陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

働かせかたは、法律だけでは解決しない(二)

2018-08-11 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

働き方改革関連法の三つの柱について、6月30日の読売新聞朝刊紙面に特集が組まれています。本稿はこの記事を参照にしています。

ところで皆さん、日本の労働者の法定労働時間ってご存知ですか?
「1日8時間、週40時間」ですね(労働基準法32条)。ただし、特例事業(商業、映画、映画製作のぞく演劇業、保健衛生業および娯楽業のうち常時10人未満の労働者の事業場)ならば週44時間まで。
「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと。たとえ、労働契約、就業規則、労働協定に、法定労働時間内の定めがあったとしても、実際に、休憩中もしくは朝の早出や退勤時間後に働かせたりすれば、時間外労働させたことになる。

この法定労働時間には、労基法に規定された例外があります。
変形労働時間制と呼ばれ、「一箇月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」「1週間単位の非定型的変形労働時間制」の4種あります。これらは、ある一定期間平均して1週間の法定労働時間(8時間)を超えなければ、特定日や特定週のみは法定労働時間を超えても構わないという措置。

これとは別に、合法的に時間外労働を行わせてよい制度がありました。
労基法36条、俗にいう「三六(さぶろく)協定」ですね。労使協定をし、使用者がこれを行政官庁(労基署長)へ届出すれば、時間外労働させても休日労働させても違反にならない。三六協定による時間外労働には、「週15時間、月45時間、年360時間」の上限がありました。しかし、「特別条項付き協定」として特別の事情(あくまで臨時的なもの)があり手続きを経れば、一定期間労働時間を延長できてしまうのです。

今回の法改正では、労使が特別条項に合意しても、「月100時間未満」「年720時間」「2~6箇月平均で80時間」などの限度が設定。残業が月45時間超えてよいのは、年6回まで。しかも、違反企業には6か月以下の懲役か30万円以下の罰金という罰則規定も。これまで時間が労働の限度基準を外れた協定は無効にもできず、労基署長が助言指導するのみで変更できもしなかった点から比べれば、かなりの進歩です。

しかし、この残業規制には課題も残されています。
大企業では2019年4月から適用なのに、人手不足に配慮して中小企業は20年4月から。また、自動車運転業、建設業、医師などは適用が5年遅れで2024年4月から。技術や商品などの研究開発業務には上限規制を適用しない。法38条の「専門業務型裁量労働制」が適用されるからでしょう。これは、情報処理システムの分析設計者、記者や編集者、デザイナーや番組制作のプロデューサーなどが対象の変形労働時間制です。

労基法で定められた労働時間、休日、休憩の適用外となる労働者がいます。(法41条)
・農業、水産・養蚕・畜産業従事者
・監督又は管理の地位にある者
・監督又は断続的労働に従事し、行政官庁の許可を得た者(守衛、門番、寄宿舎の管理人等)

このうち、監督又は管理の地位にある者の定義が悪用されて、名ばかり管理職としての過重労働で過労死し判決で労災認定されたケースが話題になりましたね。残業代の支払を命じる判例も増えています。労働時間短縮の流れはいいものの、中間管理職が部下の業務肩代わりで負担増加したりすることも。親(もしくは配偶者)の介護や子育て時期と重なって疲弊する、中年管理職もいます。独身の高齢化も進んでいますので、高給取りの会社員であっても介護離職したがために困窮し、地域で孤立してしまい、親子共倒れになることも多いとか。

長時間労働の防止策として期待されたインターバル制度(終業から次の始業まで一定時間空ける)も、努力義務とされてしまい、法的拘束力があるわけではありません。ただし、一定条件では後押しをする模様。
「インターバル勤務に国が助成金 中小に最大100万円」日経オンライン2018/08/06
近年、慢性的な睡眠不足が健康を脅かすという睡眠負債が問題視されていますよね。自宅への業務持ち込みを可能にするテレワークも推進されていますが、情報漏洩やワークライフバランスの崩れも懸念されていて、あまり普及しているとは言い難い。

バブル崩壊後、効率化をめざし残業削減に取り組んできたはずの日本企業。
裁量労働制、フレックスタイム制、在宅勤務、早朝出勤、サマータイムなど。定時消灯や罰金、残業の事前申告制で強制的に労働時間短縮を図る。私がかつて勤務していた専門商社では水曜はノー残業デーでしたし、PCで出退勤を入力している大手企業や公法人では分単位で退社時間にうるさいところもあります。

しかし、残業は減っていません。
厚生労働省による2015年の「毎月勤労統計調査」によれば、一般労働者(短時間・パートタイム労働者のぞく)の年間総労働時間は2000時間超えで、1995年とほぼ変わらない。背景にあるのは、残業すれば会社に評価されるという風潮、そして仕事量が減少していないことが挙げられます。


働かせかたは、法律だけでは解決しない(目次)
2018年6月29日に改正成立した働き方改革関連法により、日本の労働慣行は大きく変わるのか? 労働対価を時間で計っていた慣行からの脱却、金銭的な待遇の格差是正があったとしても、「労働者」と「使用者」との間にある本質的な、不幸な不和が消えない限りは日本の労働現場での痛ましい事故や事件はなくならないだろうと思われる。




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