孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  ティグレ州出身のテドロスWHO事務局長「ティグレほど地獄のような場所ない」

2022-01-13 22:45:59 | アフリカ
(エチオピア北部アムハラ州で、ティグレ人反政府勢力に攻撃されたとされる焼け焦げた自宅を見せる男性(2021年12月6日撮影)【1月13日 AFP】
エチオピア政府の厳しい規制のためか、政府軍の空爆の様子などティグレ州の現状に関する写真等は目にしていません)

【首都陥落の危機を脱し、再び政府軍が攻勢】
東アフリカ・エチオピアでは、以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力とノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍との間で内戦が続いています。

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エチオピアでは、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようとアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)が中央集権化を進め、それに反発したティグレ人が2020年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、一時は政府軍が反乱を抑え込んだように見えましたが、2021.年6月頃から情勢は変化。ティグレ人側が反転攻勢をかけ、逆に首都アジスアベバに迫る勢いとなっています。【2021年11月30日ブログ“エチオピア 首都攻防の軍事衝突の様相 外国人は退避 現地住民は飢餓と虐殺の脅威に直面”】
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戦況は目まぐるしく変化しており、上記のようにいったんは政府軍が鎮圧したかのようにみえましたが、ティグレ人勢力の反転攻勢で首都陥落が危ぶまれる状況ともなり、アビー首相は自ら前線に出て首都防衛を行う事態になりました。

アフガニスタンでの記憶もまだ新しいので、首都陥落に備え各国は自国民のエチオピアからの退避に備えた態勢をとるまでになりました。

そこから戦況は更に反転。昨年末には今度は政府軍がティグレ人勢力を根拠地ティグレ州に追い詰める展開となっています。(戦線が激しく南北に移動したかつての朝鮮戦争のような展開です)

****エチオピアの反政府勢力、拠点の隣接州から撤退 政府軍が攻勢強める****
エチオピア政府軍と軍事衝突している同国北部ティグライ州を拠点とする反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は20日、隣接するアムハラ州とアファール州から撤退したと発表した。TPLFの広報担当者がツイッターで明らかにした。ただ、撤退により、政府との停戦交渉が進展するかは不透明だ。
 
TPLFは10〜11月にかけアムハラ州を南進し、一時は首都アディスアベバまで200キロ付近まで迫っていると主張していた。

一方、アビー首相は11月22日、自ら前線へ赴いて軍の指揮を執ると宣言。政府軍が反転攻勢を強め、今月(2021年12月)6日には首都から約400キロ北東にある要衝デセとコンボルチャを奪い返したと発表していた。
 
AFP通信によると、アビー首相の広報官は「TPLFはここ数週間で大きな敗北を喫しており、それを隠すために戦略的撤退を主張している」と指摘。アムハラ州には部分的にTPLFが残っている地域があると訴えた。
 
国連世界食糧計画によると、紛争により同国北部で食料支援を必要とする人々が増え続けており、推計940万人に上っている。【12月21日 朝日】
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陸上男子1万メートルでアトランタ、シドニーの両五輪で金メダルを獲得し、「皇帝」の呼び名で知られたハイレ・ゲブレシラシエ氏が政府軍に志願するなど、アビー首相が前線に立つ形で示した徹底抗戦の意思が一定に奏功したようにも。(このあたりが、いち早く国外逃亡して政府崩壊を招いたアフガニスタンのガニ大統領と異なるところか)

撤退準備を視野に入れた動きをとっていた日本政府も、首都陥落の危機は脱したと判断。

****政府 エチオピア情勢の調査チーム撤収へ 日本人退避の必要性低いと判断****
エチオピアの情勢悪化を受けて、日本人の退避も視野に隣国ジブチで情報収集を行っていた調査チームの撤収を政府が決めた。

政府は、エチオピアの情勢悪化を受けて、自衛隊機による日本人の退避の可能性も視野に入れて情報収集を行うため、11月下旬、外務・防衛両省からなる調査チームを隣国のジブチに派遣していた。

防衛省は12月23日、調査チームを撤収すると発表した。
エチオピア政府と対立する勢力が首都に南下する可能性が低くなったことが理由としている。調査チームは、年内にも日本に帰国する。【12月23日 FNNプライムオンライン】
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【戦闘と飢饉に苦しむ住民】
しかし、激しい戦闘にともなって住民被害も甚大になっています。単に戦闘の犠牲というより、意図的な“民族虐殺のリスク”が懸念される事態にも。更に飢饉による被害も増大しています。

****戦闘激化のエチオピアで940万人が食糧難に…ヘイト横行、専門家「民族虐殺のリスク高い」****
世界食糧計画(WFP)は、エチオピアで政府軍とティグレ人勢力の戦闘が激化する北部ティグレ州とアムハラ州を中心に、推計940万人が深刻な食糧難に陥っていると発表した。

国連の専門家は、特定民族対象のヘイトスピーチ(憎悪表現)が横行し、「民族虐殺のリスクが高まっている」とも警告している。
 
WFPの26日付の発表によると、ティグレ人勢力が首都アディスアベバに向けて南進し、戦闘地域が広範囲に拡大したことで人道危機はさらに深刻化した。政府軍が各地の道路を封鎖した影響で支援の多くは滞り、両州で調査した乳児を持つ母親と妊婦の半数が栄養不足だったとも報告した。(後略)【2021年11月29日 読売】
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【ティグレ人勢力からの停戦の呼びかけを一蹴した政府側】
劣勢となったティグレ人勢力からは昨年末、撤退とともに停戦に向けた呼び掛けもなされましたが、エチオピア政府は「何を今更」といった感じでこれを即座に一蹴、武力で決着をつける構えです。

****反政府勢力が撤退、停戦の可能性も エチオピア****
エチオピアで北部のティグライ州を拠点とする反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は19日、隣接する地域から撤退すると明らかにした。エチオピアでは1年1カ月にわたって紛争が続いているが、今回の動きが停戦につながる可能性もある。

TPLFの指導者は、国連のグテーレス事務総長と国連安保理議長にあてた19日付の書簡で、ティグライ州の州境の外にいる部隊に対して即座に撤退するよう指示したと述べた。CNNはこの書簡を20日に確認した。

同指導者は国際社会やエチオピア連邦政府からの撤退を求める呼び掛けを聞いたとし、今回の撤退が和平への糸口となるだろうと信じていると述べ、停戦に続いて和平交渉が始まることを望むと言い添えた。(中略)

TPLFの指導者は書簡の中で、国連に対し即時停戦への支持を要求。あらゆる敵対行為の停止や同地域からの外部兵力の完全撤退を保証するための仕組みを構築するよう呼び掛けた。

また、人道や民間目的以外の航空機を禁止する「飛行禁止区域」をティグライ州に設置するよう要請したほか、エチオピアとエリトリアに対する兵器禁輸も求めた。【12月21日 CNN】
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****エチオピア政府、反政府勢力からの和平呼びかけを一蹴****
エチオピア政府は、北部のティグライ州に拠点を置く武装勢力からの停戦の呼びかけを一蹴した。政府側が以前も和平を呼び掛けたものの、武装勢力側が複数回にわたって拒絶したことが理由だとしている。(中略)

アビー首相の報道官は21日、首都アディスアベバで報道陣に対し、ティグライ人民解放戦線(TPLF)の真意について疑問を呈し、「我々はこの局面での解決に当たり、平和裏なやり方で、かつ政治的な手段を通してなされるようにするという観点から力を注いでいる。それでもなお、いかなる政治的解決も常に、正義や説明責任に基軸が置かれ、また対話の中でなされることになる」と述べた。

また報道官は、どの当事者が対話に臨むことになるかについて言及することはできないとし、TPLFの行動が「戦略的な後退なのかどうか、自ずから明らかになるだろう」と述べた。(中略)

首相報道官は、アムハラ州やアファール州からの撤退に関するTPLFの談話を一蹴。TPLFのメッセージを国際社会とメディアが「増幅」させていると批判。「エチオピアおよび英雄的なその部隊は外部からの検証を必要としない」と述べた。【12月22日 CNN】
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【政府軍による連日の空爆 ドローンも使用】
今年に入り、エチオピア政府が拘束していたティグレ側の幹部を解放するといった和平に向けた動きも見られましたが、政府軍はティグレ人反政府勢力を追い詰めたティグレ州に対し、連日の空爆を行っているとも言われています。

****エチオピア少数民族 政府軍空爆で56人死亡と発表 情勢不透明に****
アフリカ東部のエチオピアで1年以上にわたって政府軍と戦う少数民族の勢力は、政府軍の空爆で市民56人が死亡したと発表し、強く非難しました。

詳しいことは分かっていませんが、このところ双方に対話に向けた動きが出ていただけに、情勢は不透明感を増しています。

エチオピアでは、北部の州政府を担ってきた少数民族ティグレの勢力と政府軍との戦闘がおととしから続いていて、国連は200万人以上が家を追われ、深刻な人道危機に陥っているとしています。

こうした中、ティグレの勢力は8日、本拠地の州にある避難民のキャンプが政府軍の空爆を受け市民56人が死亡したと発表し、強く非難しました。

政府はエチオピア正教のクリスマスに当たる7日に、拘束していたティグレ側の幹部を解放し、対話を呼びかけていたところで、空爆を行ったかどうかについてコメントなどは出しておらず、詳しいことは分かっていません。

ティグレの勢力も先月、部隊を本拠地に撤退させるなど、このところ双方の間で対話の機運が高まり、1年以上にわたる戦闘や人道危機が収束するか、国際社会の関心を集めています。

それだけに、今回の空爆の発表によって、エチオピア情勢は不透明感を増しています。【1月9日 NHK】
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2019年のノーベル平和賞受賞者、アビー首相が率いるエチオピア政府は、、20年11月に戦闘が始まって以降、市民を標的にした攻撃を繰り返し否定しています。

アメリカ・バイデン大統領も、アビー首相に対し空爆や人権問題について懸念を示しています。

****バイデン米大統領、エチオピア首相と会談 空爆巡り懸念表明****
2022/01/11 08:53
バイデン米大統領は10日、エチオピアのアビー首相と電話会談を行い、エチオピア北部の内戦における空爆や人権問題について懸念を示した。ホワイトハウスが発表した。

エチオピア北部ティグレ州では2020年11月、政府軍と反政府勢力「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」との間で内戦が勃発。多数が死亡したり、家を追われたとされる。

アビー首相はツイートで、バイデン大統領との会談は「率直」なものだったとし、協力関係の強化について話し合ったと述べた。米政府高官は、会談はビジネスライクで問題に焦点を当てたものだったとした。

ホワイトハウスが発表した声明によると「バイデン大統領は、最近の空爆を含む敵対行為が民間人の死傷者や苦しみをもたらし続けていることに懸念を表明した」。(後略)【1月11日 ロイター】
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これまでもしばしば取り上げてきたように、世界の紛争にあって戦争の形態が“ドローン”を中心としたものに変化していますが、エチオピアでもやはりドローンが使用されているようです。

****ドローン攻撃で19人死亡 対立続く北部州―エチオピア****
エチオピア政府と少数民族ティグレ人の対立が続く北部ティグレ州で10、11の両日、ドローン(無人機)による空爆があり、合わせて19人が死亡した。現地の援助関係者などが明らかにした。

10日は州南部の町の製粉所で働く17人が死亡。援助関係者は「ドローンが飛来し、少し滞空した後、爆弾を投下した。人々はパニックになった」と語った。11日には州都メケレ南方の町でも爆撃があり2人が犠牲になった。【1月12日 時事】
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【ティグレ州出身のテドロスWHO事務局長が故郷の窮状訴える】
こうした事態に、自身がティグレ州出身でもある世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が現地の窮状を訴えています。

****紛争で医薬品不足、「ティグレほど地獄のような場所ない」…WHO事務局長が故郷の窮状訴える****
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は12日の記者会見で、出身地のエチオピア北部ティグレ州が紛争により深刻な医薬品不足に陥っていると指摘し、「世界でティグレほど地獄のような場所はない」と窮状を訴えた。
 
WHOによると、政府軍とティグレ人勢力の戦闘が続くティグレ州に、昨夏から医薬品の輸送が許可されていない。テドロス氏は現地の医師の話として、期限の切れた薬を治療に使っていることや、期限切れの薬も底をつきそうな状況を紹介し、「人道的な支援はどんな状況でも許されるべきだ」と批判した。
 
ティグレ州出身のテドロス氏は会見で「偏向した見方ではなく事実。21世紀のこの時代に、政府が自国民に1年以上も食料や医薬品を与えないのは想像を絶することだ」と述べた。【1月13日 読売】
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“同州(ティグレ州)では数百万人に医薬品や食料が届かず、数十万人が飢饉(ききん)に近い状態にあり、国連はこれを事実上の封鎖と呼んでいる。”【1月13日 AFP】

今後の政治体制安定のために「決着」を着けたいアビー首相でしょうが、(一般兵士は別にしても)ノーベル平和賞受賞者でもある本人自身が民族浄化的な虐殺や住民に地獄の苦しみをあたえることを望んではいないと思いますので、少なくとも住民に対する人道支援が可能となる状況をつくってもらいたいものです。
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