油屋種吉の独り言

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ポケット一杯のラブ。  (4)

2024-03-19 21:44:13 | 小説
 これほど率直に自らの想いを他人、まして
や女の子にぶつけられるとは……、ちょっと
前まではとてもじゃなかった。

 どうせ自分なんか幸せになれるものか。い
や幸せになってはいけないんだ。

 そんな想いが思春期に入ったばかりのYの
こころをむしばんだ。

 どうしてそんなことを考えてしまうのか。
 Y自身よくわからなかった。

 足早に郵便局へともどりながら、Yはこれ
までの十四年足らずの人生を、振り返った。

 父母と祖母そしてYの四人暮らしだった。
 母と祖母に対する気遣いが、子どもなりに
半端じゃなかった。

 幼い頃は、母と祖母、互いに相いれないと
ころがあると感じながらも、久しぶりの男の
子誕生のうれしさがあって、祖母は母に対し
て感謝の念さえ持っていた。

 「可愛い子を産んでくれてありがとう」
 祖母の母への一言が、それを象徴していた。

 人間として正直で率直な気持ちが、持病が
ある祖母が陥りがちなひねくれた根性を、しっ
かりおさえこんでいた。

 彼女らの仲がわるくなったのは、いっしょ
に住みだして、しばらく経ってからだった。

 馴れ馴れしさがわざわいしたのだろう。
 祖母は四十代の初めにリュウマチズムをわ
ずらった。

 自己免疫疾患といわれ、原因は不明。あご
の関節をのぞき、からだの節々が痛み出した。
 その苦痛は表に出さないでいられるもので
はなかった。
 痛みが消え去ったあとは、関節が曲がって
いた。

 祖母本来のこころねとは裏腹に、その痛み
が、Yの母の義母に対する思いやりを、やす
やすと打ち砕いた。
 
 世間でいう嫁と姑の対立。
 母と父の母とのいがみ合いは、Yが私立中
学受験に失敗し、公立中学に進学した時点で
極まったようだった。

 Yを巻き込む形で、もはや抜き差しならな
いところまで来ていた。

 Yの父はふたりの関係がまずいのは、それ
となくわかっていたようだった。

 だが、男は仕事とわりきり、朝早く会社に
でかけ、夜遅くなって帰宅した。

 Yが小さいうちは、彼の妻はYの添い寝。
 ねんねんよう、おころりようと歌っている
うちに自らも寝入ってしまう。

 「旦那さんが帰宅するまでは妻たる者なん
としてもは目ざめているべき」
 祖母は眼差しがそう語っていたが、父は彼
の母に同調しなかった。

 決して自分の妻を叱らない。ただ黙々と自
らの成すべきことを成していただけだった。

 そんな環境のもとで、Yは暮らした。
 中二の男の子は、いまだに子どもらしさを
あちこちに残しているもので、悪夢も幼稚っ
ぽいもの。

 大狐がうちのまわりをうろついたり、怪獣
が、両耳をおさえたくなるくらいの大きな声
をあげながら、Yの住む街をのっしのっしと
歩きまわって、建物という建物をこわす。

 今一つは、太い蛇が細い蛇をくらう夢。
 しかしながら、ついには細い蛇が太い蛇の
腹を食いやぶって出てきたのにはびっくりさ
せられた。

 まるで何かを象徴するかのようで、そんな
夢をみたゆうべは、Yのシャツはびっしょり
汗で濡れた。

 素直で正直だったYの性格はいつしかねじ
曲がってしまい、ひねくれ者になるのに時間
がかからなかった。
 
 

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1 コメント

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Unknown (sunnylake279)
2024-03-20 09:34:37
おはようございます。
Yは複雑な家庭環境の中で育ったのだとわかりました。
子どもの性格は、周りの環境にとても影響を受けるものなのですね。 
温かい家庭で育った子どもは、のびのびと大らかな性格になるのでしょうね。
特に母親の影響は大きいように思います。

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