とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

美内すずえ対談集 見えない力

2018年11月03日 17時01分43秒 | 物理学、数学
美内すずえ対談集 見えない力
梅若 実(能) 甲野善紀(古武術) 大栗博司(物理学)と語る

内容紹介:
国民的ベストセラー漫画『ガラスの仮面』の美内すずえと、「紅天女」「神秘体験」「宇宙」・・・・。「見えない力」をテーマに、能、古武術、物理学の天才たちと縦横無尽に語り尽くした1冊。梅若実、甲野善紀、大栗博司を迎え、能の見方、武術、超弦理論の入門書としても面白く、優れた内容です。連載40周年を迎えた『ガラスの仮面』については、「見えない力」に導かれたとしか思えない神秘的な創作秘話が披露され、心肺停止23分より意識を回復したご主人のことなど、生命についての深い思いを初語りされています。
2018年10月刊行、296ページ。

著者について:
美内すずえ
漫画家。代表作『ガラスの仮面』は、累計部数5,000万部を超え、少女漫画史に名を残すロングセラー。1976年の連載開始より40周年を迎え、各地で原画展が開催される。漫画家としてもデビュー50周年を迎えた。他の作品に『アマテラス』『はるかなる風と光』『妖鬼妃伝』など。
美内すずえさんの著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で379冊目。(大栗先生との対談の章が理系なので理数系書籍としてカウントしておく。)

大栗先生が先月ブログで紹介されていた本を読んでみた。漫画家の美内すずえさんとの対談をされたという。まったくの理系素人の方との対談である。いったいどんな話になるのだろう?

美内すずえさんとの対談(大栗博司のブログ)
https://planck.exblog.jp/29793239/


本の著者は大栗先生ではなく美内すずえさん。少女漫画はこれまで1冊も読んでいないから美内すずえさんのことも、『ガラスの仮面』という漫画も知らなかった。それどころか、本書で対談されている能楽師の梅若実さん、古武術の達人の甲野善紀さんのことも存じ上げなかった。

本の紹介には次の文章が。

『ガラスの仮面』の美内すずえと
「紅天女」「神秘体験」「宇宙」・・・・。

見えない世界に何がある!?

能の祈りから9次元世界まで
天才たちと語り尽くす!



対談されている4人の先生方は、それぞれその道を究められた方だから「天才」ということなのだろう。尊敬すべき先生方だ。ウィキペディアでご経歴を拝見し「素晴らしい方だ」と感じた。

けれども、大栗先生以外の3人の先生方は、本来見えるはずがないものが見えてしまう方らしい。

そもそも「力」は目に見えるものではないのだから「見えない力」という表現は当たり前のことだけれど、基礎物理学の4つの力を信じている大栗先生以外の3人の先生が信じているのは「神通力」、「霊力」、「神業」、「秘蹟」、「予知能力」、「超能力」の類である。Amazonから「見えない力というキーワードで検索」すると、でてくるのは僕が絶対読まないと思っている本がほとんどだ。

第1章は能楽師の梅若実さんとの対談、第2章は武術研究家の甲野善紀さんとの対談、第3章は大栗博司先生との対談で、各対談の後に美内さんの書かれた感想や、ご主人が心肺停止になられた経験と昔の思い出を書かれたあとがきがある。

第1章と第2章については、まったく経験したことがない世界の話なので「そういうものなのか。」と読み進めるしかなかったし、「見えてしまう人」どうしが対話の中で引き合いにだす「もっと見えてしまう人」や「神業をなしてしまう人」の話を読むと、眉唾だと思わずにいられなかった。伝聞で伝わるこのような話は大袈裟になりやすい。

僕のブログをお読みになるのは理系の方がほとんどだから、本書の感想記事をこのように書いてしまうと、大栗先生との対談以外は読む価値がないと思ってしまうことだろう。しかし、通読してみたところ、あながちそうとも言い切れないものが残ったのだ。

第3章の大栗先生との対談は「9次元からきた男」の講演会でお話になったことや、これまでにお書きになった「重力とは何か」、「強い力と弱い力」、「大栗先生の超弦理論入門」をお読みになった方なら知っていることばかりである。しかし、美内さんに対して大栗先生はわかりやすく、かつ誤解を生まないよう慎重に言葉を選んでお話になっていることが読み取れた。(一例をあげれば、2つの理論の統一と言わずに、まず「統合」というより日常的に使う言葉でおっしゃっていたことなどだ。)

さらに大栗先生のすごさは、とことん相手の立場を尊重するということだ。美内さんは超弦理論で意味をもつ496という完全数について大栗先生に説明を求めたあと、奈良県の山深い民家で目覚めるときに欄間に発光している三角形と3つの3桁の数字が見えたという話をされた。そのうちのひとつが614という数字である。

僕などはそのような話をされたとしても、軽く受け流してしまうところだが、大栗先生は「三つの平方数の和として9通りの表現を持つ最小の数」だと回答された。たまたま知っていたのか、それともその場で見つけた事実なのか僕にはわからないが、超弦理論のように高度な数学を駆使して研究されるときは、たまたまでてきたように見える数字に意味を見出す能力が極めて重要なのだろう。数学者ラマヌジャンのことも引き合いにされていたが、凡人がとうてい及ばない天才に必要とされる能力、インスピレーションなのだと思った。

「数学は嫌い」と前章の対談でおっしゃっていた美内さんも、大栗先生の説明に「えっ、そうなんですか!?」と驚かれ、神秘的な数学の世界にも大いに興味を持たれたようだ。物理や数学と無縁な人と話すとき、どのようにすれば興味を持ってもらえるか、僕は大栗先生からヒントをいただいたのだと思う。

第3章のタイトルは『宇宙は「見えない力」で満ちている』だ。基礎物理学の4つの力は、人類にとってすでに発見済みの力だが、解明されていない謎がまだたくさんあるはずだ。謎の解明に「終わり」や「最終的な限界」があるのかもわかっていない。

また、大栗先生を突き動かしているのはそのような謎に対する「好奇心」であることは間違いない。物理学者だから論理的に研究を進めていらっしゃるのはもちろんであるが、理性だけでは済まされないインスピレーションや感性、直感などが働いているのだと僕には思える。これもまた「見えない力」なのだと思った。先日紹介した岡潔先生の「人間の建設:小林秀雄、岡潔」や「岡潔/多変数関数論の建設:大沢健夫」にも岡先生にとって数学が論理だけではなく「感情」の働きが大きな役割を果たしていることが書かれている。

美内さんご自身も含め、本書で対談をされた4人の先生方が、それぞれの道を究められたのは、方向性や内容は全く異なるが、それぞれが「見えない力」を感じ、信じ続けていたからなのだと思った。

人生は偶然に左右されるし、人はとかく「見えるもの」に惑わされやすく、道を誤るものだ。見えないものを信じ続けることで、人生をより豊かに真っすぐ生きられるのかもしれない。「見えないもの」は生きるための原動力なのだ。そのような感想を僕は本書にもったのである。


これまで存じ上げなかった美内さんに対しては、漫画の世界での今後のご活躍とご主人の回復を心から願っている。


関連ページ:

大栗先生のホームページ:
http://ooguri.caltech.edu/japanese

Kavli IPMU 機構長になりました
https://planck.exblog.jp/29830686/

大栗博司先生がKavli IPMU機構長に就任
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/afb0f086ed0b1a75972b7f70cf568576


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美内すずえ対談集 見えない力
梅若 実(能) 甲野善紀(古武術) 大栗博司(物理学)と語る


第一章「思い」という見えない力
梅若 実(能)×美内すずえ
あとがき『紅天女』不思議考

第二章 極めた先にあるもの
甲野善紀(古武術)×美内すずえ
あとがき「超人間」不思議考

第三章 宇宙は「見えない力」で満ちている
大栗博司(物理学)×美内すずえ
あとがき「数式宇宙」不思議考

全体あとがき「生命」不思議考
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2 コメント

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そりゃそだ (hirota)
2018-11-04 13:35:26
僕にとっても経済力や生活力の方が重要だからなー。
Re: そりゃそだ (とね)
2018-11-04 15:03:21
hirotaさんへ
僕もそうです。まず、食う寝るところ、住むところが大事です。
経済力は腕に光っている豪華な時計、レンズ沼にハマっているひとはレンズの本数や買い替えの頻度、乗っているクルマの価格などによって、間接的に見ることができますね。

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