テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

しのび逢い

2020-07-12 | ドラマ
(1954/ルネ・クレマン監督・共同脚本/ジェラール・フィリップ、ナターシャ・パリー(=パトリシア)、ヴァレリー・ホブソン(=キャサリン)、マーガレット・ジョンストン(=アン)、ジョーン・グリーンウッド(=ノラ)、ジェルメーヌ・モンテロ(=マルセル)/99分)


 ルネ・クレマンと言えば「太陽がいっぱい (1959)」であり「禁じられた遊び (1952)」であり「居酒屋 (1956)」なんですけどね、僕にとっては。
 それ以前の、カンヌ国際映画祭で評価された「鉄路の闘い (1946)」、「海の牙 (1947)」、「鉄格子の彼方 (1949)」なんちゅうのもとっても観たいんだけど、未だに逢うことが出来ないのであります。
 さて1954年の「しのび逢い」は「禁じられた遊び」と「居酒屋」の間に作られた映画で、タイトルからロマンチックな恋愛モノを想像させますが、実は女たらしのチャラ男が主人公の半コメディっぽいところもある作品なのであります。ま、その事は双葉さんの解説で知ってはいたんですけど、双葉さんの評価が☆四つの傑作だったので随分前に録画していたんです。今回お初にお目にかかりました。

*

 フランス人青年アンドレ・リポアは母国を嫌い外国で暮らすことを望んでいたけれど、先の大戦が終わった時にイギリスにいた為にそのまま帰国せずロンドンで仕事と住まいを探した。やりたい仕事というものもなく求人のあった商社に勤めたが地道な事をコツコツやるタイプでもなく、給料も前借が常習だったので給料袋には毎度小銭が少し入っているだけだった。そんなアンドレの日々の楽しみは退社後のガールハント。街に出た後には公衆電話ボックスでネクタイを替えて気分を上げるのだった。
 そんな綱渡りのような生活が数年続いた後、アンドレは一人の資産家の娘キャサリンと結婚した。逆玉と言うべきだが、彼の女遊びはやむことはなく、結婚式から数か月後キャサリンはアンドレとの離婚を決心していた。

 と、上記したドラマの設定は後々分かることで、映画のオープニングはアンドレが一人の女性と舟で川遊びをしていて、遠くの岸辺ではキャサリンがお茶をしながら相席している知人の男性にアンドレとの離婚をほのめかしているというシーン。アンドレが口説いている女性パトリシアはキャサリンの親友だという事もこの後分かる。
 帰って来たパトリシアにキャサリンが忠告として言う。アンドレが彼女を口説いていただろう事は百も承知だ。
 『彼は世界中の女を振り向かせたいの。陥落しないとすぐに飽きるし、陥落してもまた飽きてしまう。これからもずっとそうだわ。そういう人よ』

 数日後、実家のあるエディンバラに帰っていたキャサリンがロンドンに戻って来るのでアンドレは車で迎えに行こうとするが、そこにパトリシアから電話がかかってくる。ロンドンに来たのでキャサリンに逢いたいらしいんだが、今から空港に迎えに行く所だと答えると、『ではまた電話するわ』と切り上げる。再び出かけようとすると今度はキャサリンからの電話。まだエディンバラに居て、弁護士と打ち合わせをしているらしい。
 『忙しくなるわよ。こんどこそ離婚だから。決心は固いから覚悟していて』
 どうやら浮気がバレてアンドレは謝罪の手紙を書いたらしいが、それが雑誌のコピーだった事もバレたらしい。

 逆玉離婚でさぞかし意気消沈するかと思ったらアンドレにはさして影響はないみたい。
 さっそく今度は近くのホテルにいるパトリシアに電話して、こう言うのだ。『キャサリンと三人で食事をしよう。1時間後に来て』
 まったく。懲りない男、アンドレ・リポア。
 キャサリンが帰ってくるのは明日。なので三人で食事をと言いながら、実は二人っきりになろうとしているわけだ。
 1時間後にやって来たパトリシアにキャサリンは予定の飛行機に乗ってなかったと言い、後の便かもしれないから先に食べていようと食事を始める。少し前に頼んでいた電話サービスからかかってきた電話をキャサリンからと騙しながら、霧で飛行機が飛ばなくなったらしいと嘘をつく。女たらしの面目躍如の計略でありますな。
 こうして二人っきりの夜を過ごしながら成り行きでアンドレは過去の女性遍歴を語りだすのだ。

 惚れた女に女たらしの手練手管を事細かに話して彼に何のメリットがあるんだろうと思うんですが、映画としてはそれぞれのストーリーも面白いし、男と女の色模様の違いも面白い。
 カンヌで評価された三作はドキュメンタリータッチらしいですが、この映画にもそういう雰囲気がありますね。特に街中でのシーンは(誰もジェラール・フィリップに気が付いていないから)どれだけのエキストラを使ったんだろうと思わせるモノでした。

 ネタバレになりますがアンドレの過去の女たちも少し紹介しておきましょうか。未見の方は当然スルーして下さい。

▼(ネタバレ注意)
 アンはアンドレが勤めていた会社の上司。チャラ男の仕事ぶりには厳しい態度で接していたが、ある日彼女の美しい脚を見たアンドレがプレゼント攻撃をかますと簡単に陥落してしまう。アンドレが彼女のアパートにもぐり込んでくるが、些細な事で険悪なムードになった後アンドレはアパートを出て行き次のターゲットを見つけ出す。

 ノラは通勤バスの中でひっかけた女。お堅い家庭で育ったノラはガードも固く結婚話をちらつかせることで心身共に親密になることが出来たが、そこは飽き性のアンドレ、途端にアパートも引き払ってしまう。

 アンと別れた後に会社も首になり、次の仕事も見つからずに路頭に迷うアンドレを救ったのがマルセルだった。マルセルはフランス人の街娼。まさにヒモになったわけだが、マルセルに転がり込んだ遺産を融通するから新しい事業を起こせばと言われるとまた黙って去ってしまうアンドレだった。

 マルセルの財布から少し頂戴したお金を元にフランス語の個人授業の教室を開き、そこにやって来たのがキャサリンだった。
 キャサリンとの馴れ初めはとっかかりだけで結婚に至る重要な場面は割愛されていました。なんか都合よく端折られてる感じでしたね。

 ネタバレについでに、このドラマの結末も書いておきましょうか。
 アンドレの告白を聞き、再度必死の求愛を受けて心揺れるもパトリシアはホテルに戻ろうとし、最後の手段としてアンドレは三階のベルコニーから飛び降りようとする。勿論絶望を装った狂言だが、うっかり足を滑らせて本当に落ちてしまう。
 翌日、入院先にやって来たキャサリンは、離婚に動揺したせいとアンドレを不憫に思い、また勝手に彼の改心を信じるようになる。

 ラストシーンは、ゴルフ場でキャサリンとパトリシアが交代でアンドレの車椅子を押している図。
 この後夫婦は末永く暮らしましたとナレーションが入るが、アンドレは男の友人に誘われゴルフバッグを抱えて去って行くパトリシアを浮かない顔で見つめている。
 やはり彼の下半身はこの後使い物にならなくなったんでしょうなぁ。
▲(解除)


 お薦め度は★三つ。
 クレマンの語り口が★四つ~五つの秀作クラスであることは充分分かるんですが、主人公たちの心理に良く分からない部分が多く、クレマンが何を描きたかったのも把握出来ていないので★三つです。

 撮影は後に英国アカデミー賞を三度(全てモノクロで)受賞するオズワルド・モリス。
 屋外シーンには詩情を感じさせるものが多く、僕は夕暮れに街灯に火をつけて廻る父親と幼い娘のシーンが印象に残りました。

 1954年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を獲ったそうです。

・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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