日本の食養家というと、マクロビオティックをはじめとする玄米菜食の提唱者を思い浮かべる人が多いと思います。玄米菜食は伝統的な日本食に近い部分が多く、導入に対する心理的な抵抗も少ないことから一部では人気があります。
その一方で、70 歳前後で亡くなっている提唱者・指導者たちも多く、一般の平均寿命と変わらない印象があります。寿命があまり変わらないのなら「自分の好きなものを食べて死んだ方がまし」とか「結局はバランスの取れた食事が一番大事」といった考えに落ち着く人が多いのにも納得がいきます。
私は、20 世紀の日本で活躍した食養家の中で最も注目されるべきは、このような玄米菜食主義者ではなく、栗山式食事療法を提唱した栗山毅一氏 (1890~1984) だと思います。95 歳で亡くなるまで精力的に活躍を続け、自然食の普及に大きく貢献した食養家です。
また、栗山式自然食を実践していた有名人として、美容家のメイ牛山さんがいます。ハリウッド美容専門学校で指導に当たるなど美容業界で世界的に活躍された方で、美容に関する書籍も 30 冊以上執筆されています。90 歳を超えても第一線で活躍を続け、96 歳で逝去されました。
現代では、芸能人の訃報などを見ると、70 歳どころか 50 歳にもなれない人が増えてきているような気がします。このお二人のように、90 歳を超えてもなお現役という人はますます少なくなっているのではないでしょうか。
ここでは、お二人の活力と長寿を支えた栗山式自然食について、簡単に紹介したいと思います。『永遠の若さを保証する自然食の秘密~食品公害の中で生き抜く知恵~』(栗山毅一[著]、トクマカジュアルブックス[出版社])という本が私の手元にありますので、この 50 年前の本を元に栗山式食事療法のポイントを、次のように大きくまとめてみたいと思います。
ポイント 1: 生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する。加熱水分は避ける。
ポイント 2: 動物性脂肪および動物性タンパク質の摂取を控える。基本的に菜食を推奨。
ポイント 3: 塩分は控えめに。
ポイント 4: 米、カボチャ、サツマイモなどの澱粉食品は体の基礎を作る。
ポイント 5: 生青汁を推奨。
ポイント 6: 一日二食主義。
この他にも、体の症状別にさまざまな理論と実践が展開されているのですが、他の食養法と一線を画する最も特徴的な点は、ポイント 1 の「生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する」という点です。栗山氏は、野生動物たちが人間に比べると遙かに健康的で病気が少ないのは「食べ物を加熱せずに“生きた”水分を摂取しているから」ということに気付いていました。次のように言っています。
「しかし人間がとるべき食物は、自然食、または自然的食物といって、生ものか、これに近い食物がよく、これは健康のためにも、美容のためにもなっている。私の自然食の眼目もまさにこの点にある。動物はすべて生ものを食べて、病気にもかからず、きわめて自然に天寿を全うしているように、人間も生水を飲み、生野菜、果物を食べることにすれば、病気を知らず、美しさを誇り、天寿を全うすることができるのである。自然の産物である人間が自然の法則にしたがうとは、このことを意味している」
マクロビオティックなどの玄米菜食では、体が冷えるという理由で果物や生野菜が避けられることが多く、そのことで大きな損をしているように思います。生の食べ物で体が冷えるなら、人間以外の野生動物たちは常時体を冷やして健康に支障をきたしていることになります。しかし、実際はそうではありません。加熱調理によって酵素が死んでしまい、ビタミンやミネラルなどの栄養素が壊れてしまうことの方が問題です。
また、現代の美食は穀物や動物性食品が多すぎて体質が酸性に傾いてしまい、それが病気の温床になっているが、生の果物と野菜はそれをアルカリ性にしてくれるとも説明しています。
「主食をご飯(酸性)、副食物に肉類(動物性脂肪)を中心にして食べていると、これは酸性に片よっていることだから、アチドージスをひきおこすことになる。これを防ぐには、副食物を肉類からアルカリ性の食物に切りかえなければならない。アルカリ性の食品、たとえば野菜、果物、海藻類をとれば、無機質を十分にふくんでいるので、酸性になっている血液を中和することに役立つのである。いってみれば、血液を浄化し、働きをたすけるのである」
※ここで言う「アチドージス」とは酸毒症のこと。
体質をアルカリ性に変えてくれるという点では、ポイント 5 の「生青汁」も推奨しています。人間は草食動物たちとは違って、野菜の繊維質を分解する酵素「チターゼ」の分泌が少ないため、生野菜を大量に食べると消化不良をきたします。青汁にすることで、消化吸収が早くなり、栄養配給の効率も良くなります。当時はすり鉢で青野菜をすって青汁を作っていたようですが、現在はジューサーの性能も上がり手軽に青汁を絞れるようになりました。
青汁には 4 つの効用があります。1 つ目は、体液や血液の酸性をアルカリ性に変える点。2 つ目は、造血作用が高いこと。3 つ目は、コレステロールを分解流出する点。4 つ目は、細胞の増殖を助け活力を与える点、です。
ポイント 2 の「基本的に菜食を推奨」ですが、菜食主義者の方がスタミナがあり精力も強いことを指摘し、菜食こそ強精食と言っています。菜食はタンパク質が不足すると考えている人もいますが、さまざまな植物性食品の植物性タンパク質を組み合わせることで、体が必要とする各種アミノ酸を完全に充足させることができます。
「植物性タンパクだけでも、これに含まれている必須アミノ酸を上手に利用すれば、栄養価を高め、健康になり、美しくもなることができるのである。たとえば、ヒスチジンの多い小麦タンパクと、リジンの多い豆タンパクを組み合わせれば、おたがいの欠点を補うことになるだろう。」
ポイント 3 の「塩分は控えめ」の考え方ですが、これは、植物にも動物にももともと塩分が含まれているので、特別に塩分を摂取する必要はないという考え方です。人間の体に必要な塩分はほんのわずかであり、過剰な塩分は腎臓の負担になります。塩分は摂るものではなく、抜くものだと言っています。これは、運動をしたり、風呂やサウナに入ったりして汗を流すことで、体から余分な塩分を抜くぐらいが丁度よいということです。
「もともと人間の体が必要とするナトリウム(塩)は、ごく微量なものである。果物なら 100 グラムに 0.04 グラム、牛乳には 0.01 グラムの塩分があり、ほかの植物や動物にもあまねくふくまれているから、ことさら塩分をとらなくても、人間の体には十分に間に合っている。」
ポイント 4 の「澱粉食品は体の基礎を作る」ですが、米、カボチャ、サツマイモなどの炭水化物食品を澱粉食品と呼び、体の基礎を作る食品として推奨しています。玄米と白米の区別にはあまりこだわっていなかったようで、ほとんど玄米の話しは出てきません。特にカボチャとサツマイモは、豊富な栄養素を持った美容食品として推奨されています。
ポイント 6 の「一日二食主義」ですが、食事は空腹のときにとればよいので、一日三食にこだわる必要性は特にないということです。
「私はすでに 50 年来、ずっと二食主義を実行してきているが、体に何の支障もないばかりか、三食による胃腸の負担が減るので、体の調子はいたってよく、つねに快適にすごしている。生物学の法則からいっても、食事はもともと空腹のときにとればよいのだから、二食でもいっこうにかまわないのである」
以上の 6 点が栗山式自然食の大きな特徴ですが、栗山式自然食とフルータリアンは共通する点が多いです。フルータリアンを栗山式に説明するなら、「“生きた”水分を豊富に摂取する食事スタイル」と言えます。
同時代に、果物と生野菜を中心とした食事を推奨していた世界的な先駆者として、ノーマン・ウォーカー(1886~1985)という人がいます。
ニンジンジュースなどの生ジュース療法を世に広めたことでも有名で、主要な著作は日本語にも翻訳されています。ウォーカー博士自身、果物と生野菜を中心とした菜食を実践し、99 歳で亡くなる最晩年まで執筆活動などを続け、非常に健康的だったことが知られています。
健康の秘訣は「果物と野菜に含まれている生きた水分を多く摂取すること」でした。これはまさに栗山式健康法と同じです。ウォーカー博士も青汁健康法を研究し、その研究成果を『生野菜汁療法』という本にまとめています。
その他個人的に興味深いのは、栗山氏が「加熱食品が虫歯を作る」と言い切っているところです。砂糖をはじめとする酸性食品をとりすぎた結果、酸毒症が引き起こされることが虫歯の原因と書かれています。果物は甘いから虫歯になりやすいと思っている人が多いのですが、私の経験からしても、これは果物に対する完全な誤解だと思います。
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【参考文献】
1. 栗山毅一(著)『永遠の若さを保証する自然食の秘密―食品公害の中で生き抜く知恵』徳間書店(1970)
2. 栗山毅一(著)『完全食事療法/病気の自己診断法 医者のくるまで』株式会社栗山食事研究所出版部(1964)
3. N.W.ウォーカー(著)、樫尾 太郎(翻訳)『生野菜汁療法:毎日の一杯が難病をなおす』実業之日本社(1976)
その一方で、70 歳前後で亡くなっている提唱者・指導者たちも多く、一般の平均寿命と変わらない印象があります。寿命があまり変わらないのなら「自分の好きなものを食べて死んだ方がまし」とか「結局はバランスの取れた食事が一番大事」といった考えに落ち着く人が多いのにも納得がいきます。
私は、20 世紀の日本で活躍した食養家の中で最も注目されるべきは、このような玄米菜食主義者ではなく、栗山式食事療法を提唱した栗山毅一氏 (1890~1984) だと思います。95 歳で亡くなるまで精力的に活躍を続け、自然食の普及に大きく貢献した食養家です。
また、栗山式自然食を実践していた有名人として、美容家のメイ牛山さんがいます。ハリウッド美容専門学校で指導に当たるなど美容業界で世界的に活躍された方で、美容に関する書籍も 30 冊以上執筆されています。90 歳を超えても第一線で活躍を続け、96 歳で逝去されました。
現代では、芸能人の訃報などを見ると、70 歳どころか 50 歳にもなれない人が増えてきているような気がします。このお二人のように、90 歳を超えてもなお現役という人はますます少なくなっているのではないでしょうか。
ここでは、お二人の活力と長寿を支えた栗山式自然食について、簡単に紹介したいと思います。『永遠の若さを保証する自然食の秘密~食品公害の中で生き抜く知恵~』(栗山毅一[著]、トクマカジュアルブックス[出版社])という本が私の手元にありますので、この 50 年前の本を元に栗山式食事療法のポイントを、次のように大きくまとめてみたいと思います。
ポイント 1: 生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する。加熱水分は避ける。
ポイント 2: 動物性脂肪および動物性タンパク質の摂取を控える。基本的に菜食を推奨。
ポイント 3: 塩分は控えめに。
ポイント 4: 米、カボチャ、サツマイモなどの澱粉食品は体の基礎を作る。
ポイント 5: 生青汁を推奨。
ポイント 6: 一日二食主義。
この他にも、体の症状別にさまざまな理論と実践が展開されているのですが、他の食養法と一線を画する最も特徴的な点は、ポイント 1 の「生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する」という点です。栗山氏は、野生動物たちが人間に比べると遙かに健康的で病気が少ないのは「食べ物を加熱せずに“生きた”水分を摂取しているから」ということに気付いていました。次のように言っています。
「しかし人間がとるべき食物は、自然食、または自然的食物といって、生ものか、これに近い食物がよく、これは健康のためにも、美容のためにもなっている。私の自然食の眼目もまさにこの点にある。動物はすべて生ものを食べて、病気にもかからず、きわめて自然に天寿を全うしているように、人間も生水を飲み、生野菜、果物を食べることにすれば、病気を知らず、美しさを誇り、天寿を全うすることができるのである。自然の産物である人間が自然の法則にしたがうとは、このことを意味している」
マクロビオティックなどの玄米菜食では、体が冷えるという理由で果物や生野菜が避けられることが多く、そのことで大きな損をしているように思います。生の食べ物で体が冷えるなら、人間以外の野生動物たちは常時体を冷やして健康に支障をきたしていることになります。しかし、実際はそうではありません。加熱調理によって酵素が死んでしまい、ビタミンやミネラルなどの栄養素が壊れてしまうことの方が問題です。
また、現代の美食は穀物や動物性食品が多すぎて体質が酸性に傾いてしまい、それが病気の温床になっているが、生の果物と野菜はそれをアルカリ性にしてくれるとも説明しています。
「主食をご飯(酸性)、副食物に肉類(動物性脂肪)を中心にして食べていると、これは酸性に片よっていることだから、アチドージスをひきおこすことになる。これを防ぐには、副食物を肉類からアルカリ性の食物に切りかえなければならない。アルカリ性の食品、たとえば野菜、果物、海藻類をとれば、無機質を十分にふくんでいるので、酸性になっている血液を中和することに役立つのである。いってみれば、血液を浄化し、働きをたすけるのである」
※ここで言う「アチドージス」とは酸毒症のこと。
体質をアルカリ性に変えてくれるという点では、ポイント 5 の「生青汁」も推奨しています。人間は草食動物たちとは違って、野菜の繊維質を分解する酵素「チターゼ」の分泌が少ないため、生野菜を大量に食べると消化不良をきたします。青汁にすることで、消化吸収が早くなり、栄養配給の効率も良くなります。当時はすり鉢で青野菜をすって青汁を作っていたようですが、現在はジューサーの性能も上がり手軽に青汁を絞れるようになりました。
青汁には 4 つの効用があります。1 つ目は、体液や血液の酸性をアルカリ性に変える点。2 つ目は、造血作用が高いこと。3 つ目は、コレステロールを分解流出する点。4 つ目は、細胞の増殖を助け活力を与える点、です。
ポイント 2 の「基本的に菜食を推奨」ですが、菜食主義者の方がスタミナがあり精力も強いことを指摘し、菜食こそ強精食と言っています。菜食はタンパク質が不足すると考えている人もいますが、さまざまな植物性食品の植物性タンパク質を組み合わせることで、体が必要とする各種アミノ酸を完全に充足させることができます。
「植物性タンパクだけでも、これに含まれている必須アミノ酸を上手に利用すれば、栄養価を高め、健康になり、美しくもなることができるのである。たとえば、ヒスチジンの多い小麦タンパクと、リジンの多い豆タンパクを組み合わせれば、おたがいの欠点を補うことになるだろう。」
ポイント 3 の「塩分は控えめ」の考え方ですが、これは、植物にも動物にももともと塩分が含まれているので、特別に塩分を摂取する必要はないという考え方です。人間の体に必要な塩分はほんのわずかであり、過剰な塩分は腎臓の負担になります。塩分は摂るものではなく、抜くものだと言っています。これは、運動をしたり、風呂やサウナに入ったりして汗を流すことで、体から余分な塩分を抜くぐらいが丁度よいということです。
「もともと人間の体が必要とするナトリウム(塩)は、ごく微量なものである。果物なら 100 グラムに 0.04 グラム、牛乳には 0.01 グラムの塩分があり、ほかの植物や動物にもあまねくふくまれているから、ことさら塩分をとらなくても、人間の体には十分に間に合っている。」
ポイント 4 の「澱粉食品は体の基礎を作る」ですが、米、カボチャ、サツマイモなどの炭水化物食品を澱粉食品と呼び、体の基礎を作る食品として推奨しています。玄米と白米の区別にはあまりこだわっていなかったようで、ほとんど玄米の話しは出てきません。特にカボチャとサツマイモは、豊富な栄養素を持った美容食品として推奨されています。
ポイント 6 の「一日二食主義」ですが、食事は空腹のときにとればよいので、一日三食にこだわる必要性は特にないということです。
「私はすでに 50 年来、ずっと二食主義を実行してきているが、体に何の支障もないばかりか、三食による胃腸の負担が減るので、体の調子はいたってよく、つねに快適にすごしている。生物学の法則からいっても、食事はもともと空腹のときにとればよいのだから、二食でもいっこうにかまわないのである」
以上の 6 点が栗山式自然食の大きな特徴ですが、栗山式自然食とフルータリアンは共通する点が多いです。フルータリアンを栗山式に説明するなら、「“生きた”水分を豊富に摂取する食事スタイル」と言えます。
同時代に、果物と生野菜を中心とした食事を推奨していた世界的な先駆者として、ノーマン・ウォーカー(1886~1985)という人がいます。
ニンジンジュースなどの生ジュース療法を世に広めたことでも有名で、主要な著作は日本語にも翻訳されています。ウォーカー博士自身、果物と生野菜を中心とした菜食を実践し、99 歳で亡くなる最晩年まで執筆活動などを続け、非常に健康的だったことが知られています。
健康の秘訣は「果物と野菜に含まれている生きた水分を多く摂取すること」でした。これはまさに栗山式健康法と同じです。ウォーカー博士も青汁健康法を研究し、その研究成果を『生野菜汁療法』という本にまとめています。
その他個人的に興味深いのは、栗山氏が「加熱食品が虫歯を作る」と言い切っているところです。砂糖をはじめとする酸性食品をとりすぎた結果、酸毒症が引き起こされることが虫歯の原因と書かれています。果物は甘いから虫歯になりやすいと思っている人が多いのですが、私の経験からしても、これは果物に対する完全な誤解だと思います。
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【参考文献】
1. 栗山毅一(著)『永遠の若さを保証する自然食の秘密―食品公害の中で生き抜く知恵』徳間書店(1970)
2. 栗山毅一(著)『完全食事療法/病気の自己診断法 医者のくるまで』株式会社栗山食事研究所出版部(1964)
3. N.W.ウォーカー(著)、樫尾 太郎(翻訳)『生野菜汁療法:毎日の一杯が難病をなおす』実業之日本社(1976)