夜櫻の秘め事
暗鬱な 水ッ気ぬるく濁々な、弥生の暗み 籠った朧い光の底に、
どぎつく炎ゆる、淫らに煙る薄紅かいなと垂らし 仄かに堅くそそり立つ、
櫻の花が、死のネオンの灯を照りかえし、煌々と音を薫らせる。
病める根を地獄へ浸し、そのましろきうで、裾から病人のそれとのばして、
紅く、あかく擦られた血だらけのうで 燦爛な緋色に供物と捧げ、
吸い上げた花──そいつ、恰も危険な悪書 勧める悪友染みた鬱陶しさで、
空へ掲げ誇示。ものほしげに瞼震わせる如く、弥生の風にゆらり揺られ、
ビラビラ蛭の傷と嗤う。闇とざす浅紅色の花弁は、蛆沸く腐肉へ変貌る。
真夜中 櫻の花の散るそれは、天へのばされた負の性現象の誇大風景、
亦死より、忍びよる腐敗の音楽の息、詩に謳われるは滅びのエロス、
黄昏と沈む櫻の陰部の内奥より 光と湧くは畝をしならし沈み往く死精、
断末魔のこえ 嬌声に似て、乱痴気騒ぎと死へ向い躁ぐ、
桃色に濡れる幾重の膚 重ねられた肉の花々が 剥ぎ落されるは恋の宿命、
朧く暗い水底巡る 生へ剥く夜櫻の波うちは、腰の不安に宿る秘め事。
夜櫻の秘め事