ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

宿毛のゲンジボタル

2020-05-27 15:48:20 | ゲンジボタル

 宿毛のゲンジボタルは高知県内でも有数な名所である。

 四万十川の沈下橋とホタルを観察した翌日は、宿毛市にある「蛍の郷」へ。この場所は、40年以上にわたってカワニナの餌を団子状にしてパチンコで川へと飛ばしたり、 大雨で土砂が流入した際は、幼虫を陸に上げないように丁寧に作業したりする等、堀内慶治氏一個人によって保護されている「蛍の郷」である。川に設けられた幾つかの堰周辺でゲンジボタルが多く飛ぶが、中でも「蛍の郷」の400mにわたる岸辺は、無数のゲンジボタルが乱舞し、光が水面にも映り込む幻想的な光景が見られる。堀内慶治氏によれば、川岸が光のウエーブのようになり、両岸が光の輪に包まれる日が年に1~2度あると言う素晴らしい場所である。
 23日(土)は、まず四万十市トンボ自然公園で昼近くまでトンボを観察。その後、高知県ホタルネットワークの石川憲一氏と合流して昼食を済ませ、石川氏の案内で、アマチュアながら自費でホタルの写真集を出版している地元の会社員 田村昌之氏と会った。その後宿毛に移動し「蛍の郷」へ15時に到着。周辺を探索しロケハンを済ませると、ホタルの写真集も出されているプロの動物写真家「小原玲」氏が来られた。石川氏と田村氏の手引きでの初対面。川のほとりにて2時間余りホタル談義に花が咲いた。

 18時半頃からポイントで待機。ここでも一番ボタルの発光は19時半で、カメラを向けていない右側の岸辺であった。気温20℃で無風。20時を過ぎると無数のゲンジボタルが飛び交い、将に大乱舞という状況になった。オスの同期明滅は、西日本型特有の2秒間隔。ここでの飛翔スピードは、沈下橋に比べると穏やかで、多くのゲンジボタルは岸辺の草むら上を飛んでいた。カメラを向けた方向は堰と堰の間で、無風という条件も相まって、岸辺を乱舞するゲンジボタルの光が水面に反射する光景も素晴らしく美しく、この場所においても、大変多くことを学んだ。
 以下に掲載した写真は、いずれもデジタル一眼レフカメラによって撮影したものであるが、写真2~4はフィルムと同じ一発露光(30秒の長時間露光)である。フィルムの適正露出を得るための長時間露光と違って、デジタルでの多重合成・多重露光は、単に見栄えを良くするものである。写真5~6は30秒露光の写真をパソコンにて数カット多重合成した結果である。実際のゲンジボタルの様子は、最後に掲載した映像をご覧頂きたいが、多くのカットを重ねたホタル写真は「こんなに飛んでいるの!?」と見た方に誤解を与えかねない。写真家の小原玲氏は、昨今の素人が作るホタル写真は重ね過ぎだと嘆いていており、私も同感だが、悲しいことに写真を見た方々の評価は、本ブログ掲載写真2~4よりも、写真5~6なのである。
 映像は、ほぼ見た目に近いが、写真は長時間の露光になれば実写でありながら創作でもある。更にタイムラグがあるカットを重ねることは時間の連続性という写真芸術の観点や、ホタルの飛翔という生態学的観点から外れることにはなるが、1つの創作写真としてご覧頂きたい。掲載写真は、ゲンジボタルがどうような環境で飛翔発光するのかが分かるように、背景を明るめに処理している。

 宿毛市にある「蛍の郷」は大変すばらしい自然環境であり、高知県ならではのゲンジボタルの生息環境や生態的特性も学ぶことができ、目的達成、大満足の遠征であったが、残念だったのは、川のすぐ横が観賞者用の駐車場であること。ゲンジボタルが光り始めてから来る車のライトが、ゲンジボタルが乱舞する場所を容赦なく照らしてしまう。そのたびに発光をやめ、雌雄のコミュニケーションは阻害されていた。ここでも、悲しいことに光害という人的汚染にホタルたちは嘆いていた。
 ホタル観賞をする方々の中には、ホタルが発光する理由をご存じない方が多い。知っていれば、暗くなってホタルが乱舞している所へ車のヘッドライトを向けるはずがない。車で来なければならないのならば、明るい時間帯に来るしかない。私もその場所に駐車したが、前述のように15時には到着し、ヘッドライトが川とは反対側になるように止めていた。そして、ホタルの発光飛翔が終了した21時過ぎに引き上げた。車はハイブリッドで電気モーターだけで走行するようにした。今後も、この環境を維持するには、時間を決めて車の侵入を禁止するなどの対策が必要であろう。

 日本各地の有名なホタルの生息地は、どうしても観賞者やカメラマンが大勢訪れる。見るのも自由、撮るのも自由である。しかしながら、ホタルの生息地は、観賞者優先でもカメラマン優先でもない。ホタルが最優先である。ホタルは発光によって雌雄がコミュニケーションを図っていて、暗闇でしかお互いの光を確認できない。従って、ホタルが十分に繁殖を行えるように人工的な灯りは一切照らしてはならないのである。これはマナーではない。自然保全の鉄則である。「観賞者とカメラマン、お互いが気持ち良く・・・」そうではなく、ホタルが光によって会話できるように、そして配偶行動ができるようにそっと見守ることが、訪れた者の責務であると思う。そうしなければ、この光景は、直ぐにでも失われてしまうだろう。

 こう書くと「一日数回、懐中電灯の灯りや車のヘッドライトが当たっただけで、ホタルは全滅しないだろう」と言う方がいる。「それは、お前のエゴだ。極論だ!」と反発する方もいる。「そう言うお前はどうなんだ!」と問題をすり替え逆切れする方もいる。
 では、ゲンジボタルの生態を考えてみたい。この場所の発生期間を仮に3週間とする。メスは10日ほど遅れて羽化してくるから、雌雄が出会える日数はおよそ11日である。変温動物であるから、夜の気温が15℃を下回れば活動は鈍くなる。月明りがあれば、飛び回るオスの数は減少する。雨は問題ないが風が強ければ、やはり飛び回るオスは少ない。これら悪条件を除くと、雌雄が出会える日数は更に減って5日くらいになるかもしれない。そして、一日の内で雌雄が出会える時間は、1時間半ほどしかない。そのわずかな時間の中で、オスは下草で発光するメスを見つけ、メスは寄ってきたオスの中から、発光が一番強いオスを選んで交尾するのである。人為的な灯りは、この少ない貴重なチャンスを更に少なくしてしまうのである。
   光害の影響は、科学的にも昆虫学的にも証明されている。反論があれば、無記名で誹謗中傷するくだらないコメントを安易に書き込むのではなく、科学的根拠を示しながら、自然保全や精神論についても論じて頂きたい。
 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が解除されても3密を防ぐために、今年は日本各地で「ホタル祭り」等のイベント中止が決まっている。個人的には嬉しい思いが強い。私を含め人々が 来なければ、人為的光害はなくなり、ホタルは幸せだろう。今後も、ホタルの自然発生地においては、私を含めた観賞者もカメラマンも人間様様の態度や考え方を改め、自然に接しなければならない。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。尚、Facebookでは、一部の写真を1920*1280 Pixels で掲載しています。

蛍の郷の写真

蛍の郷の環境
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F9.0 1/60秒 ISO 100(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23 15:15)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 800(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23 19:53)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 800(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23 19:54)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 23秒 ISO 1000(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23 19:58)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 11分相当の多重露光 ISO 1000(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 6分相当の多重露光 ISO 800(撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23)

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Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE (撮影地:高知県宿毛市 2020.5.23)

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