彼は、いつものように職場(しょくば)のデスクで働(はたら)いていた。部下(ぶか)が彼に声をかけた。
彼は顔を上げると、目の前の男性を見て思わず呟(つぶや)いた。「君(きみ)は、誰(だれ)だ?」
部下の青年(せいねん)はからかわれたと思って、「いやだなぁ、山田(やまだ)ですよ。忘(わす)れないでください」
「ああ…、そうだったね。うん、山田くんだ。で、何か――」
――退社(たいしゃ)時間になって、彼は帰宅(きたく)しようと会社(かいしゃ)を出た。そこで、会社に戻(もど)ってきた人に、〈お疲(つか)れさま〉と声をかけられた。彼は、すれ違(ちが)ったその人の後ろ姿(すがた)を見て呟いた。
「今の人は…、誰だったかなぁ?」
後にいた部下の山田が答(こた)えた。「またですか? あれは、社長(しゃちょう)じゃないですか」
――自宅(じたく)に帰った彼は、そこに見たこともない女性がいるのに驚(おどろ)いた。
「君は、誰だ? どうして、俺(おれ)の家に入り込んでるんだ」
女性はきょとんとして言った。「なに言ってるのよ。あなた、大丈夫(だいじょうぶ)?」
そこへ、娘(むすめ)が帰ってきた。「ただいま。パパ、どうしたの? 今日は早いじゃない」
彼は、急(きゅう)に不安(ふあん)に襲(おそ)われた。怯(おび)えるように彼は言った。
「どうなってるんだ? ここは俺の家だ。何で、知らない奴(やつ)らがいるんだ」
彼は頭をかかえてしゃがみ込んだ。娘が母親を見て言った。
「ねぇ、パパどうしちゃったの? おかしいよ。いつものパパじゃないわ」
母親は娘を抱(だ)きよせて、「心配(しんぱい)ないわよ。もう買(か)い替(か)えないとダメかもね」
<つぶやき>これは未来(みらい)の話なの? でも、パパを買い替えるなんて、ちょっといいかも。
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