福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

観音霊験記真鈔3/34

2024-04-03 | 諸経

観音霊験記真鈔3/34

西國二番紀州紀三井寺等身十一面の像。等身とは一搩手半にして而して金で一尺二寸也。已下一搩手半の長さ之に準じて知るべし。(一搩手半(ちゃくし約36センチ)は仏像などをつくるときの定則)

釈して云、十一面観音とは弘法大師所述の性靈集に云、所謂、ありやえいたかしゃほっきゃ、翻じて大聖十一面観世音と云。此の観世音頭上の尊形を頂戴して在す故に外相の頭上に随って名を立つるものなり。玄奘三蔵所譯の十一面經に云、當前の三面は慈悲の相を作し、左邊の三面は瞋怒の相を作し、右邊の三面は白牙を上に出す相を作す。當後の一面は暴悪大笑相に作し、頂上の一面は佛の面相に作る(十一面神呪心經「世尊若欲成立此神呪者。應當先以堅好無隙白栴檀香。刻作觀自在菩薩像。長一搩手半。左手執紅蓮花軍持。展右臂以掛數珠。及作施無畏手。其像作十一面。當前三面作慈悲相。左邊三面作瞋怒相。右邊三面作白牙上出相。當後一面作暴惡大笑相。頂上一面作佛面像。諸頭冠中皆作佛身。其觀自在菩薩身上。具瓔珞等種種莊嚴。」)。十一面經は蔵經の中に四部四譯の類本あり。是即ち説時各別なるが故に。同本異譯と云には非ず唯だ四部四譯の經なり。今は四部の随一玄奘の譯經に依りて述す。謂く、十一面の中に前の十一面異相の面貌を説くと雖も實に其の各體の名無し。按ずるに前の十一面は観音自體の所變なるべし。既に普門品の説に依るに種々の形を以て諸の國土に遊びて衆生を度脱すと説き玉へる故に已上。次に観世音とは梵語には、阿黎耶婆婁吉底輸ありやはるきていしゅ、と名く。此には観世音と云ふ、観音玄の説。観とは観察の義、抜苦大悲の慧観なり。世とは破壊すべきの義躰即ち生死有情世間なり。音とは有情の口業、所謂世間の音聲を観じて世間の苦を救ふ故に観音と名く。(述秘抄の意)。是即ち一切衆生音聲を出して菩薩の名號を稱ふれば、菩薩其の音聲を聞玉ひて大悲の恵を以て観じて其の音聲に随って救ひ玉ふを以て観世音と云ふ意なり。委くは観音普門品に見えたり、之を略す。尚ほ観の字に付て釋する事あり。下に至て辨ずべし已上。次に菩薩とは梵語なり。具には菩提薩埵と云。諸師の翻譯不同なり。秦譯には菩提を道と翻じ、薩埵を大心衆生と云。是菩提は佛道の名なり。能く大心の衆生有って大乗に入るが故に菩提薩埵と名く。大心とは大乗の心なり。肇法師(じょうほうし。中国後秦の仏僧。鳩摩羅什門下の四哲の一人。中国仏教史・中国哲学史の重要人物。現存する著作に、道家や儒家の思想を含む論書『肇論』(じょうろん)『註維摩詰経』など。)両巻の疏に云く、菩薩は外国には摩訶菩提質多薩埵と云、此には大道心衆生と云、乃至、菩薩は修行によりて生ず故に衆生と言ふ。発心して佛を求むる故に大道と為ると言ひて、一切を利益し道法を以て佗を成すれば成衆生と言矣。(觀音義疏卷上「菩薩者。外國云摩訶菩提質多薩埵。此云大道心衆生。始心行者爲煩惱所生。二乘爲五分法身所生。六度菩薩爲福徳所生。別圓爲中道所生。」。觀音義疏記卷第一「又約上求下化而釋。前以衆行生己假人。今以道法成他衆生。」)。摩訶は梵語なり。此には大と翻ず。是れ初心五品住行向地の小菩薩に非ず。等覚地上の大菩薩なる故を標す。(『菩薩瓔珞本業経』に説かれる十信・十住(習種性)・十行(性種性)・十回向(道種性)・十地(聖種性)・等覚(等覚性)・妙覚(妙覚性)のうち、十信以下を外凡、十住以上を内凡、十住・十行・十回向を三賢、十地を十聖とよび、あわせて三賢十聖という)。故に大と云ふ。是は有財釋(合成語全体が形容詞として所有の意味をもつもの,たとえば「四足」「青目」)なり。又小機二利の二乗に簡易す。化佗の大悲を以て常に無住涅槃の大道心を成就す、此の故に大と云ふ。是大道心衆生なるが故に持業釋(前分が形容詞,副詞などの働きのもの,たとえば「金剛堅 (金剛のように堅い) 等」)也矣。所詮は利他を本として六道に此の身を分かって一切衆生を済度し玉ふなり。観音三十三身に變化し玉ふことを思ひて知るべし。観音等を佛と名けて尒(しかる)べし。謂く、観音地蔵等は本(も)と古佛の再来なり、釈迦如来の法を助ん為に従果向因して假に菩薩の因地に降りて設化し玉ふなり。故に観音授記の經に説くは観音の因地は正法如来と號す云々(観世音菩薩授記経には正法如来の名なし。觀音玄義には「佛言。當發菩提心。從如來初發菩提心。次阿彌陀佛後當成正覺。觀音名普光功徳山王。勢至名善住功徳寶王。又如來藏經亦云。觀音文殊皆未成佛。若觀音三昧經云。先已成佛號正法明如來。」。大慈大悲救苦觀世音自在王菩薩廣大圓滿無礙自在青頸大悲心陀羅尼には「觀音本師無量壽如來。觀音本正法明如來」)。尒(しかれ)者佛と稱するに失事無きなり。猶十一面観音の名義此に於いて未盡なり。下に至て委しく記すべし矣。次に十一面大悲の像の利益を言はば、西國二番紀州名草郡紀三井寺の等身十一面観自在の像は寶亀元年770年唐僧威光上人の開基なり。然るに威光上人、天王寺に在りて法華経を持すること多年なり。或旹熊野に詣でて本寺に帰りしに、日暮れて村里を過ぐるに宿無し、故に大樹の下に寝る。夜半に至りて馬に乗りたる者三十四人樹の下に来りて一人を呼んで云く、翁有りや否や。答て云く、翁あり。問ふ、汝何ぞ前に去らざるや。答て云く、馬の足そこねて乗ることを得ず、齢亦老たれば歩むこと最成ず。諸の馬過ぎ去りて見ず。明旦威光上人怪しみて樹下を見るに神の社あり。其の像朽ちたる前に片板あり。上に馬の形を寫す。前足の處、其の板破る。威光上人則ち糸を以てかけつなぎ、而も神の言を試んとするに馬又来たりて云く、師の馬の脚を愈(いや)し玉ふ事悦び限無し。即ち甘食をだして威光上人に捧ぐ。威光云句、多くの馬は何人ぞや。翁の云く、疫神なり。神世界を廻るに我は乗馬なり。若し出ざれば笞を受く。今師の恵みを蒙り悦び深し。我偏に君に望みあり。威光の云く、何事ぞや。翁の云く、我今此の身は鄙き神靈なり。苦を受る事,量(かぎり)無し。願くは師、樹下に付て三日三夜妙法蓮華経を誦せば我形を轉じて浄妙の身を得てん。威光是を憐みて三日經を誦す。第四日目に神頭面を出して作禮して云く、師の慈力に依りて補陀落山に生じて観音の眷属と成ることを得たり。願はくは草を結んで船を作り我が本像を乗せて海上に浮かべよ。我れ言の虚しからざる事を知らせんと。威光教の如くするに波風静かにして其船南を指して走り飛ぶが如くに見へず。村里の老人夢を見るに樹神観音菩薩と成り身相金色に光明赫奕として南方に飛び去ると。威光上人此に於いて十一面大悲の像を刻み村里の人と心を合わせ一寺を建てる。今の紀三井寺是なり已上。斯れより霊験日々に新たに利生限り無し。故に西国第二番目に安坐在すなり。或人云く、玄昉法師の開基とも云へり。二事少しく異なりと雖も並べ記して疑敷を傳ふると云へり已上。

歌に「古里を遥々爰に紀三井寺 花の都も近く成る覧」

私に今歌の意を案ずるに、表の意は上の五文字にはふるさとをはるばると立て第二番目の紀三井寺まで来れりと云へるは、歌の枕詞に依って爰に来ると言かけたり。下の意は是まで来る故に平安城の都もちかくなると云へる意知り易し。裏の意は古里をはるばる爰に紀三井寺とは謂く、古里とは我等本覚の都に在りて佛平等の肌となりしが、無明の一念に迷はされ下々来々して娑婆流轉の凡夫と成ってあれども、観音の悲願を頼って終に穢土を去って浄土へ往生すべき期も近くなる故に、花の都も近くなるらんと詠じ玉ふ。心の程深妙なる歌なり。今佛教に合せば善導大師観經の定善義に釈して云、帰去来(かへりなんいざ)魔境停るべからず。曠劫より来(このかた)流轉して六道盡(ことごとく)皆經たり。到處餘樂無し。唯愁嘆の聲を聞く。此生平を畢って後に彼の涅槃城に入る矣(觀經正宗分定善義卷第三「讃云。歸去來。魔郷不可停。曠劫來流轉。六道盡皆經。到處無餘樂。唯聞愁歎聲。畢此生平後。入彼涅槃城。」)。又努々力(つとめて)迷を翻し本家に還れ、已上。前に釋する帰去来等の文に段々問答有り。傳通記等の意なり。今繁を恐れて之を略す。所詮前の和歌の意は本法流轉還滅の情を詠ぜり。学者仔細に眼を付けるべし。本法流轉還滅等の義は起信釋論(大乗起信論、釋摩訶衍論)又は楞厳・圓覺經等に委悉なり。(大乗起信論「久遠熏習力故、無明則滅。以無明滅故、心無有起。以無起故、境界随滅」。釋摩訶衍論卷第二「論曰。心生滅門有十種名。云何爲十。一者名爲藏識門。攝持一切染淨法故。二者名爲如來藏門。覆藏如來法身體故。三者名爲起動門。相續作業故。四者名爲有斷有縛門。有治障故。五者名爲有去有來門。有上下故。六者名爲多相分異門。染淨之法過恒沙故。七者名爲世間門。四相倶轉故。八者名爲流轉還滅門。具足生死及涅盤故。九者名爲相待倶成門。無自成法故。十者名爲生滅門。表無常相故。是名爲十。如是十名。」)往て見つべし。廣くは天台七帖見聞(天台名目類聚鈔のこと。衆生も佛も迷悟の別なく生佛不二なりと説く)に釋せり。之を略す。已上。

新後拾遺集第九巻の兼好の歌に

「都思ふ草の枕の夢にだにも 頼む方なく 山風ぞ吹く」

亦薩摩守忠度の歌に

「月を見し 去年の今宵の 友の宮 都に我を思出覧」已上。

前の西國の歌と引き合わせて観ずべし。大に感吟を催ほさん矣。

 

 

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