鼠（ネズミ）を殺す薬剤が普及していなかった頃
交番でネズミの死骸を買い上げていたことがあった
死んだネズミ４匹を棒にぶら下げた絵に
寄せ書きが残っている
蓬莱のねずみにたゝる疫（えやみ）かな
高浜虚子
下宿やの焼芋になる鼠かな
高浜虚子
明治三十三年の作と見られ
「鼠買い上げ」をよんだ句である
伝染防止のため、ペスト菌を媒介するネズミ
の買い上げが各地で盛んだった
東京では明治三十三年一月から始まった
「東京市内に於て
捕獲したる鼠は
当分一頭五銭を以て買上ぐ
但本告示は本年十五日より施行す
右買上を望むものは
直ちに各区役所に設置したる
ペスト病予防事務支所に持参し
切符を請取るべし」（東京市布告第二号）
区役所のほか、交番でも切符が交付された
切符は、区役所や銀行で
現金と引き換えることができた
大盛況の様相を呈していた
消毒液にひたして樽詰めされたネズミは
火葬場に送られて焼かれた
明治三十五年末には東京初の患者が見つかり
ネズミ買い取り業者まで現れた
やがて大正十二年九月の関東大震災で
交番の容器が焼失し、世情不安のなか
買い上げも沙汰やみになった
昭和に入っては風化し、忘れ去られ
光景を描写する一連の言葉は過去のものとなり
文字通り死語になっていったのである
ペスト 野生動物やペットからの直接感染のほか、ヒト→ヒト間での飛沫感染の場合もある。発熱、脱力感、頭痛など。致命率は非常に高く、治療した場合の死亡率は約10%だが、治療が行われなかった場合には60～90%に達する。感染者の皮膚が内出血して紫黒色になるので黒死病とも呼ばれる。世紀をまたいで何度も世界的大流行が起きている
世界的に大流行した疫病の死者数
１位 ペスト（1347～51年）―――――死者 ２億人
２位 天然痘（1520年）―――――――死者 5,600万人
３位 スペイン風邪（1918～19年）――死者 4,000万～5,000万人
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新型コロナウイルス（2020～21年） ―死者 413万5996人（23日現在）
