孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  返済困難国の債務問題解決への協力を求められる 「一帯一路」見直しで“バージョン2”も

2022-09-27 23:04:45 | 中国
(中国資金によるスリランカ・コロンボのロータス・タワー 「無用の長物」との批判も 画像は【ウィキペディア】)

【スリランカの債務問題の今後は中国の対応次第】
中国の「一帯一路」による経済合理性・返済能力を無視した途上国への巨額の融資の返済が滞り、結局融資案件の運用権などが中国の手に渡ってしまう・・・といった、いわゆる「債務の罠」の話で必ず真っ先にあげられる事例がスリランカ南部ハンバントタ港です。

そのスリランカは外貨不足で返済不能に陥り、ガソリン輸入も途絶え経済は大混乱、電力も停止して市民生活はマヒ・・・縁故政治でスリランカ政治を支配していたラジャパクサ一族が権力の座を追われる事態になったことは周知のところです。

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国連食糧農業機関(FAO)の調べによると、スリランカでは約620万人が食料不足に陥っている。食品インフレが激しく、8月は93.7%に達したからだ。

スリランカ国民約2200万人はここ数カ月、停電、高インフレ、通貨ルピーの急落、外貨不足に苦しみ、食品、燃料、医薬品の輸入代金を払うのが困難になっている。【9月23日 ロイター】
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スリランカでの中国の融資案件のひとつが、コロンボに建設された巨大電波塔「ロータス・タワー」

****中国資金で建設の電波塔、開業へ 「無用の長物」批判も スリランカ****
スリランカ・コロンボで今週、中国から融資を受け建設された巨大電波塔「ロータス・タワー」が一般公開される。運営会社が12日、発表した。

紫・緑2色の塔の高さは350メートルで、総工費は推定1億1300万ドル(約160億円)。2012年にマヒンダ・ラジャパクサ元大統領の肝いりで着工。以来、汚職疑惑もくすぶっていた。

マヒンダ氏は、経済危機への抗議デモを受けて今年7月に辞任したゴタバヤ・ラジャパクサ前大統領の兄。ロータス・タワーは、マヒンダ・ラジャパクサ政権下で中国からの借り入れで建設が決定された、「無用の長物」と批判されるプロジェクトの一つだ。

国営運営会社コロンボ・ロータス・タワー・マネジメントは、15日から展望台をオープンし、チケットの販売収入で債務の一部を埋め合わせる考え。
コロンボの街全体とインド洋が見渡せる展望台のすぐ下には、回転レストランもある。

地元メディアは、ロータス・タワーはスリランカ島全体をカバーできないなど、電波塔としては無意味だと批判している。 【9月13日 AFP】
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話の腰を折るようですが、私個人としては、スリランカの経済混乱が収まって観光できるようになったら、是非この「ロータス・タワー」の回転レストランで食事をしてみたいものだと思いました。電波塔としてはともかく、観光資源としては役立つかも。

閑話休題。 スリランカは事態打開のためにIMFからの支援を中心に据えています。

****スリランカ、IMF金融支援の年内最終決定目指す=関係筋****
スリランカ中央銀行の当局者は23日の債権者向けプレゼンテーションで、国際通貨基金(IMF)理事会が年末までに29億ドルの同国向け金融支援を承認するとの見通しを示した。プレゼンに参加した関係筋が明らかにした。

IMF理事会は12月半ばまでに金融支援を承認する見込みで、スリランカは11月半ばまでに公的部門、民間部門双方の債権者から債務整理に向けた保証を取り付けたい考え。

プレゼンに出席した関係筋によると、スリランカは今年第4・四半期から2023年第2・四半期までの期間に全ての債権者と基本合意することを目標としている。

ある債権者は「合意は非常に難しいだろう。しかし、基本的に中国、つまり1つの債権国に依存している部分が多いので、もしかしたら実現できるかもしれない」と述べた。(後略)【9月26日 ロイター】
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IMF支援が順調にいくためには、債権国である中国・インド・日本の協力・債務再編が必要になります。
債務再編とは返済が困難になった債権について、支払期限の延長や元本金額の削減、利率の引き下げなど返済条件を緩和すること。

“スリランカは中国から少なくとも50億ドルを借り入れており、一部の見積もりでは債務額はその2倍前後に達する。また国際通貨基金(IMF)によると、インドが38億ドル、日本が少なくとも35億ドル、その他先進各国が計10億ドルをスリランカに貸し付けている。”【7月15日 ロイター】

インド・日本は債務再編に前向き姿勢です。
“インドがスリランカと債務再編協議開始”【9月21日 ロイター】
“日本、スリランカの債務再編交渉を支援へ=日本大使”【9月24日 ロイター】

しかし、対応が不透明なのが中国。

中国の融資については、契約内容も明らかにされず、中国への返済を最優先することが義務付けられているともいわれます。また返済が困難になった際の国際協力についても消極姿勢が目だっていました。

そうした中国の対応を受けて、上記記事にもあるように“基本的に中国、つまり1つの債権国に依存している”という状況にもなっています。

【アメリカ 債務再編への中国の参加を促す】
アメリカのイエレン米財務長官は中国に債務再編に協力するように呼び掛けています。

****スリランカ債務再編への関与、中国にも利益=米財務長官****
イエレン米財務長官は14日、中国はスリランカの「重要な債権者」であり、スリランカの債務再編に関与すれば双方のためになると強調した。15日にインドネシア・バリ島で開幕の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を前に現地で会見した。

イエレン氏は、スリランカを含めた途上国の債務再編を巡り、他のG20メンバーにも中国の協力取り付けを働きかけてもらう考えを示した。(中略)

イエレン氏は「スリランカがこの借金を返済できないのは明白で、中国がスリランカの債務再編で積極的に各国に力を合わせてほしいというのが私の希望だ」と語った。

G20とパリクラブ(主要債権国会議)は2020年10月、多額の債務を抱えた途上国が新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切れるように、債務救済に向けた「共通枠組み」を採択し、既にザンビア、エチオピア、チャドがこの枠組みに基づく支援を要請している。

ただ、世界最大の債権国である中国のほか民間債権者らが関与を渋っていることから、支援の動きがその後は進展していない。

イエレン氏は、ロシアのウクライナ侵攻以降に世界経済が悪化して多くの途上国がより厳しい経済状況に追い込まれている点を指摘した上で、「最も脆弱な国を助けるためにまだ多くの行動が必要になる。これが今回のG20会議で私が強調しようとしている重要なメッセージの1つだ」と発言。(後略)【7月15日 ロイター】
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こうした構図は中国と最も緊密な関係にあるパキスタンでも見られます。中国からの支援でインフラ整備を進めてきたパキスタンは国土の3分の1が水没する水害で、債務返済も困難な状況となっています。

パキスタンのミフタ・イスマイル財務相は18日、洪水が壊滅的な被害をもたらしているものの、同国が債務不履行(デフォルト)に陥る可能性は「絶対にない」と表明。経済安定化に向けた改革は軌道に乗っていると説明してはいますが・・・

****洪水被害のパキスタン、中国に債務軽減要請を 米国務長官****
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は26日、洪水で壊滅的な被害を受けたパキスタンに対し、同国とパートナー関係にある中国に債務軽減を求めるよう呼び掛けた。

ブリンケン氏は米首都ワシントンでパキスタンのビラーワル・ブットー・ザルダリ外相と会談し、強力に支援すると約束。

一方で、「債務軽減・再編に向けた重要課題に中国も関与するようパキスタン側から働き掛けるよう求めた。それが実現すれば、洪水からの復興を早められるだろう」と述べた。

パキスタンにとって中国は経済・政治分野における重要パートナー。両国は、中国とインド洋を結ぶ540億ドル(約7兆8000億円)規模のインフラ整備事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」を進めている。ただ、同事業は国内の反政府武装組織の攻撃対象となっている。

CPECを通じて中国は利益を得るのに対し、パキスタンは持続不可能な水準の債務を抱えることになると米国は繰り返し警告。しかし、パキスタンは耳を傾けてこなかった。

パキスタンでは先月、豪雨による洪水が発生し、国土の3分の1が水没した。死者は約1600人に上り、うち3分の1が子どもだった。700万人以上が避難を余儀なくされた。

米国は5600万ドル(約80億円)の人道支援のほか、航空機17機分の物資、長期支援の提供を表明している。 【9月27日 AFP】AFPBB News
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【中国 「一帯一路」を見直し、“バージョン2”へ】
ここのところ中国の金融機関は、「一帯一路」による融資の返済が滞る事例が相次ぐ状況で、新規の融資に慎重になる姿勢が見られていましたが、ここにきて国の政策としてもこれまでの「一帯一路」を見直す、“バージョン2”とも言える動きが出ています。

****中国に「一帯一路2.0」構想、問題噴出で方針転換****
融資慣行は「債務のワナ外交」との批判

中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の見直しに着手した。影響力の拡大を狙い、アジアやアフリカ、中南米諸国に多額の資金を投じてきたが、ここにきて債務国の返済が行き詰まっており、軌道修正を余儀なくされている。政策運営に関与している複数の関係者が明らかにした。

世界経済の減速や金利上昇、インフレ高騰が足かせとなって、借り手の国家財政は急速に悪化。巨額の融資返済が滞っているほか、多数の開発案件が凍結に追い込まれている。

中国の融資慣行を巡ってはかねて「債務のワナ外交」との批判も上がっており、スリランカやザンビアなどの債務危機を助長しているとの指摘は絶えない。

こうした中、中国当局内では新規プロジェクトへの融資審査を一段と厳格化する「一帯一路2.0」構想が浮上した。またかたくなに拒否していた不良債権の計上や債務再編に対しても、幾分許容する方向へと傾いているという。関係筋が明らかにした。

習近平国家主席はかつて、一帯一路を「世紀のプロジェクト」と呼んではばからなかった。しかし、見直しを迫られている現状は、世界の秩序を塗り替えるという習氏が描くビジョンの限界を露呈させた。

習氏は昨年11月に開いた高官との協議で、一帯一路を取り巻く外部環境は「ますます複雑さを増している」との認識を表明。リスク管理の強化と他国との協力拡大が必要だと強調した。国営メディアが報じた。

中国の銀行はすでに、低所得国の新規案件に対する融資を大きく減らし、既存融資の対応に注力している。(中略)

途上国の債務問題解決のため、中国は先進国で構成する「パリクラブ(主要債権国会議)」といった多国間制度についても、長年の拒否姿勢を撤回する方向にかじを切った。足元では途上国の債務負担軽減に向けて20カ国・地域(G20)と協力している。

中国はこの過程で、国内銀行に対し、損失の受け入れを強要する可能性がある。中国は長年、債務元本の減免ではなく、返済期限を延長することで融資の焦げ付きに対応してきた。問題を「見て見ぬふり」する戦略だとされ、借り手の債務危機をむしろ長引かせる恐れがあると言われている。

中国国営メディアも、一帯一路に対する論調を落としている。かつては中国の融資によって借り手が受ける経済的恩恵を誇示していたが、足元ではリスク管理や国際社会との協力改善といった面を強調している。(中略)

習氏は12年に実権を握ると、中国の影響力を拡大するとともに、国産品を販売する市場を構築するため、自身の看板政策として一帯一路を推進し始めた。

15年に中国株急落で内需が低迷すると、中国は一帯一路を使って、鉄鋼や繊維など国内で過剰供給にあった製品の輸出拡大にまい進。中国輸出入銀行や国家開発銀行(CDB)は往々にして、中国サプライヤーからの調達を途上国向け融資の条件としていた。

中国外務省によると、中国はたった10年で、エクアドルやアンゴラなど約150カ国の開発プロジェクトに融資などを通じて約1兆ドル(約145兆円)を拠出。これにより、中国は初めて、世界最大の債権国に浮上した。

これに対し、途上国向けの融資や助成金で、米政府や政府系機関が占める割合は中国の半分にも満たない。ウィリアム・アンド・メアリー大学傘下の研究所エイドデータが分析した。2013年までの約10年は、米中はほぼ肩を並べていたという。

エイドデータの責任者、ブラッド・パークス氏は、対外融資のほぼすべてを支援として実施する米国とは対照的に、中国は「銀行」のように振る舞う傾向があると指摘する。例えば、エイドデータの分析によると、中低所得国対する支援1ドルにつき、中国は9ドルを融資として提供している。米国はそのまさに反対で、少なくとも支援9ドルに対して融資1ドルの割合だという。

17年頃までには、中国銀行業界の幹部の間で、回収の見込みがない案件への融資を強要されているとして政府への不満が高まっていた。内情を知る業界幹部らが明らかにした。

デフォルト(債務不履行)に陥った際に責任を問われないよう、「政策の指示の下で」行われた融資だと規制当局が明言しない限り、一部プロジェクトに対する支援を停止する構えを見せる銀行も出てきたという。

新型コロナウイルス禍がさらに借り手の圧力となっていた20年11月、中国はG20が支援する債務救済の国際的な取り組みである「共通枠組み」に加わることで合意した。

共通枠組みはパリクラブが準拠する原則の下に構築された。中国はパリクラブに参加するよう度重なる働きかけを受けてきたが、かたくなに拒否してきた経緯がある。

中国の銀行は借り手に対して、パリクラブが行うような他の債権者との債務再編の手続きから、自国の融資を除外するよう強く主張していた。デフォルトになった場合に、返済順位で中国を最優先の扱いにする狙いがあるとみられている。エイド・データのパークス氏によると、中国の融資契約の約75%にこうした「ノー・パリクラブ」条項が含まれている。

20年夏にはG20、パリクラブ、中国との間で昼夜問わず6週間に及ぶ協議が行われ、中国が共通枠組みに参加することで原則合意に達した。協議に詳しい関係者が明らかにした。習氏が正式に署名するのにさらに数週間を要したという。

それによると、中国が参加を決めた背景には、他の債権者と連携して取り組むのであれば、中国の銀行が自らの利益を守るよう主張した方が望ましいとの見方があった。

また中国の政府内では、共通枠組みに参加することで、面目をつぶすことなく、パリクラブを拒否してきた従来の姿勢から移行できるとの読みも働いているようだ。

ただ、国家開発銀行など国内大手銀行の株式を保有する財政省は、銀行による損失計上に警戒を解いていない。不動産市況の冷え込みで、銀行が多大な圧力にさらされていることで懸念が深まっているためだ。

一方、人民銀は新興国が金融危機を回避するために、中国は債務再編協議に一段と柔軟な姿勢で臨む必要があるとの立場を唱えている。関係筋が明らかにした。

人民銀内からは、米連邦準備制度理事会(FRB)による急ピッチの利上げを理由に、中国は行動すべきだとの指摘が上がっている。背景には、FRBの利上げでドルが独歩高の様相を強め、途上国の債務返済コストが上がっていることがある。

中国はチャド、エチオピア、ザンビアで債権者との交渉を進めており、一帯一路の新たなアプローチに対する試金石になるとみられている。

とはいえ、一帯一路が全面的に撤回される可能性は低い。来月の共産党大会で3期目続投を目指す習氏は、国際社会における中国の役割を拡大することが重要だとの考えを堅持している。政策運営に詳しい関係筋への取材や、習氏の最近の演説要旨から分かった。

問題の多い一帯一路だが、過去10年に多数の国々を中国の勢力圏に引き入れたことも事実だ。国連の採決では、借り手の多くが中国の意向に合わせて票を投じるようになった。中国が融資への消極姿勢を強めれば、一部の国にとっては中国マネーの魅力が薄れ、国際社会の意志決定において中国の影響力が後退することもあり得る。

米外交評議会(CFR)の上級研究員で、ソブリン債務専門家のブラッド・セッツァー氏は「中国が影響力を拡大する上で、一帯一路が重要な存在であり続けるには、新たな方策を見いだす必要があるかもしれない」と述べる。具体的には融資ではなく、助成金などの支援を拡大するといった措置が挙げられるという。

内情に詳しい関係筋によると、中国当局者はリスク軽減に向けた官民パートナーシップの構築、市場水準を下回る優遇金利での融資といった手段を通じて、一帯一路を持続可能な軌道に乗せる方策も探っている。さらに中国当局は、新規案件の融資でアフリカ開発銀行のような多国間機関との協力拡大にも、前向きな姿勢をにじませ始めているという。【9月27日 WSJ】
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