ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

その結婚は止めておきなさい

2022-05-06 07:37:12 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「教育って言われても」5月1日
 ノンフィクション作家河合香織氏が、『ゲノム医療推進 差別防止法と教育で』という表題でコラムを書かれていました。その中で河合氏は、『法整備や教育により、どのような遺伝を持とうとも責任を押し付けられることなく、個々の意思決定が保証されるようになることが、ゲノム医療を推進する一歩である』と書かれていました。
 差別に傾きがちな人々の考え方や価値観を修正していくためには教育が必要というのは、大筋では理解できるのですが、具体的にどのような内容になるのか、ということについてはとても難しいと思います。
 身近なところで言うと、妊娠した女性が検査の結果、生まれてくる子供に染色体異常が疑われるという診断を受けたケースでは、多くの場合中絶を選択するという現実があります。その背景には、ダウン症児に対する無知と偏見があります。そこで、ダウン症児を育てている保護者に話を聞いたり、医師や行政の担当者の説明を聞いたりして、どのような困難があるか、支援体制はどうなっているか、子供が成長していく喜びはどのようなものかなどについて理解していく、という取り組みがなされる(実際には十分ではないが)ことになります。
 しかし、上述のような取り組みが十分になされたケースにおいても、半数を超える人が中絶を選択するのです。こうした差別や偏見を正すことは、現時点ではできていないのです。河合氏が論じている「遺伝」における差別は、ダウン症児の場合とは比べものにならないほどの広い範囲の「遺伝」が対象となるのです。記事でも、『がんや難病(略)糖尿病や肥満症、免疫・アレルギー疾患、精神・神経疾患などいくつもの遺伝子が関与する~』と書かれています。
 それらすべてについて、医学的な知識だけでなく、差別が予想される場面、つまり『保険加入や雇用、結婚、教育』それぞれについて、具体的な事例を取り上げ、自分が差別される側にも差別をする側にもなり得ることを理解させ、差別を許さない態度を身に付けさせていくというのは、大変な難事業です。
 そして、根源的な問題として、教員自身が「あなたは、将来難病に罹るリスクが他の人の10倍ほど高く、そのことは子供にも遺伝する可能性が高いと診断を受けた人と結婚しますか」という問いに対して、イエスと答えられるのか、ということがあります。子供に「遺伝」情報での差別は許されないと言いながら、自分は差別するけど、というのでは、指導は成り立ちません。子供や保護者から、綺麗事を言うなと言われてしまうでしょう。しかし、そう考え、沿う行動してしまう教員は少なくないと思います。
 従来からある人権課題、同和問題、女性差別、障害者差別、外国人差別などについては、こうしたことはありません。実際の行動となると多少の齟齬はあるかもしれませんが、少なくとも理念として、同和地区出身者は自分たちとは違う、女性は感情的になりやすく男性とは違う、障害者は少しの不便は我慢すべきだ、外国人は日本人ではないのだから日本に自分たちの価値観をもちこむな、などと口にする教員はいません。でも、遺伝差別については、難病になる確率が高いと言われてしまうと結婚は難しいと考えるのは仕方がない、という考え方を支持する教員はいるだろうということです。
 まず教員の意識改革から着手しなければ、河合氏が考える「教育」は実効性を持たないでしょう。早急な対応が必要です。

 

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