夜櫻の秘め事

 暗鬱な 水ッ気ぬるく濁々な、弥生(さんがつ)の暗み 籠った朧い光の底に、
 どぎつく炎ゆる、淫らに煙る薄紅かいなと垂らし 仄かに堅くそそり立つ、
 櫻の花が、死のネオンの()を照りかえし、煌々と音を薫らせる。
 病める根を地獄へ浸し、そのましろきうで、裾から病人のそれとのばして、

 紅く、あかく擦られた血だらけのうで 燦爛な緋色に供物と捧げ、
 吸い上げた花──そいつ、恰も危険な悪書 勧める悪友染みた鬱陶しさで、
 空へ掲げ誇示。ものほしげに瞼震わせる如く、弥生の風にゆらり揺られ、
 ビラビラ蛭の傷と嗤う。闇とざす浅紅色の花弁(はなびら)は、蛆沸く腐肉(くされにく)へ変貌る。

 真夜中 櫻の花の散るそれは、天へのばされた負の性現象の誇大風景、
 亦死より、忍びよる腐敗の音楽の息、詩に謳われるは滅びのエロス、
 黄昏と沈む櫻の陰部の内奥より 光と湧くは畝をしならし沈み往く死精、
 
 断末魔のこえ 嬌声に似て、乱痴気騒ぎと死へ向い(さわ)ぐ、
 桃色に濡れる幾重の(はだ) 重ねられた肉の花々が 剥ぎ落されるは恋の宿命、
 朧く暗い水底巡る ()へ剥く夜櫻の波うちは、腰の不安に宿る秘め事。

夜櫻の秘め事

夜櫻の秘め事

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-31

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