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円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

2019年11月09日 | 美術館・展覧会

秋色の京都国立近代美術館で「円山応挙から近代京都画壇へ」が行われています。
応挙はなぜスーパースターと呼ばれるのにふさわしいか?
近代までつながった円山・四条派の潮流を俯瞰したこの展覧会から、その答えを知ることができます。




 目次

  •  応挙の写生画はなぜ大流行したのか?
  •  すべては応挙にはじまる。
  •  この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?



 


 応挙の写生画はなぜ大流行したのか?


 徳川幕府が全国の支配体制を完全に確立した大坂夏の陣から101年後、1716(享保元)年は江戸絵画の大きな節目の年になります。
 琳派のスーパースター尾形光琳が亡くなったのに対し、伊藤若冲と与謝蕪村が生まれました。
 この3人の名前を見ると、特に江戸絵画のファンの方は、江戸絵画の潮流の変化を連想されることでしょう。

 光琳までの江戸時代の最初の100年は、絵画は公家/寺社/御用商人といった一握りの上流階級だけのもでした。
 しかし若冲と蕪村が生まれた次の100年は、江戸/京都/大坂の三都で人口が増え、新興の町衆が増加していきます。
 そんな時代を象徴するのが、伊勢の松阪から京都に出て大成功を収めた三井家です。

 同じ頃、京都では若冲や蕪村の作品が脚光を浴びるようになりますが、両者の作品には中国文化をモチーフにした作品が少なくありません。
 新たな町衆は、暮らしを華やげるツールとして絵画に目を向けますが、中国文化は知識人のような教養がないと理解がしづらく、まだ敷居が高いものでした。
 時代はまさに「わかりやすい絵画」を求めていたのです。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応挙「写生図巻」千總蔵に注目!


 そんな時代にさっそうと登場したのが、応挙の「写生画」です。
 若冲と蕪村より17歳年下の応挙は若い頃、奉公先で遠近法を駆使した風景画「眼鏡絵」を描いていました。
 また最初に応挙のパトロンとなった三井寺円満院門主・祐常のために、動物や草花といった本草学、今で言う博物学の絵を描くようになります。
 祐常は、平和な時代サイエンスに目が向けられたことで当時流行していた、本草学に造詣が深い人物でした。

 出展されている「写生図巻」は、祐常のために描いた作品を、後に応挙自身が写したものです。
 正確に写し取ることが大好きだった応挙の個性が実によく表れています。
 この作品、博物学のためのスケッチではありますが、驚くなかれ重要文化財です。

 こうした影響で、応挙は写生画に本格的に取り組むようになったと考えられています。
 応挙はまさに時代のニーズに目覚めた「寵児」だったのです。



 京近美の前の大鳥居が青空に映える


 すべては応挙にはじまる。


 展覧会の序章のタイトルです。
 鑑賞を終えた後、展覧会の魅力を凝縮したすばらしいネーミングだと感じました。
 数多の近代日本画家の源流をたどると、ほとんどが応挙にたどり着くと言っても過言ではないからです。

 【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「松に孔雀図」大乗寺
【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「郭子儀図」大乗寺

 展覧会は、いきなり大作から始まります。
兵庫県の日本海側にある古刹・大乗寺に描いた襖絵です。
 大乗寺では普段レプリカがはめられていますが、本物が京都に24年ぶりにやってきました。
 前後期でほとんどの作品が展示替えされる中で、この大作は通期展示されます。
 主催者の特別な思い入れを感じさせる、重要文化財です。

 「なぜこの大作を最初に持ってくるのだろう?」と当初感じましたが、展覧会を見終わるとその理由がひらめきました。
 大乗寺の襖絵は165面もある大作で、応挙が応瑞/呉春/芦雪など主要な弟子を総動員して完成させています。
 まさに応挙がいかに多くの弟子たちを育てたかを象徴する、記念碑的作品なのです。
 「すべては応挙にはじまる。」というタイトルに、最もふさわしい作品にほかなりません。

 近年の研究では、応挙は実際に大乗寺を訪れていないと考えられています。
 本物の襖絵の他、会場には大乗寺の室内写真も多く展示されていました。
 部屋によって大きく異なる襖絵の趣が、全体としてはとても調和していることがわかります。
 実際の空間を見ずに、これだけ完璧にきめる応挙のプロデュース能力の高さには、驚愕以外の言葉が見当たりません。



 並行開催コレクション展の近代京都画壇作品(一部を除き写真撮影OK)


 この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?


 「異なる画家による同じモチーフの作品がまとまって展示されている。」
 会場で足を進めると、まもなく気づきます。
 応挙から近代にいたるまで、後世の画家たちがどのように先人に学んだかがとてもわかりやすくなっています。

 例えば、前期展示では、呉春「海棠孔雀図(かいどうくじゃくず)」京都国立博物館蔵と、長澤芦雪「牡丹孔雀図」逸翁美術館蔵が並んで展示されています。
 後期ではこれが、円山応挙「牡丹孔雀図」相国寺蔵と岸駒「孔雀図」千總蔵に入れ替わります。

 応挙「牡丹孔雀図」は、2年間だけ長崎に滞在した清の画家・沈南蘋(しんなんびん)に刺激されて描いた作品と考えられています。
 沈南蘋は写実的な花鳥画の大家で、応挙以外にも若冲が大いに刺激を受けています。
 若冲の鶏の絵の多くに、どこか中国的な趣を感じませんか?

 応挙は四条河原の見世物小屋で孔雀を見たと考えられていますが、観察力の高さには目を見張ります。
 緑の羽根の無段階グラデーションを、水彩の岩絵具で描いたテクニックも感動的です。
 応挙はとんでもなく「すごい」のです。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 呉春「海棠孔雀図」京都国立博物館

 呉春の「海棠孔雀図」には文人画的な趣が残っており、呉春が洒脱な写生画を完成させる以前の見応えのある作品として秀逸です。
 芦雪の「牡丹孔雀図」は、雀が目立って多く描かれています。
 どこか敷居の高い孔雀のモチーフから少し息抜きさせるような、芦雪らしい遊び心が感じられます。
 岸駒は写生画の正統派として、御所にも出入りしていました。「孔雀図」には、師の応挙を上回る気品の高さが感じられます。





 近代の京都画壇の名品にも釘付けになります。
 多すぎてとてもすべての魅力を伝えきれませんが、以下の作品画像をぜひご覧になってください。
 応挙のまいた種がいかに見事に後世に咲き誇ったかが、本当によくわかります

 前期展示
 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 木島桜谷「しぐれ」東京国立近代柔術館
 【所蔵者公式サイトの画像】 鈴木松年「瀑布登鯉図」敦賀市立博物館

 後期展示
 【所蔵者公式サイトの画像】 幸野楳嶺「敗荷鴛鴦図」敦賀市立博物館
 【所蔵者公式サイトの画像】 塩川文麟「嵐山春景平等院雪景図」京都国立博物館

 この展覧会の魅力をもう一つ。
 作品の所蔵者に「株式会社千總(ちそう)」という名前がとてもたくさんあります。
 戦国時代の1555(弘治元)年に創業した京友禅(呉服)の老舗で、江戸時代から京都を代表する富裕な町衆として知られています。
 いわば三井家と同じような家柄であり、江戸時代に蒐集した美術品を多数、今に伝えています。

 驚きの質の高いコレクションは、烏丸三条にある本社のギャラリー内で、作品を入れ替えながら公開されています。
 京都の優れた美術館として穴場中の穴場です。ぜひ訪れてみてください。

 【公式サイト】 千總ギャラリー





 来年春2020年3月21日に、3年に渡った改修工事を終え、リニューアルオープンする京都市京セラ美術館の地下入口が、京都国立近代美術館の前で姿を表していました。
 地下から入るとはルーブル美術館のようです。
 来年春が楽しみです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 行けなくなったら、買い忘れたら、展覧会公式図録


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 利用について、基本情報

 <京都市左京区>
 京都国立近代美術館
 円山応挙から近代京都画壇へ
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局
 会場:3F展示室
 会期:11月2日(土)~12月15日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

 ※11/24までの前期展示、11/26以降の後期展示でほとんどの展示作品が入れ替えされます。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、2019年9月まで東京藝術大学大学美術館、から巡回してきたものです。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
 【美術館公式サイト コレクション展案内】



 ◆おすすめ交通機関◆

 地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
 JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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