ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

樋口有介『八月の舟』1999・ハルキ文庫-高校男子のやるせなさ、切なさ、不安を描く

2023年08月30日 | 小説を読む

 2021年8月のブログです

     *

 樋口有介さんの『八月の舟』(1999・ハルキ文庫)を久しぶりに読みました。

 何度か読んでいるのですが、感想文は初めて。

 高校生のやるせなさや切なさ、不安などが淡い恋と一緒にうまく描かれています。

 主人公は母子家庭で育つ男子高校生。

 高校生にしてはニヒルな人生観を持っていますが、好きな女の子にラブレターをうまく書けないでいて悩むという、高校生らしさ(?)もあります。

 例によってあらあすじはあえて書きませんが、不良の親友やその女友達、その周りの同級生やおとなたちとのやりとりが、軽妙でかつ少しだけ哀しいです。

 解説の諏訪来人さんが、樋口さんの小説は、世の中の人間はすべてが努力をしても成功するわけではないが、でも悪いことばかりでもないと励ましてくれる、と述べておられますが、うまい表現だと思います。

 ここには、努力をすれば必ず報われる、という安直な人生観を否定し、しかし、頑張ればそれなりのことはある、という実直な人生観があるようです。

 そして、かなわないことへの哀しみ、やりきれなさ、失望などが避けられないことも経験します。

 これらが、硬直な人生論でなく、すてきな物語として美しく語られるところが魅力です。

 文句なしに面白く、そして、少しだけ哀しい小説です。 

 暑い夏にも、清涼な読書ができて幸せです。 (2021.8 記)

 


コメント    この記事についてブログを書く
« 池内紀編『ちいさな桃源郷-... | トップ | セミくんの声を聞きながらの... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説を読む」カテゴリの最新記事