社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

中途入社応募者の前職でのことを知りたい場合

2024年04月13日 21時44分30秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

先日、東京オリンピックが終わったら景気が悪くなると言われていたねという話を仲間同士でしました。
確かにそんなことを言っている人がいたなと思い出しました。
オリンピック関連で雇用されていた人が職を失い、景気が冷え込むという論理だったと記憶しています。
個々のことはなんとも言えませんが、世の中的には日経平均株価は史上最高値を超えて、いまだに人手不足感は高いように思われます。
オリンピックが終わったら景気が悪くなるというのは全体感の結果としてはハズレでした。
また、採用難、人材難と言われて久しいです。

一方で、採用難から人材の選択肢が狭まる中、採用のミスマッチも依然多いように思います。
やっと採用してもすぐ辞めてしまうというのが典型ですが、期待通りの成果を出してくれない、面接の際の話と違う、などということもあります。
ほぼ応募者が作ってくる書類と数回の面接で採用を決定する形をとっている会社も多いようですが、できれば前職でどのような働きをしていたかを知りたいと思う採用担当者も多いです。

前職(あるいは直近の退職。以下まとめて前職といいます)でどのような働きをしていたかを知る方法をいくつか挙げてみます。
1.前職の退職証明書をもらう
退職証明書は退職の事実を証明するもので、たとえ退職して縁が切れているようでも会社が(元)従業員に発行を求められたら会社は断ることはできません。このことは労働基準法第22条に定められています。
前職なり前々職に退職証明書を発行してもらい、応募者が応募している会社へそれを渡します。
退職証明書に記載されるのは以下の項目です。
・使用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由(退職の事由が解雇の場合は、その理由を含む。)
簡単ではありますが、履歴書や職務経歴書に書いてあることの裏付けにはなります。
簡単である分、脚色もできないので客観的事実を知るのには良いと思います。なにより法律に定められている書類ですので嘘をかくこともできず信用力があります。
なお、労働基準法第22条第3項に「(退職証明書には)労働者の請求しない事項を記入してはならない。」とありますので、何も言わず提出を求めた場合、全ての項目が書かれていない場合もありえます。そうならないよう、応募者に対し全ての項目(あるいは必要な項目)を埋めて提出するよう求める必要があります。
当然ですが、退職証明書を前職の会社に発行を依頼するのは労働者(=応募者)です。応募を受けている会社が前職の会社へ依頼することはできません。

退職証明書は退職した会社が発行するものですので、在職中に転職活動をする場合はその会社に発行を求めることができません。
従って在職中であればその在職中の会社の前の会社に発行を求めることはできますが、退職から2年以上経っている場合、退職証明書を求めても発行してもらえない可能性があります。
労働者が前職なり、前々職の会社に退職証明書の発行を依頼できるのは労働基準法第115条に定められる時効により2年です。

2.元いた会社へ電話をしてどんな人だったか聞く
応募を受けている会社が前職の会社へ電話して応募者がどんな人だったかを聞きます。聞く方もけっこう胆力が必要かもしれません。
以前は盛んに行われていた印象ですが、最近はどうなんでしょうか。
いきなり電話をされてそれを受けた前職の人が⚪︎⚫︎さんってどんな人でしたかと聞かれたとして『こっちは仕事中なのになんでそんなことに答えなければならないのだ』と思うかもしれません。
ガチャ切りされても文句は言えないですし、それで応募者の評価もできないでしょう。
電話をとった人が個人情報の保護について敏感な場合も考えられますし、特に最近は見知らぬところからの電話を忌避する傾向があるため電話をしても正確な情報を知るのは難しくなっているかもしれません。
とはいえ直で生の事を聞けるのは利点です。費用も電話代程度でほとんどかかりませんが、いい話が聞けたら儲けもん程度かもしれません。
ただし、これを行う際は応募者本人に元いた会社へ電話して聞いても良いかという了解を必ずとっておいてください。

3.バックグラウンドチェック、リファレンスチェックの業者に調査を依頼する
バックグラウンドチェックは応募者の信用情報や経歴の調査、リファレンスチェックは前職での仕事ぶりの調査を行います。
専門業者に依頼するので費用がかかります。
バックグラウンドチェックは業者が独自に調査するようです。
リファレンスチェックは例えば前職で応募者と一緒に働いていた上司や同僚へ、応募者がどんな働きぶりだったかレポートを書いてもらいます。
レポートのフォーマットを見せてもらいましたがかなりの文章量のものを求めています。なお、私が聞いたところそのレポートを書かされる一緒に働いていた上司や同僚への報酬はゼロとのことです。
応募を受けている会社にとってはそのレポートで詳細な事はわかるとは思います。
ただし、ウソまではいかなくても脚色があったり成果を誇大に書いてあり、応募を受けている会社にとっては後に事実と異なると憤慨してもそのレポートを書いた人を責めることはできないでしょう(なにせ書かされている方は報酬ゼロなので)。
従ってこれをやれば全面的に信じられるかというとそういうものでもありません。
これも応募してきた人に対し、バックグラウンドチェック、リファレンスチェックを行うことの同意が必要です。

転職エージェントの活用など、このほかにも方法はありますが、万全の方法はありません。
退職証明書を取ってもらうことを含め、調査を行う場合があることは採用活動の早い段階で応募者へ知らせておいた方が良いと考えます。
退職証明書を取るということは応募者が前職へ連絡することが必要であり、本人にとってはハードルがあるでしょう(事情によりできないこともあるでしょう)。
また調査をしたいと伝えて気持ちの良い応募者はそう多くないと思われます。
応募者にとっては、そんなことをする会社には応募をやめたいと考えるかもしれません。
採用活動の終盤で伝えた場合、会社、応募者双方にダメージがあることが想定されます。

またこういった前職での働きぶりなどを調べる場合、内定前に行うことを強くお勧めします。
調査の結果、内定を取り消したいとなった場合、内定後の取り消しは解雇と同等と捉えられる場合があります。

(当初の投稿後に内容の修正、追記を行いました。)


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