孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  欧米の制裁の効果は? 犠牲者の国内隠蔽はいずれ限界に

2022-08-16 23:19:08 | ロシア
(1個人または1団体への制裁を1件とし、個人や団体との取引禁止や資産凍結などが含まれる一方、石油といった制裁相手をしぼらない広範なものはカウントしていない。【5月11日 日経】)

【表面的には“ビール片手に焼肉”でも、「みんな怖がってここへは来ない」】
****戦闘機と軍艦を眺めて…ロシア人観光客、クリミアのビーチで夏休み****
ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島。そのビーチに白いビキニ姿でくつろぐロシア人観光客の女性がいた。

「もちろん、完全にリラックスしているとは言えません」。アレクサンドラ・ルミャンツェワさんはAFPにそう語ると、真っ青な空を飛ぶロシア軍の戦闘機を見上げた。

クリミア半島最大都市のセバストポリには、ロシア軍が黒海艦隊の拠点を置いている。ウクライナ軍との前線は、北へわずか300キロしか離れていない。

ロシアのウクライナ侵攻後、西側諸国による制裁や航空路の遮断、ロシア経済の悪化などにより、ロシア人観光客は欧州やその他の観光地を訪れることができなくなっている。温暖なロシア国内の黒海沿岸や併合したクリミア半島ですら、ウクライナ南部の戦闘で空域が閉鎖され、行きづらくなっている。

それでもルミャンツェワさんは、夫と息子2人と浜辺の休暇を楽しむために、2500キロ離れたロシア第2の都市サンクトペテルブルクから車を走らせた。

途中、ロシア本土とクリミア半島を結ぶために建設された陸橋を利用した。橋が爆破されるかもしれないといううわさがあり、「多くの人が心配していた」とルミャンツェワさん。移動中には前線へ向かっていると思われる軍の車列を目にしたと話す。

■怖がってここへは来ない
7月のある暑い日、AFPはセバストポリの浜辺を訪れた。少年たちが岩から海へ飛び込み、上半身裸の男性たちがビール片手にロシアの夏の風物詩シャシリク(串焼き肉)を作っていた。海水浴客が涼む沖には、ロシアの軍艦が見えた。

街の中心部では愛国的なロシア音楽が鳴り響き、ウクライナ侵攻を支持する「Z」マークが入った土産物を売っていた。

この夏、クリミアを訪れている観光客は例年より少ない。
郊外のビーチで小さなケバブ屋を営む元戦闘機パイロットのアリベルト・アガグリャンさんは、この夏は子どもをサマーキャンプに行かせる金銭的余裕がなかったと言った。「みんな怖がってここへは来ないんです」 【7月30日 AFP】AFPBB News
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表題を見ると、ウクライナでの戦争にもかかわらずロシア市民生活は平穏が保たれているように思えますが、記事内容を読めば、制裁や航空路の遮断・ロシア経済の悪化などにより移動が困難になっている、クリミアも空域が閉鎖され、橋が爆破されるかも・・・、「みんな怖がってここへは来ない」といった、むしろロシア市民の不安が広がっているようにも思えます。

ビール片手に肉を焼く光景からの印象とは異なる実情もあるように思えます。

【制裁はロシアの戦争遂行能力を削ぎつつある】
ロシア経済全体についても、西側の制裁が効果をあげていないのでは・・・という議論が以前からあります。
たしかに、通貨ルーブルは施行直後の暴落から持ち直し、石油・ガス価格高騰もあって、ロシアの貿易収支はむしろ好調な数字になっているとも。

ただ、そういう表面的な動きにもかかわらず、やはり制裁はロシア経済を追い込みつつあると見る方が妥当かも。

****ロシアさらに成長落ち込みへ、第3四半期はマイナス7%に=中銀****
ロシア中央銀行は1日公表した金融政策報告で、第3・四半期の国内総生産(GDP)伸び率がマイナス7%と、第2・四半期の同4.3%からさらに落ち込むとの見通しを明らかにした。

今年全体の成長率はマイナス4─6%、来年は同1─4%で、2024年にプラス1.5−2.5%まで回復する見込み。これは7月の利下げ発表時の予想と変わっていない。

中銀は「今年全体の落ち込み幅は4月に想定していたよりは小さくなる。同時に供給ショックの影響はより長引くかもしれない」と述べた。経常黒字も年後半に縮小するだろうという。

ロシアはウクライナ侵攻後に西側諸国が発動した幅広い経済・金融制裁をきっかけに景気後退(リセッション)に陥っている。【8月2日 ロイター】
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上記はロシア中央銀行の公式見解ですが、そもそもロシアは具体的な経済指標を公表しなくなっています。ロシア経済の苦しい実態を隠蔽しようとしているとの指摘も。

****突然ロシアが公表しなくなった「経済制裁」が効いている“証拠”****
(中略)ウクライナに侵攻したロシア経済の現状はどうなのでしょうか?「制裁は、あまり効いてない」という報道を、見かけたことがあるでしょう。実際、ロシアの友人、知人に確認すると、「目に見える影響は、インフレだけ」といわれます。

「インフレ」はどの程度なのでしょうか?経済発展省によると、7月1日時点で、前年同期比16.19%だそうです。日本人には驚きの数字ですが、インフレ慣れしたロシア人にとって、「致命的打撃」とはいえません。

では、本当に「制裁は効いていない」のでしょうか?これについて私は、2月から同じことをいいつづけてきました。「制裁の影響は、長期で見なければならない」ということです。なぜ?

2014年3月、ロシアがウクライナからクリミアを奪いました。そして、日欧米は制裁に踏み切った。この時もロシア国民は、本気で「制裁は効かない!」と考えていました。根拠は、「ロシアは、食糧を自給することができ、エネルギー大国であるから」です。つまり、「自給自足できる体制だ」というのです。

ところが、時が経つにつれ、実はめちゃくちゃ制裁が効いていたことが明らかになってきました。もう皆さん忘れていると思いますが、プーチンの1期目2期目、つまり2000年から2008年まで、ロシアのGDPは、年平均7%の高成長をつづけていたのです。ロシア経済は絶好調で、ロシア政府高官は07年ぐらいになると、「ルーブルを世界通貨にする!」などと豪語するようになっていました。

ところが、2014年3月のクリミア併合以降はどうでしょうか?2014年から2020年までのGDP成長率は、年平均0.38%です。つまり、「制裁はバリバリ効いていた」のです。

今回の制裁は、クリミア併合後の制裁より、とても厳しいものです。私は、「地獄の制裁」と呼んでいます。だから、ロシア経済への長期的影響は避けられないのです。

先日のメルマガで、一つの例を挙げました。ロシアの自動車生産が、ウクライナ侵攻前と比べ、【 96%減少 】したという話です。(中略)

これ、どうでしょう?自動車生産が、ウクライナ侵攻後96%減少した。それでも、「経済制裁の影響はない」といえるでしょうか?

ロシア政府が経済統計を公表しなくなった!
もう一つ、「ロシア経済は相当ヤバイのだろうな」と感じたできごとがあります。それは、ロシア政府が、「経済統計を公表しなくなったこと」です。

4月14日付のLENTA.RUは、ロシアエネルギー省が、原油生産と輸出量の統計公表を止めたことを報じています。
4月19日付のRBCによると、ロシア中央銀行は、対外債務データの公表をストップしました。
4月21日のRBCは、ロシア税関が、輸出入統計の公表を止めることを報じていました。
5月12日付RBCによると、ロシア連邦航空輸送局が、航空輸送に関する情報公開を停止しました。
6月14日のRBCは、ロシア財務省が、支出の詳細を公開しなくなったことを報じています。

問題は、「なぜロシア政府は、経済統計の情報を公開しなくなったのか?」です。もしプーチンがいうように、「制裁の影響はほとんどない」のであれば、逆にどんどん情報を公開し、そのことを数字で証明するでしょう。

しかし、ロシア政府は逆に、経済情報に関するデータを公開しなくなっている。つまり、「公開すると、ロシア経済の苦しい実態が国際社会にバレてしまうので公開できない」ということなのでしょう。こんなところからも、「制裁は効いていない」というのが、「ただの強がり」であることがわかるのです。

私は、ロシアがウクライナに侵攻する前から、「侵攻すれば、ロシアの戦略的敗北は不可避だ」と書きつづけてきました。意味は、「ロシアはウクライナとの戦闘に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。たとえ戦闘に勝っても、地獄の制裁はつづいていく。それで、ロシア経済は壊滅的打撃を受ける。それを戦略的敗北とよぶ」ということです。

結局、事態は予想通りの結末にむかっているようです。【8月16日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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制裁はロシアの戦争遂行能力をすでに削ぎはじめているとの指摘も。

****冬に向けて「脱ロシア化」準備中──じわじわ効果を上げる経済制裁****
<為替も石油収益も好調なロシア。しかし、欧州がエネルギーの「脱ロシア化」を急ピッチで進めているため徐々に経済活動は滞り、軍事力にも影響が及んでいる。あとはスピードアップだけ>

ロシアのウクライナ侵攻から5カ月、アメリカとその同盟国による空前の経済制裁がもたらす効果について、当初の楽観的な見方は色あせ始めている。

通貨ルーブルは2月上旬の1ドル=75ルーブルから3月には135ルーブルまで下がったが、5月末には侵攻前を上回る55ルーブルに急上昇。生産高も、好調とは言い難いが、大打撃を受けているわけではない。
それはつまり、制裁が失敗だったことを意味するのだろうか。いや、そうは言えない。

軍事侵攻に対して科した制裁とはいえ、制裁自体は経済的なものであるが故に、軍事攻撃のような速度で効果が表れることを期待してはいけない。制裁の目的は、ロシアの経済活動を抑制し、それを軍事力の抑制につなげることだ。

だがそれも、一夜にして実現はできない。欧米企業のロシア撤退など、ロシア経済を弱体化させる措置が、兵士への給与支払い能力を奪い、兵器製造能力を低下させる。

輸出制限は外国からの兵器・技術購入力を損なう。輸入制限は産業設備の維持を困難にし、ハイテク兵器製造を妨げる。ダメージは徐々に進み、ロシアの兵站(へいたん)と技術力をじわじわと痛めつける。ロシア政府もそれに気付いているだろう。

彼らが東部攻略に固執する理由もそこにある。戦争遂行能力が尽きる前に、何らかの勝利を収めたいからだ。つまり、ロシア経済は既に大打撃を受けている。株式市場は2月以降、大幅に縮小し、大手多国籍企業は撤退。為替相場の回復も、(ルーブル払いを強制する)政府の金融的抑圧の結果にほかならない。

さらに踏み込んだ規制を
ただ、プーチン政権にとって唯一の希望はいまだ健在だ。国際エネルギー機関(IEA)は5月、ロシアの石油収益が年初比で50%上昇したと発表した。アメリカとEUへの石油輸出が消えても、急激な価格高騰と、インドと中国による購入増加で十分に埋め合わせできているのだ。

とはいえロシアの輸入はほぼ半減しているだけに、石油収入が増えても得られた外貨は活用できない。さらに、欧州は石油や天然ガスの脱ロシア化を急ピッチで進めている。

今のところ、欧州の大部分を襲うインフレの主因がエネルギー価格高騰であることから見ても、ロシアが対欧州エネルギー供給の支配によって影響力を保持していることが分かる。だが冬が近づき事態が深刻化すれば、おのずと劇的な脱ロシア化が進むだろう。

そんなわけで、段階的で動きは鈍いものの、ロシアでは兵士の給与支払いが滞り、故障した機械は部品不足で修理できず、電子システムには障害が発生し始める。

おそらく現状の制裁を強化する最も有望な方法は、エネルギーと金融分野でさらに踏み込んだ規制を行うことだ。

エネルギーでは、欧州諸国でロシアの石油と天然ガス禁輸を段階的に実施すること。関税引き上げにも同様の効果があり、税収を各国国民の生活支援に回すこともできる。

金融分野においては、まだ制裁を免れているロシア主要銀行やロシアに投資する欧米企業、ルーブル建て取引などを標的にすることもできる。

制裁が十分な速さで効いていないというなら、スピードアップすればよいのだ。【8月2日 Newsweek】
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【欧州・ドイツの対応】
問題はロシア産エネルギーの顧客である欧州が「脱ロシア」の痛みに耐えられるか・・・というところですが、例えばロシア依存度が高いドイツでは冬に向けて準備を進めています。

****独、10月からガス賦課金導入で合意 消費者にコスト負担求める****
ドイツ政府は、ロシアのウクライナ侵攻による輸入ガス価格の高騰の打撃を受けた供給業者を支援するため、10月から消費者を対象にしたガス料金の賦課金制度を導入することで合意した。経済省が4日に発表した。

政府は先週、この計画を発表した。輸入ガス価格が急騰する中、ロシア産ガスの代替にかかる追加コストを全ての消費者で分担し、ガス供給業者の経営破綻を防ぐことが狙い。

ハベック経済相は今回の措置について「ロシアが引き起こした危機が原因で容易ではないが、家計と経済へのエネルギー供給を保証するために必要な措置だ」と説明した。

経済省によると、10月1日から実施し、2024年4月1日に終了する予定。【8月5日 ロイター】
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****ドイツのガス貯蔵率、12日時点で約75% 前倒しで目標達成****
欧州のガスインフラグループ、GIEが14日公表したデータによると、12日時点のドイツ国内ガス貯蔵率は75%を小幅上回る水準だった。政府は9月1日までに貯蔵率を75%に引き上げることを目指しているが、前倒しで達成した。

ロシアがドイツへの天然ガス供給を削減したことを受け、政府は段階的にガス貯蔵率を引き上げている。10月1日までに85%、11月1日までに95%に引き上げて、エネルギー需要が増える冬場に備える。

ロシアは6月中旬、同国につながる主要パイプライン「ノルドストリーム1」によるガス供給を8割減らした。【8月15日 ロイター】
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こうした“容易ではない”対応を進めていけるかどうかは、その必要性を国民に納得してもらえるかどうか、政治の信頼性にかかっています。

【戦争犠牲の隠蔽もいずれ限界に】
話をロシアにもどすと、ロシアの政争遂行能力を左右するのは制裁効果ともうひとつ、戦争の犠牲です。
これまのブログでも取り上げたきたように、プーチン政権は大都市若者ではなく少数民族や地方の兵士を投入することで戦死者増大が都市部での厭戦気分につながらないように“隠蔽”しています。

しかし、これまでに兵士7万〜8万人の死傷者を出している(米国防総省推計)状況で、そうした対応も限界があるようにも。

****ロシア戦死者、少数民族地域が突出…「激戦地への投入」差別的と反発の動き****
ウクライナへの侵略を続けるロシア軍に関し、少数民族が優先的に激戦地へ投入されているとの不満が出ている。独立系メディアなどの独自調査で、イスラム教徒やモンゴル系が多い地域から派遣された兵士の死者数が突出していることが判明した。参戦拒否が多数出ており、プーチン大統領が強調する「多民族の団結」にほころびが出ている。

ロシアは人口の8割近くがロシア系だが、約80の民族が住む。独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」や英BBCは12日、自治体発表などを基に、死亡を確認した露軍兵5507人の出身地を公表した。

最も多かったのは、約9割がイスラム教徒のダゲスタン共和国で、267人。モンゴル系ブリヤート人が人口の約3割を占めるブリヤート共和国が235人で続いた。モスクワは14人だった。ダゲスタンの人口は約315万人で、モスクワ(約1264万人)の4分の1だが、死者数は19倍だ。

プーチン政権は2月、「迫害された露系住民の保護」を名目に掲げ、ウクライナへ侵略を開始した。プーチン氏は5月、第2次大戦で旧ソ連各地から様々な民族が戦闘に参加し、ナチス・ドイツに勝利した「独ソ戦」になぞらえ、ウクライナでの軍事作戦についても、「様々な民族の兵士が兄弟として弾丸から互いの身を守っている。これがロシアの強さだ」と強調した経緯もある。

だが、実際には、激戦地への兵士投入に差別的な扱いがある疑惑が浮上し、少数民族の中には反発の動きが出ている。

露英字紙「モスクワ・タイムズ」は7月19日、ダゲスタン共和国から派遣された300人以上の兵士が、戦闘継続を拒否して帰還したと報じた。激しい地上戦が続くドンバス地方に送り込まれた兵士で、一部は地元政府から「圧力」を受け戦地に戻されたという。

またメディアゾーナは今月5日、ブリヤート共和国出身の兵士の証言として、同じ部隊の兵士70人以上が戦闘を拒否する上申書を上層部に提出したと報じた。上層部は拘置所に送ると脅迫し、拒否したという。

米政策研究機関「戦争研究所」は8日、「様々な民族で構成される露軍部隊の中で、民族が原因となる対立が増えている」との分析を公表した。露国内では、アジア系住民の支援を目的とした団体がSNSを通じて、除隊方法に関する情報提供をする動きも出ている。【8月13日 読売】
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ロシアは戦争犠牲を糊塗する方策として、他に民間軍事会社を利用していることは以前もとりあげましたが、さらに中央アジアの旧ソ連・キルギスで「企業の警備員」などの求人を装い、戦闘員の募集を始めているとも。

ただ、戦争の長期化によって、こうした姑息な方法はいずれ限界に達し、国民に犠牲の大きさが明らかになると思われます。
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