって折檻よっ!
     そんな北川景子風セーラー戦士の声がseesの脳裏に流れた次の瞬間、キモい
     上司の叫び声が耳元で轟いた。
 課長 「――っ! seesっ、危ないど――っ! 信号《赤》だどぉ――っ!スピーカ
 sees 「うわわわわっ!」
     急ブレーキ……停止線大幅超え……フィアットは左折専用レーンの先に消え、
     取り残されたバネットは、往来する車両たちの視線を一身に浴び、社名を晒し、
     恥を……赤っ恥を……数分晒し続けた……号泣

 sees 「……わしゃ妖魔かっ! (反省はしている)」
     何度目だ? こういう話……もう、ヤメよう……ショック


                                 了炎炎炎



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.09.04 22:53:03
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