ウイスキーの刻 ~Whiskyのとき~

耳を澄ませば聴こえるウイスキーのメロディ。
『ウイスキーの刻』は、その真実を探し求めていきたいと思います。

『マスト』

2020-02-14 19:19:19 | 日記
 こんばんは。Aokiです。

 週末営業、路地裏の『名も無きBAR』。

 今夜は、真面目な方が、その殻から
 脱皮する瞬間が見られそうです。


☆☆☆

『マスト』


 「そんなに決めつけなくてもいいんじゃないか?」

 「いや、役人は働かないと思われているに違いない。
  だから俺たちは、深夜まで働かなければならないんだ。」

 少し腹の出た同僚に毅然と言い放つのは、
 神経質そうに眼鏡の上側から覗き込むように話す男性。

 おそらくは30代なのだろうが、団塊の世代を彷彿とさせる勢いだ。

 二人の前には、いずれもウイスキーの水割り。

 そう、スナックでもBARでも、席に着いたら“水割り”と
 教え込まれた世代なのかもしれない。

 「深夜まで働くったって、いつもそんなに
  忙しいわけじゃないし・・・」

 「そんなことはない。
  仕事は自らつくりだしていかなければならないんだ。」

 「そんなにむきになってやらなくても・・・」

 「むきになんてなっていないさ。
  みんな漠然と働いているけど、
  もっと問題意識を持たなければいけないんだよ。」

 「そんなもんかな~」

 「そうさ、俺たちの一挙手一投足によって、
  国民が役人のイメージを固めるんだ。
  だから俺たちは、常に見られていることを
  意識しなければならないんだ。
  こういう場所でもだ。」

 「ふ~ん」

 常温の同僚は、沸騰寸前の連れに困惑気味。

 温度差に憤りを感じた眼鏡君は、マスターに援護を求める。

 「マスター、あなたなら分かるでしょう。
  BARでは誰もがマスターの所作を見ている。
  それに、客の誰よりも酒に精通していなければならない。
  そうですよね?」

 「それほど肩に力を入れる必要もないんですよ。
  ここはお客さまが寛ぐ場所ですので、
  そのお邪魔にさえならなければよいと思っています。

  お酒についても、全て知っている必要はないのです。
  BARでは、二つとして同じ酒はありません。
  大切なのは、今宵出会えたお客さまが寛ぐための、
  ほんの小さなお手伝いをする心ですので。

  何かをしなければならないのではなく、
  お客さまを感じ、どうしたらお客さまが寛げるかを考え、
  そして行動することだと思いますね。」

 予想外な答に、眼鏡君は戸惑いを隠せない。

 「でも、常に最高のパフォーマンスが要求されますよね?」

 「そうでもないんですよ。
  主役はあくまでお客さまであり、名脇役はお酒です。
  バーテンダーは黒子みたいなものですから、
  もし間違っていたら直せばいいんです。」

 しばし考えている眼鏡君に、同僚はハラハラ。

 マスターは優しく見守る。

 「主役はお客さまか・・・
  あたり前のことを忘れていたのかもしれない。」

 眼鏡のマスト君からメイビーが芽生えた。

 今夜二つ目の扉が開かれた瞬間。


                               written by Z.Aoki

★★★★★★★★★

 几帳面な方、真面目な方は、ときに
 マストへ走る傾向も見受けられます。

 丁寧な仕事には、マストよりも
 思いやりが大切かと思います。

 完璧を求めることは、世界を狭めることもあります。

 いいかげんは良くありませんが、
 好い加減であれば良いですね。

 可愛らしいワンコも、そう言っています。

(本当は、「おやつのチーズをちょうだい」と訴えています。)


                             Z.Aoki
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