日々の恐怖 6月22日 彼の妹(2)
妹の違和感について、彼は心当たりがあったという。
実は彼と妹との間には、妹が生まれる五年前に、性別も分からぬうちに流れてしまったもう一人のきょうだいがいたのだ。
妹が生まれるずっと前に、
「 もうすぐお兄ちゃんだよ。」
と父親に頭を撫でられた記憶、肩を落として静かに泣く母親の記憶が、おぼろげに残っているという。
“ 一目会うこともできなかったそのきょうだいは、きっと女の子だったのだろう。
普段は妹に寄り添い見守ってくれていて、妹が妹でない時は、きっとその子が妹に変わって世の中を見ているのだろう。”
彼はそう思っていたという。
年の離れた兄妹は、彼が進学して家を離れたことを機に、会う回数がぐんと減った。
妹が成人した頃には、彼女の様子に違和感を感じることもなくなったという。
「 いい話じゃないですか・・・。」
私は心からそう言った。
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