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意思による楽観のための読書日記

メイド・イン京都 藤岡陽子 ****

学生時代の自分の夢の実現を古都京都でチャレンジしてみるという女性の物語。主人公は美咲、美術大学を卒業後、自分には美術での成功は無理と考え、小さな会社に勤めていたが、32歳で4歳年下の銀行マンの和範と結婚することにした。和範の実家は京都の老舗だと聞いていたのだが、どのような商売でどこにあるのかもよく分かっていたかった。結婚する前に一度和範の実家に行って、家族に挨拶して、しばらく一緒に過ごしてみるつもりだった。

行ってみると大きなお屋敷で、姉の知佳、母の真知子と同居することになる。父はその直前に亡くなっていて、和範が急遽その跡取りをすることになり、結婚もそれがきっかけだった。和範には叔父の修が会社の専務としていて会社の実権を握ろうとしていたため、和範も母の真知子もそれを阻止しようとしていた。京都のしきたりを知らない美咲は、コトあるごとに和範の家族との摩擦と軋轢を感じる。和範も会社の立て直しと乗っ取り阻止で美咲のことをかまっている余裕もない。小さな喧嘩が積み重なり、美咲は和範と一緒に家を出てアパートぐらしになる。

悩んだ美咲は大学時代の桜子に連絡、大学時代の同級生が滋賀の安曇川で陶芸工房を開いているというので、そこを訪れたらどうかと提案してくれた。そこでは大学時代の同級生の佳太が作品作りに没頭、そこで瑠衣に出会う。瑠衣は美咲が京都に来てから作ってみた刺繍によるオリジナルデザインのTシャツを高く評価して、それを瑠衣のイトコの披露宴会場で展示販売してみることを提案してくれた。美咲は一度は諦めていた自分の作品創りにもう一度可能性を見出したいと感じ始める。同時に久しぶりに再会した佳太に好意を抱くが、喧嘩中とはいえ自分には和範という婚約者がいる。瑠衣と佳太の関係を忖度し何も言うことはなかった。

和範と飛び出した出先のアパートでも二人はうまく行かない。美咲は瑠衣に依頼されたオリジナルデザインのTシャツデザインに没頭、展示会を成功させる。和範との関係が中途半端なママ、瑠衣とのTシャツの展示販売は次々と成功する。和範は美咲との復縁を希望し、美咲の展示会には、真知子や知佳も訪れてきて、和範との関係修復を希望していることを伝えてきた。

東京での展示販売会を成功させた帰りに美咲は和範の会社を訪問、そこで和範が興信所を使って美咲のプライベートを調査、美咲の家族や大学時代の交友関係までも調べさせていたことを知り、和範との関係を断ち切ることを決意する。瑠衣とのビジネスはどんどん広がり、百貨店での展示販売をきっかけに、大型レジャー施設でのオリジナル作品販売契約にこぎつける。しかし、瑠衣の会社が経営破綻、美咲の百貨店での売上金を回収できないことになる。瑠衣にはビジネスパートナーでもある夫がいたが、その夫が裏切った結果だった。

美咲は京都で掴んだ自分の可能性に賭けてみたいと考え、きっかけを与えてくれた京都に事務所を設置して起業することにする。そして瑠衣とはビジネス上の関係しかなかった佳太に自分の気持ちを打ち明けることにする。物語はここまで。

32歳女性の再チャレンジ物語だが、背景にあるのは古い街京都の伝統とシガラミ、そしてその街が持つ可能性とビジネスポテンシャル。京都生まれの作者が感じている京都に対する「スキとキライ」が小説になったような、「京都ぎらい」の小説版とも言える内容。京都人が意識してもしくは無意識に持つ「上から目線」と活かしきれていない京都の街のポテンシャル。再チャレンジする女性にその可能性を重ね合わせている。婚約しているのにお互いの家族同士が顔合わせもしていないこと、佳太と瑠衣の関係を美咲が誤解してしまう設定など、少し無理がある気もするが、作者の京都愛を感じる作品。京都好きなら読んでいて楽しい一冊。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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