MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1971 市民権を得た「マッチングアプリ婚」

2021年09月20日 | 社会・経済


 厚生労働省の人口動態統計によれば、国内における昨年(2020年)の婚姻件数は52万5490組で、新型コロナの影響もあって一昨年から約7万3500組減ったということです。しかし、その一方、そうした中でも「結婚」を意識して行動する男女は、一般的に増える傾向にあるようです。

 国内約2800の相談所が加盟する日本結婚相談所連盟が取りまとめたデータでは、コロナ前(2019年11月~20年1月)に月平均で約3万5千件だったお見合いの成立件数は、最初の緊急事態宣言が出た後の昨年4月は約2万1千件台まで落ち込んだものの、その後は着実に回復。今年5月には、(適齢期年齢の人口減少にもかかわらず)過去最多の4万6414件にのぼったとされています。

 やはり、社会環境の変化により人とのコミュニケーションの機会が減ったり、将来に不安を覚える要素が増えたりすると、人は家族のつながりやパートナーの存在を求めるようになるのでしょうか。もちろん、実際の「出会いの場」、つまり接触機会が制限されている昨今では、「オンラインお見合い」や「オンライン・マッチングパーティー」も当たり前になっているようです。

 同連盟を運営する婚活サービス大手のIBJが、婚活する男女約1300人にしたアンケートによれば、回答者の既に約半数がオンラインお見合いの経験が「ある」と答えているということです。また、人を介さない「マッチングアプリアプリ」検索経由での結婚が増えているのも最近の特徴だとされています。

 リクルートが運営する「ブライダル総研」の調査では、2019年に結婚した人のうち、(いわゆる)「婚活サービス」を通じて結婚した人は全体の13%と過去最高を更新。中でも、マッチングアプリをはじめとする「ネット系婚活サービス」(を介した成婚)の割合が最も高くなっているということです。

 一昔前までは、普通にネットで結婚相手を募ったり、機械に結婚相手を選んでもらったりなどということは、恐らく想像もつかなかったことでしょう。しかし今はもう、「新婚さんいらっしゃい」の出会いのきっかけが「出会い系」と聞いても、三枝師匠が椅子からズッコケたりすることはありません。番組の合間のCMに、スポンサーのであるマッチングサイトのコマーシャルフィルムが、ごく当たり前に流れる時代です。

 イマドキの若者のそうした婚活事情を踏まえ、7月27日の時事通信のコラム「晴耕雨浴」に、同社解説委員の小林伸年氏が「結婚願望」と題する一文を寄せています。

 小林氏が各地の結婚式場経営者などから聞いた話では、これまで「結婚しなくてもいいや」くらいに構えていた女性たちが、(コロナ禍の下で)「このまま一人でいいのか」と自問し、伴侶探しを始めるケースが増えているということです。

 そうした状況を、現場は「不安や孤独感を募らせ、家庭を持つ意味を再認識したのではないか」と見ているとのこと。実際、昨年、戦後最悪と言われ前年比で6割減少した結婚披露宴数も今年に入って回復基調をみせており、業界では来年(2022年)にはコロナ前を上回ると予測しているということです。

 さて、それではこのコロナの自粛生活の中で、男女はどうやって出会いを作っているのか。経団連が昨年秋、結婚相手探しにマッチングアプリの活用を勧める考えを表明したこともあって、現在その利用者は(コロナ以前とは比較にならない勢いで)増えていると小林氏は指摘しています。

 もちろん、若者たちも、「それで出会った」と披露宴で公言してはばかることはないようです。「職場結婚」が少なくなった今、マッチングアプリは効率性を重視する若い世代の感覚に(まさに)マッチしており、彼らの中でしっかり市民権を得つつあるということでしょう。

 もっとも、結婚する人が増えても直ちに出生率が上向くとは限らないと小林氏はこのコラムに綴っています。内閣府が行った国際調査でわが国は「子育てしづらい国」に位置付けられている。日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの男女にそれぞれ「子どもを生み育てやすい国かどうか」を問うと、日本では肯定的な回答が少なく、半数以上が「そう思わない」と答えているということです。

 私たちの社会はどこか寛容さを失っている。もとより、子ども連れの女性に社会の非寛容を実感させているようでは出生率が上がるはずもないというのが氏の指摘するところです。

 少子化対策について言えば、政府の必要性の説き方はそもそも間違っている。出生数が減って人口減になると経済規模が縮小し、国力が低下する。だから対策を講じなければならないという理屈だが、それでは当事者の心に響くはずがない。人は国のために結婚したり、子どもを育てたりするのではなく、個人の幸福追求のためにそうするのだということです。

 政府や地方自治体が少子化対策を効果的なものにするには、いま一度子どもに優しい社会づくりに取り組む必要がある。併せて、最終的な政策目標は国民の幸福度の引き上げであると位置づけ、その上で、人生をより豊かにするための選択肢として結婚や子育てを提示する手法に変えるべきだというのが、この一文における小林氏の見解です。

 さて、「マッチングアプリ」に委ねた出会いに眉を顰める世代にはわからないかもしれませんが、若者たちの繋がりや幸せを求める思いは、それだけ強いということなのでしょう。

 折しも、次期政権を担うリーダーを決める自民党総裁選はいよいよたけなわです。幸せな出会いによって家庭が築かれ、家族が生まれ子供たちが育つ。コロナの下でもそんな関係を育んでいけるような対策を、政府にはしっかり打ち出してほしいと感じるところです。



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