フルータリアンの備忘録

フルータリアンとは、果物を主食にしているベジタリアンのことです。人間は果食動物? 果食動物で死ぬ?

20 世紀日本で最も注目すべき食養家――栗山毅一

2024-04-25 | 20 世紀に学ぶ
日本の食養家というと、マクロビオティックをはじめとする玄米菜食の提唱者を思い浮かべる人が多いと思います。玄米菜食は伝統的な日本食に近い部分が多く、導入に対する心理的な抵抗も少ないことから一部では人気があります。
その一方で、70 歳前後で亡くなっている提唱者・指導者たちも多く、一般の平均寿命と変わらない印象があります。寿命があまり変わらないのなら「自分の好きなものを食べて死んだ方がまし」とか「結局はバランスの取れた食事が一番大事」といった考えに落ち着く人が多いのにも納得がいきます。

私は、20 世紀の日本で活躍した食養家の中で最も注目されるべきは、このような玄米菜食主義者ではなく、栗山式食事療法を提唱した栗山毅一氏 (1890~1984) だと思います。95 歳で亡くなるまで精力的に活躍を続け、自然食の普及に大きく貢献した食養家です。
また、栗山式自然食を実践していた有名人として、美容家のメイ牛山さんがいます。ハリウッド美容専門学校で指導に当たるなど美容業界で世界的に活躍された方で、美容に関する書籍も 30 冊以上執筆されています。90 歳を超えても第一線で活躍を続け、96 歳で逝去されました。
現代では、芸能人の訃報などを見ると、70 歳どころか 50 歳にもなれない人が増えてきているような気がします。このお二人のように、90 歳を超えてもなお現役という人はますます少なくなっているのではないでしょうか。
ここでは、お二人の活力と長寿を支えた栗山式自然食について、簡単に紹介したいと思います。『永遠の若さを保証する自然食の秘密~食品公害の中で生き抜く知恵~』(栗山毅一[著]、トクマカジュアルブックス[出版社])という本が私の手元にありますので、この 50 年前の本を元に栗山式食事療法のポイントを、次のように大きくまとめてみたいと思います。

ポイント 1: 生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する。加熱水分は避ける。
ポイント 2: 動物性脂肪および動物性タンパク質の摂取を控える。基本的に菜食を推奨。
ポイント 3: 塩分は控えめに。
ポイント 4: 米、カボチャ、サツマイモなどの澱粉食品は体の基礎を作る。
ポイント 5: 生青汁を推奨。
ポイント 6: 一日二食主義。

この他にも、体の症状別にさまざまな理論と実践が展開されているのですが、他の食養法と一線を画する最も特徴的な点は、ポイント 1 の「生の果物と野菜から“生きた”水分を豊富に摂取する」という点です。栗山氏は、野生動物たちが人間に比べると遙かに健康的で病気が少ないのは「食べ物を加熱せずに“生きた”水分を摂取しているから」ということに気付いていました。次のように言っています。

「しかし人間がとるべき食物は、自然食、または自然的食物といって、生ものか、これに近い食物がよく、これは健康のためにも、美容のためにもなっている。私の自然食の眼目もまさにこの点にある。動物はすべて生ものを食べて、病気にもかからず、きわめて自然に天寿を全うしているように、人間も生水を飲み、生野菜、果物を食べることにすれば、病気を知らず、美しさを誇り、天寿を全うすることができるのである。自然の産物である人間が自然の法則にしたがうとは、このことを意味している」

マクロビオティックなどの玄米菜食では、体が冷えるという理由で果物や生野菜が避けられることが多く、そのことで大きな損をしているように思います。生の食べ物で体が冷えるなら、人間以外の野生動物たちは常時体を冷やして健康に支障をきたしていることになります。しかし、実際はそうではありません。加熱調理によって酵素が死んでしまい、ビタミンやミネラルなどの栄養素が壊れてしまうことの方が問題です。
また、現代の美食は穀物や動物性食品が多すぎて体質が酸性に傾いてしまい、それが病気の温床になっているが、生の果物と野菜はそれをアルカリ性にしてくれるとも説明しています。

「主食をご飯(酸性)、副食物に肉類(動物性脂肪)を中心にして食べていると、これは酸性に片よっていることだから、アチドージスをひきおこすことになる。これを防ぐには、副食物を肉類からアルカリ性の食物に切りかえなければならない。アルカリ性の食品、たとえば野菜、果物、海藻類をとれば、無機質を十分にふくんでいるので、酸性になっている血液を中和することに役立つのである。いってみれば、血液を浄化し、働きをたすけるのである」
※ここで言う「アチドージス」とは酸毒症のこと。

体質をアルカリ性に変えてくれるという点では、ポイント 5 の「生青汁」も推奨しています。人間は草食動物たちとは違って、野菜の繊維質を分解する酵素「チターゼ」の分泌が少ないため、生野菜を大量に食べると消化不良をきたします。青汁にすることで、消化吸収が早くなり、栄養配給の効率も良くなります。当時はすり鉢で青野菜をすって青汁を作っていたようですが、現在はジューサーの性能も上がり手軽に青汁を絞れるようになりました。
青汁には 4 つの効用があります。1 つ目は、体液や血液の酸性をアルカリ性に変える点。2 つ目は、造血作用が高いこと。3 つ目は、コレステロールを分解流出する点。4 つ目は、細胞の増殖を助け活力を与える点、です。

ポイント 2 の「基本的に菜食を推奨」ですが、菜食主義者の方がスタミナがあり精力も強いことを指摘し、菜食こそ強精食と言っています。菜食はタンパク質が不足すると考えている人もいますが、さまざまな植物性食品の植物性タンパク質を組み合わせることで、体が必要とする各種アミノ酸を完全に充足させることができます。

「植物性タンパクだけでも、これに含まれている必須アミノ酸を上手に利用すれば、栄養価を高め、健康になり、美しくもなることができるのである。たとえば、ヒスチジンの多い小麦タンパクと、リジンの多い豆タンパクを組み合わせれば、おたがいの欠点を補うことになるだろう。」

ポイント 3 の「塩分は控えめ」の考え方ですが、これは、植物にも動物にももともと塩分が含まれているので、特別に塩分を摂取する必要はないという考え方です。人間の体に必要な塩分はほんのわずかであり、過剰な塩分は腎臓の負担になります。塩分は摂るものではなく、抜くものだと言っています。これは、運動をしたり、風呂やサウナに入ったりして汗を流すことで、体から余分な塩分を抜くぐらいが丁度よいということです。

「もともと人間の体が必要とするナトリウム(塩)は、ごく微量なものである。果物なら 100 グラムに 0.04 グラム、牛乳には 0.01 グラムの塩分があり、ほかの植物や動物にもあまねくふくまれているから、ことさら塩分をとらなくても、人間の体には十分に間に合っている。」

ポイント 4 の「澱粉食品は体の基礎を作る」ですが、米、カボチャ、サツマイモなどの炭水化物食品を澱粉食品と呼び、体の基礎を作る食品として推奨しています。玄米と白米の区別にはあまりこだわっていなかったようで、ほとんど玄米の話しは出てきません。特にカボチャとサツマイモは、豊富な栄養素を持った美容食品として推奨されています。

ポイント 6 の「一日二食主義」ですが、食事は空腹のときにとればよいので、一日三食にこだわる必要性は特にないということです。

「私はすでに 50 年来、ずっと二食主義を実行してきているが、体に何の支障もないばかりか、三食による胃腸の負担が減るので、体の調子はいたってよく、つねに快適にすごしている。生物学の法則からいっても、食事はもともと空腹のときにとればよいのだから、二食でもいっこうにかまわないのである」

以上の 6 点が栗山式自然食の大きな特徴ですが、栗山式自然食とフルータリアンは共通する点が多いです。フルータリアンを栗山式に説明するなら、「“生きた”水分を豊富に摂取する食事スタイル」と言えます。

同時代に、果物と生野菜を中心とした食事を推奨していた世界的な先駆者として、ノーマン・ウォーカー(1886~1985)という人がいます。
ニンジンジュースなどの生ジュース療法を世に広めたことでも有名で、主要な著作は日本語にも翻訳されています。ウォーカー博士自身、果物と生野菜を中心とした菜食を実践し、99 歳で亡くなる最晩年まで執筆活動などを続け、非常に健康的だったことが知られています。
健康の秘訣は「果物と野菜に含まれている生きた水分を多く摂取すること」でした。これはまさに栗山式健康法と同じです。ウォーカー博士も青汁健康法を研究し、その研究成果を『生野菜汁療法』という本にまとめています。

その他個人的に興味深いのは、栗山氏が「加熱食品が虫歯を作る」と言い切っているところです。砂糖をはじめとする酸性食品をとりすぎた結果、酸毒症が引き起こされることが虫歯の原因と書かれています。果物は甘いから虫歯になりやすいと思っている人が多いのですが、私の経験からしても、これは果物に対する完全な誤解だと思います。

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【参考文献】

1. 栗山毅一(著)『永遠の若さを保証する自然食の秘密―食品公害の中で生き抜く知恵』徳間書店(1970)
2. 栗山毅一(著)『完全食事療法/病気の自己診断法 医者のくるまで』株式会社栗山食事研究所出版部(1964)
3. N.W.ウォーカー(著)、樫尾 太郎(翻訳)『生野菜汁療法:毎日の一杯が難病をなおす』実業之日本社(1976)
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ヒトはどこまで果食動物か?――ヒトもパンダも食性進化のジレンマに陥り続けている

2022-07-12 | フルータリアンのメモ
■ 微小摩耗痕の発見

1979 年 5 月 15 日付のニューヨーク・タイムズ誌に、ジョンズ・ホプキンズ大学の人類学者、アラン ウォーカー博士の研究が取り上げられ、世間を驚かせることになりました。

博士が行った研究は、古代人の歯と食性に関するものでした。
博士は、化石の歯のエナメル質に残ったわずかな傷跡を調べることで、当時の人類が何を食べていたのかを推定することに成功しました。
その結果、初期の人類の祖先は、草食でもなく、肉食でもなく、また、雑食でもありませんでした。
その代わりに、果物を主食にして生きていたというのです。

様々な年代の歯の化石を調べましたが、例外は一つもありませんでした。
1200 万年前の類人猿から、ホモ・エレクトゥス (約 200 万年前に出現した原人) の出現に至るまでの 1000 万年にわたって、初期の人類の祖先たちは一貫して果食動物であったということです。
他の専門家たちが推定していた食生活よりも、森に住むチンパンジーに近い食生活を送っていたことが明らかになったのです。
この発表は、医師や栄養学者などの専門家にとっても、果物の価値について再考を促すものでした。

博士が分析したのは、化石の歯の表面に残った微小摩耗痕と呼ばれる傷跡でした。
人間の毛髪の何百分の一という、目に見えない太さの傷跡ですが、走査型電子顕微鏡 (SEM) を使えば可視化することができます。

食べ物の種類によって、歯のエナメル質の表面に出来る摩耗痕は異なり、それぞれの食べ物に特有の摩耗パターンを残します。
植物細胞の中には植物珪酸体 (プラントオパール) と呼ばれるシリカのかけらが含まれており、
この物質は歯のエナメル質よりも固いため、食べ物を噛んだときに、わずかなひっかき傷を歯に作ります。
草は、木や茂みに比べると、植物珪酸体を高い割合で含有しています。
一方、果物には植物珪酸体が含まれていません。
そのため、果食動物の歯は、きれいに磨かれたような状態になります。
肉にも植物珪酸体が含まれていませんが、骨をかじったときに、歯にかすり傷が残ります。

このように、それぞれの食べ物に特徴的な摩耗パターンが、歯の表面に出来るわけです。
また、歯のエナメル質は、どの動物でもほとんど同じ材質で出来ていることもあり、
歯の微小摩耗痕を調べれば、どの種類の動物であっても、何を食べていたのかを推定することができます。

では、初期の人類の祖先が一貫して果食動物であったとして、200 万年前に出現したホモ・エレクトゥス以降の食生活は一体どのようなものだったのでしょうか?

■ 「肉食が人類を進化させた」のは本当か?――新たな視点

約 200 万年前、明らかに現生人類と同じ性質を備えたホモ・エレクトゥスという種が出現しました。
以前よりも、脳が大きくなり、腸も短くなって、手足の長さの比率も現生人類に近いものとなりました。

脳の容積が大きくなるこの時期に、肉食の考古学的証拠が激増します。
原人の骨が見つかるところには高い確率で解体された動物の骨が見つかる、という具合にです。
肉食と脳の進化を結びつけて語られることが多くなり、「肉食が脳を進化させた」という説が有力な考えとして支配的になっていきました。
大きな脳はエネルギー消費が激しく、全身の 20 パーセントものエネルギーが脳に振り向けられます。
この大量のエネルギーを満たすためには、カロリーの高い肉食が好都合であったと理由づけられ、肉食のおかげで、人間らしい進化を果たすことができたのだと説明されるようになりました。

しかし昨今、このステレオタイプな考えに疑問を呈する研究者も多くなっています。
ワシントン DC のスミソニアン研究所に所属する古人類学者、ブリアナ・ポビナー博士もその一人です。

ポビナー博士は、肉食と人類の進化との関連性はこれまでに考えられていたよりも確実性に乏しい可能性があると考えています。
そう考える理由の一つが「サンプリングの偏り」です。
ホモ・エレクトゥス出現後の時代に、解体された動物の骨が多く見つかるのは、サンプリングに偏りがあるためだといいます。
特定の年代がますます注目を浴びるようになった結果、その年代の地層で骨を探そうとする人類学者が増えたため、その結果として、骨の発見数が増えているに過ぎないと分析しています。
過度に注目を浴びる年代や地層がある一方で、調査が不十分な発掘現場もあります。
ポビナー博士の研究では、特に 190 万年前から 260 万年前の地層で調査が不十分であることを指摘しています。
これは今後、古人類学の化石調査で埋めていくべきギャップでもあります。
まだ調査がされていない時期に肉食が増えた可能性だってあるし、脳が進化した理由は他にあるのかもしれないのです。

また、化石から食生活の詳細を知ることには限界もあります。
例えば、肉食をしていたのは明らかであっても、食生活に占める肉の割合までははっきりしません。
現実には、女や子供が採集してきた木の実や植物に大きく依存していたのかもしれないのです。
当時の肉食依存度は意外に低かったという見方もあります。
パレオダイエット (原始人食) が批判されやすいのは、この点です。
パレオダイエットは原始人の食生活を理想モデルにしており、かなりの量の動物性食品を摂取しますが、そもそも、その理想モデル自体がどこまで正しいのかわからないという問題があります。
地域や環境によって食生活にバリエーションが生じますが、その中でもどの食スタイルを理想モデルにするかという点も曖昧で、その理想モデルの原始人たちの健康状態も不明です。
しかし、この記事ではあえて、ホモ・エレクトゥスが過度に肉食に依存していたものと想定して、次の考察に進みたいと思います。

■ 草食から肉食(または肉食から草食)への移行は極めて珍しい

草食から肉食へ移行した動物、そしてその逆、肉食から草食へ移行した動物は珍しく、数えるほどしかいません。

草食から肉食へ転換した一つの例として、バッタネズミと呼ばれる小動物がいます。
米国中西部に生息し、普通のノネズミに似ていますが、獰猛な捕食動物であり、トカゲや昆虫を狩って食べ、特にバッタを好物にしています。
化石の記録から、バッタネズミは、草食性のネズミの子孫であることがわかっているそうです。

逆に、肉食から草食へ移行した動物としては、パンダがいます。
パンダは、食事の大半が竹の葉や幹ですが、分類学上はクマ科に分類される熊の仲間であり、元々は肉食獣であったと考えられています。

自然界において、草食・肉食間の転換は珍しく、そう簡単なことではないように思えます。
草食動物と肉食動物では、生理的な隔たりが大きすぎることも原因の一つでしょう。
そして、現在は極端な草食をしているパンダでさえも、草食への移行を成功させたとは言い難い状況に置かれていることが、最新の研究でわかってきました。

■ パンダは、200 万年かけても、草食に進化しきれていない――新たな研究



2015 年、米国微生物学会のオンラインジャーナル「mBio」に、パンダの消化器官に関する興味深い研究論文が発表されました。
(日本語紹介記事:「ジャイアントパンダの消化器系、タケ食適応に進化せず 中国研究
英語オリジナル論文:「竹食のジャイアントパンダが保有する腸内細菌叢は、肉食動物に近く、季節変動が激しい」)

本研究では、45 匹のパンダから得られた糞便を試料として、遺伝子解析によって糞便内の細菌叢を調べています。
その結果、パンダの腸内細菌の組成が草食動物とは大きく異なっており、肉食動物と同じような腸内細菌を保有していることがわかりました。
これは予想外の結果で驚くべきものでした。
パンダは、食べ物の大半が竹の葉や幹であるため、草食に適応した腸内細菌叢を保有していると予想されていたためです。
腸内細菌が食べ物に適応するのは、どの種類の哺乳類でも同じように起こる一般原則のように考えられていました。
しかし、パンダの腸内細菌は、200 万年かけても竹食に適応していなかったのです。

そのことが原因で、パンダは一日中、竹をかじり続けています。
パンダは、食事の 99 パーセントが竹の葉や幹で、毎日 12.5 キロの竹を 14 時間も費やして食べています。
そのうち、たったの 17 パーセントしか消化することができず、消化しきれなかった大量の竹は糞便として排出されます。
パンダの消化器官は肉食獣に近く、腸の長さも短いため、竹のセルロースをうまく分解できず、セルロースの消化を助けてくれるような腸内細菌も育っていないため、ほんのわずかしか竹を消化することができないのです。

パンダの祖先であるクマ科の動物が、竹を食べ始めたのは 700 万年前です。
そして、420 万年前に、肉の風味を感じるための「うま味感知能力」を失い、240 万年前から 200 万年前の時期に、食事のほとんどが竹になり、極端な草食へ移行しています。

今回の解析により、パンダの腸内細菌叢は、ストレプトコッカス属とエシェリキア属が優勢であることがわかりました。
これらは、肉を食べる熊には相応しい細菌類です。
逆に、ルミノコッカス属やバクテロイデス属のような、草食動物が豊富に保有している細菌類は見つかりませんでした。
腸内細菌と消化器官のミスマッチは、パンダの脆弱性の一つであり、パンダが想像以上に高い絶滅リスクにさらされていることを示唆しています。

論文の共同執筆者で、上海交通大学 (中国) の龐小燕氏は、プレスリリースの中で以下のように述べています。
「今回の結果は予想外で、極めて興味深いものです。
パンダの腸内細菌叢は、彼らのユニークな食事には適応していなかったのです。
パンダは進化のジレンマに立たされています」

■ ヒトも食性進化のジレンマに陥り続けている?

ヒトも、パンダと同じように、この 200 万年の間、食性進化のジレンマに陥り続けているように思えます。
現代人と肉食動物を比べた場合、生理的には依然として大きな隔たりがあります。
以下、個別の特徴を比較していきたいと思います。

肉食動物を含むほとんどの動物は、体が必要とするビタミン C を体内合成することができます。
しかし、ヒトはビタミン C を体内合成することができず、食べ物からビタミン C を摂取しなくてはいけません。
これは、霊長類、モルモット、果実食のコウモリ、数種類の鳥にのみ見られる特徴で、ヒトは未だに、果物を多く食べる動物に特有の生理を有しています。
このことがはっきりと明らかになったのが大航海時代です。
長い船旅の中で、船乗りたちの大半が壊血病にかかって死んでしまうというおぞましい事故が多く発生してしまいました。
船上の食事は、塩漬けにした肉と小麦で出来たビスケットがメインで、長期保存には不向きな果物や野菜が著しく不足していたため、ビタミン C 不足による壊血病を引き起こしたのです。
壊血病の症状は悲惨なものです。
ビタミン C は、細胞と細胞を連結する役目を果たしているコラーゲンの合成に欠かせない栄養素で、ビタミン C が過度に不足すると、血管が脆くなって、体中のありとあらゆる部位から出血するようになります。
ヒトは、果物や野菜からビタミン C を摂取しなくては生きていけないことが明らかになったのです。

次に、現代人の腸の長さについてですが、進化の過程で少し短くなったものの、肉食動物に比べれば、圧倒的に長い腸を有しています。
ヒトの腸は、胴体の約 12 倍の長さであるのに対して、肉食動物の腸は、胴体の 3 倍程度の長さしかありません。
肉食動物の腸が短い理由は、体内で肉が腐敗するのを避けるためです。
また、肉食動物の胃酸は、ヒトの胃酸と比較した場合、少なくとも 10 倍以上強力で、場合によっては、100 倍、1000 倍以上強力な胃酸を持つ動物もいます。
ヒトは、肉食動物よりもはるかに長い腸を持ち、それでいながら胃酸は弱いわけですから、腸内での腐敗は避けられません。  

食べ物を消化した後の代謝についても違いがあります。
肉食動物は食べた肉の尿酸を代謝するため、ウリカーゼという酵素を分泌しますが、ヒトはこの酵素を分泌しないため、アルカリ性のミネラル (主にカルシウム) によって尿酸を中和しなくてはいけません。
約 1500 万年前から、ヒトを含む類人猿は、なぜかウリカーゼ酵素を持たなくなってしまいました。
動物性食品の摂取量が増えると、プリン体の摂取量が多くなりますが、プリン体は体の中で尿酸に変わって、痛風の原因になります。
そして今、多くの現代人が痛風に悩まされています。

また、ヒトを含む植物食の動物の唾液・尿は、ほとんどの場合アルカリ性に維持されますが、肉食動物の唾液・尿は酸性です。
肉食動物の食事は酸性食品ですが、酸性食品はヒトにとって望ましいわけではありません。
酸性食品の摂取が多くなると、血液が酸性に傾き、これを中和しようとして、骨からアルカリ性のカルシウムが奪われていきます。
このため、酸性食品は骨粗しょう症の原因になるとも考えられています。

このように、体に欠かせない栄養素、そして、食べ物の消化や代謝に至るまで、現代人と肉食動物では、生理的に大きな隔たりがあり、とても「肉食に進化した」などとは言えないものです。
むしろ、大昔の果食動物時代の生理のまま、肉食に対応していると言った方が正確ではないでしょうか。
チンパンジーは、果食動物といっても、少量の小動物や昆虫は食べており、この程度の柔軟性はヒトにも与えられているのでしょう。
このわずかな能力を用いて、大量の肉食に対応しようとしているのが現状かもしれません。
そういう意味では、ヒトはこの 200 万年間、パンダと同じように、食性進化のジレンマに陥り続けているように思えます。

■ 1 万年では短すぎる――穀物や乳製品への適応

ホモ・エレクトゥスの時代に"超肉食"を経験した後、ヒトはさらに雑食動物への進化を遂げたのだという考え方があります。
実際、現代の人間は、正になんでも食べる動物になっており、表面上は雑食動物であるかのように振る舞っています。
表面的には超肉食から雑食へと移行していく過程で、生理的には本当に雑食動物に進化したのかが次の焦点になります。

農耕と牧畜の始まりは、約 1 万年前です。
この頃から、穀物や乳製品の消費量が増えて、現代人がイメージする雑食に近い食生活に変わりました。
しかし、1 万年という期間は、進化・適応による身体的な変化を期待するにはあまりにも短すぎる期間です。
もし、なんらかの変化が起きたとしても、それは、消化を助ける酵素のような目に見えないものだけでしょう。
実際、目に見えないわずかな変化であれば、それは確かに起こっています。

現代人は、AMY1 (アルファ・アミラーゼ 1) という遺伝子を、チンパンジーの約 3 倍も多く持っているため、チンパンジーよりも澱粉をうまく消化することができます。
この遺伝子は、唾液腺の細胞にアミラーゼ酵素を作るように命令するもので、AMY1 のコピーが多いほど、唾液中のアミラーゼ酵素が多くなります。
アミラーゼ酵素によって、澱粉は麦芽糖に分解され、その麦芽糖は他の酵素によってさらにブドウ糖へと分解されていきます。
狩猟採集民よりも、日本人のような農耕民の方が、AMY1 遺伝子を多く持っています。
農耕民の方が、穀物や芋類を効率良く消化できるように進化しているのです。
しかし、AMY1 遺伝子の数は個人差があり、人によって澱粉消化能力は異なります。
たった 1 万年では、遺伝子の伝播が十分ではないのかもしれません。

乳糖分解酵素であるラクターゼの産生についても、進化の跡が見られます。
ラクターゼが産生されるのは、乳糖を単糖に分解するためですが、離乳後はその産生が終わるのが普通でした。
しかし、牧畜民の中に、成人になってもラクターゼ産生を行うものが現れ始め、その遺伝子が集団内で拡散されていきました。
離乳後、大人になっても乳製品を消化できるようになったのです。
しかし、この遺伝子も伝播が十分ではなく、農耕民であった日本人は、今も 7 割以上の人が乳糖不耐症であるとされています。

このように、穀物、芋類、乳製品について、消化酵素のレベルでは進化が見られるものの、その遺伝特性の伝播は十分ではないようです。
雑食に進化したと言うには、1 万年という期間は短すぎるように思えます。

■ ヒトは"加熱食"動物に進化したか?

ヒトが火を用いて本格的に調理をするようになったのが、約 50 万年前であるとの見方があります。
その頃の化石を調べてみても、生理構造上の変化は特に見られないようです。
食べ物を加熱調理するのは人間だけですが、果たしてこの 50 万年で"加熱食"動物に進化を遂げたのでしょうか?

「調理こそがヒトの脳を進化させた」と熱心に主張する専門家もいます。
『火の賜物―ヒトは料理で進化した』(依田 卓巳訳、NTT 出版、2010 年) の著者である、霊長類学者のリチャード・ランガム博士です。
そう主張する理由が、食べ物の加熱調理により、食べ物が咀嚼しやすくなり、味も改善して、消化されやすくなって栄養吸収効率も上がったから、というものです。

しかし、ローフードを勉強したことがある人は、すぐにこの根拠がおかしいことに気付くと思います。
まず、食べ物を加熱すると (果物、生野菜、動物性食品の場合)、食物酵素が死滅してしまうため、消化は悪くなります。
また、ビタミンやミネラルなどの各種栄養素も、加熱による損傷を受けるため、栄養価が落ちます。

ランガム博士は、現代人は、野生動物のように 100 パーセント生の食事では 1 ヶ月も生きていけないと断言しています。
これは、生菜食を実践している人たちにとっては、逆に興味深い主張です。
私は、果物と生野菜だけの 100 パーセント生の食事を 1 ヶ月以上続けたことが何度もありますが、特に問題はありませんでした。
ある一定ラインで体重が安定し続けるのが面白いところで、体が痩せ細って衰弱するようなことは全くありませんでした。
ただ、私のようなローフーディストは現代社会では圧倒的な少数派ですから、博士がそのような主張をするのも無理はありません。

ランガム博士は、調理という行為のおかげで、栄養状態も改善して、それが脳の進化につながったと考えています。
人類が進化の頂点に立ち圧倒的な存在となる上で欠かせない行為として、調理を基本的にはポジティブに捉えています。

しかし、最新の栄養学では、調理のネガティブな側面に焦点が当てられることが増えています。
例えば、昨今、一般にも話題に上がるものとして、AGE と呼ばれる物質があります。
AGE とは、終末糖化産物 (Advanced Glycation Endproducts) のことで、強い毒性を持ち、老化を進める原因物質と考えられています。
カルボキシメチルリジン、ペントシジン、クロスリンなど 100 種類以上の物質が見つかっており、肌・血管・骨の老化、癌や糖尿病など生活習慣病の発症、白内障やアルツハイマー病の促進など、さまざまな老化現象の原因となっていることがわかってきました。

AGE は、食べ物の中の糖質とタンパク質を同時に加熱することで発生します。
食べ物を調理した後のこんがり焼き上がった茶色は、AGE が大量発生していることを意味しています。
つまり、現代人が常食しているありとあらゆる加熱・加工食品に AGE が含まれているのです。
ステーキ・焼き肉・ハンバーグなどの肉料理、天ぷら・唐揚げ・コロッケなどの油もの、ビスケット・ドーナツ・パンケーキなどの菓子類、ポテトチップス・フライドポテトなど芋を高温調理したもの、プロセスチーズなど乳製品を加熱処理したもの、目玉焼きなど卵を炒めたもの等、数えればきりがありません。

自然界においてこの 50 万年、ヒトだけが大量の AGE にさらされ続けています。
この間、これらの毒物を無毒化できるように進化したのでしょうか?
とてもそうは思えません。
例えば、AGE の中でも最も悪玉と言われている「アクリルアミド」という毒物があります。
国際がん研究機関は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(グループ 2A)」に分類し、神経毒性、遺伝毒性、および発がん性の恐れを指摘しています。
ヒトは、加熱調理をするようになってから一貫して、アクリルアミドの悪影響を受け続けています。
それでも、アクリルアミドのような発がん性物質の影響が本格的に現れるのは、40 代以降の中年期であり、この頃には子育ても一通り終わっているため、種の存続という観点からは、致命的な影響はないものと考えられます。
野生動物と比べると、生活習慣病が異様に多いという状態がずっと続いているだけで、種として絶滅にいたるわけではありません。

■ 現代人は果食動物の体のまま、追い越し車線をはみ出し続けている

この記事では食性の進化に焦点を当てましたが、200 万年前から脳の容積が大きくなり続けていることは事実で、なぜこの期間に脳が大きくなったのかという疑問は依然として残ります。
これに関して一言で言えば、よくわかりません。
テーマが壮大過ぎて、この記事で扱う範疇を超えています。
しかし、肉食や調理そのものが脳を大きくしたというよりは、それら行為を巡る社会的要素の方に、今後は関心が向けられるでしょう。
また、人間の活動には、狩りをしたり料理をしたりすることよりも、もっと複雑な活動があります。
言語を用いた抽象的な思考、絵画や音楽などの芸術表現、繊細で複雑な感情のやりとり、などです。
これらに言及することなく、脳の進化に深い理解が得られることはないでしょう。

私が最も興味を持っていることは、ヒトが何から何へ進化したということよりも、ヒトはどこまで果食動物であり続けているかということです。
ヒトの食生活は、特に 1 万年前から大きく変化しており、ここ数百年においては変化が急激になっています。
数百年前から油による超高温調理が始まり、百年前からは砂糖や精製穀物も普及し始め、ヒトは他のどの動物も口にしないであろう食べ物を常食するようになっています。
そして今、油もの・砂糖・精製穀物のどれもが健康を害する食品として熱心に議論されているところです。
食性の変化が急激過ぎて、遺伝子の変化がそれに追いついていないのは明らかです。
現代人は、果食動物の体のままに、追い越し車線をはみ出し続けている、、、そんなイメージを抱いています。

実はこの記事は、次回以降の記事につなげるための布石でもあります。
この記事を読んだ後に出てくる更なる疑問、それは「現代人が主食にしている穀物は本当に主食に値しないのか」というものです。
穀物は鳥類の食べ物であり、ヒトの食性には適さないと考えている栄養学者もいます。
子供の頃、ご飯を食べるときはよく噛んで食べるようにと大人から教わったものですが、穀物食の鳥たちには歯がありません。
この謎に踏み込んで、さらにヒトの食性に対する理解を深めていきたいと思います。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【参考文献】

1. ピーター・S・アンガー(著)、河合 信和 (訳)『人類は噛んで進化した:歯と食性の謎を巡る古人類学の発見』原書房 (2019)
2. アラン ウォーカー (著), パット シップマン (著), 河合 信和 (訳)『人類進化の空白を探る』朝日新聞社 (2000)
3. Peter S. Ungar. Teeth: A Very Short Introduction (Very Short Introductions). OUP Oxford (2014)
4. Peter S. Ungar. Evolution's Bite: A Story of Teeth, Diet, and Human Origins. Princeton University Press (2017)
5. Peter S. Ungar. Evolution of the Human Diet: The Known, the Unknown, and the Unknowable (Human Evolution Series). Oxford University Press (2006)
6. JOHN THYS「ジャイアントパンダの消化器系、タケ食適応に進化せず 中国研究」AFPBB News (2015年5月20日) 
7. Matt Reynolds (著)『「肉食が人類を進化させた」は本当か?』 WIRED (2022年5月4日)
8. Boyce Rensberger. Teeth Show Fruit Was The Staple. The New York Times (May 15, 1979)
9. Zhengsheng Xue, et al. The Bamboo-Eating Giant Panda Harbors a Carnivore-Like Gut Microbiota, with Excessive Seasonal Variations. mBio Vol.6, No.3 (May 19, 2015)
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冷凍フルーツでバリエーションをつける――フローズンメニューの導入

2022-05-25 | フルータリアンの実践
冷凍フルーツを取り入れることで、単調になりがちな食生活に、バリエーションをつけることができます。

冷凍ものの方が安価で、季節を気にせず年中楽しめるというメリットがあります。
半解凍のまま利用して、フローズンスムージーやアイスクリーム風ミックスボウルなど、ひんやり食感のメニューを楽しむことができます。

様々な冷凍フルーツが出回っていますが、よく見かけるのが、イチゴ、ブルーベリー、マンゴー、パイナップル、ブドウ、キウイ、ライチなどです。
私は、このうち、冷凍ブルーベリーと冷凍マンゴーをよく利用しています。

その一方で、冷凍処理による栄養損失について気にされる方もいるかもしれません。
これについては後半で触れることにして、まずは、冷凍フルーツを利用した、ひんやり美味しいフローズンメニューを紹介したいと思います。

■ かんたんフローズンメニュー

[1] 冷凍ブルーベリー

・バナナとブルーベリーのミックスボウル


ブルーベリーが半解凍ぐらいのタイミングで、バナナとミックスします。
ひんやりとした食感で、アイスクリームのような味わいがあります。

スーパーが閉まっていてコンビニしか開いていないときでも、用意できる可能性が高いメニューです。
最近のコンビニは、冷凍フルーツの取り揃えがとても充実しています。

・バナナとブルーベリーのフローズンスムージー


汗をかいて水分欲求があるときは、フローズンスムージーにするのもよいでしょう。

眼精疲労を感じているときにブルーベリージュースを飲むと、翌日に目の疲れが和らいでいることに気付くこともあります。
ブルーベリーに豊富に含まれるアントシアニンには、目の毛様体筋の緊張をほぐす効果があり、眼精疲労を軽減させます。

バナナとブルーベリーの組合せは、クレープやお菓子に使われる定番ですが、子供たちがもっとも好きな味の一つです。
砂糖入りの炭酸飲料を与える代わりに、果物だけのスムージーを作ってあげることで、子供の虫歯を防ぐことができます。

[2] 冷凍マンゴー

・マンゴーとバナナのミックスボウル


バナナの上に、冷凍マンゴーをかけただけの簡単メニューです。
リンゴとも相性が良いです。

東洋医学やマクロビオティックの影響を受けた方に多いのですが、生の野菜や果物を食べると体が冷えると考えている人もいます。
しかし、多くのローフード実践者が体験している世界は、その逆です。
「体の内側からポカポカする」、「血のめぐりが良くなったのか、体温が上がった気がする」などと、体の冷えとは真逆の現象を体験する人が多いのです。
この理由としては、生の野菜や果物は、加熱処理によって酵素が破壊されておらず、大変消化が良いため、全身の代謝が良くなっていることが考えられます。
なにより、人間以外のすべての野生動物は、食べ物を加熱することなく、そのままの状態で食べています。
寒さが厳しい冬の季節においては、寒風にさらされて冷え切った食べ物をそのまま食べることもありますが、それはそれで何の問題もないわけです。

・ひんやりトロピカルジュース


冷凍マンゴーとパイナップルのミックスジュースです。
南国フルーツ同士の掛け合わせが生み出す、独特でトロピカルな味わいが魅力です。

マンゴーやパイナップルに含まれる豊富な酵素により、腸内の毒素や未消化物が分解され、腸内をキレイな状態に保つことができます。

■ 「スーパーフルーツ トップ 20」とは?――マンゴーやブルーベリーは何位?

次に、米国のフルーツ研究家、ポール・グロス博士の著書『スーパーフルーツ』(未訳) に基づきながら、マンゴーとブルーベリーの栄養・効能について触れたいと思います。

昨今、様々な食べ物が"スーパーフード"として持ち上げられる傾向があります。
しかし、多くの場合、ごく一部の栄養素だけに着目しているに過ぎず、総体的にバランス良く評価されているわけではありません。
また、食品産業のマーケティングが原動力になっていることが多く、科学者の評価が盛り込まれているとは限りません。

そこで、グロス博士は、20 年以上に及ぶ自身のフルーツ研究に基づき、フルーツを総体的に評価し直しました。
以下の 5 項目を評価の基準としています。

・栄養素の多様さと豊富さ
・ファイトケミカルの多様さと豊富さ
・栄養基礎研究の進展度合い
・栄養臨床研究の進展度合い
・利便性 (取り入れやすさ、美味しさ、コストパフォーマンスの良さ)

そして、スーパーフルーツの上位 20 位を以下のように発表しました。

☆ スーパーフルーツ トップ 20

1 位 :マンゴー
2 位 :イチジク
3 位 :オレンジ
4 位 :イチゴ
5 位 :クコの実
6 位 :赤ブドウ
7 位 :クランベリー
8 位 :キウイフルーツ
9 位 :パパイヤ
10 位:ブルーベリー
11 位:チェリー
12 位:赤ラズベリー
13 位:シーベリー
14 位:グアバ
15 位:ブラックベリー
16 位:カシス
17 位:デーツ
18 位:ザクロ
19 位:アサイー
20 位:乾燥プルーン

なんと、マンゴーは 1 位に、そして、ブルーベリーも 10 位に選ばれています。

・マンゴー (1 位)

特に含有量が多いのが、水溶性食物繊維、ビタミン C、カロテノイド、ポリフェノール。
幅広い必須栄養素を豊富に含んでおり、毎日の栄養摂取目標を達成する上で優れた摂取源となり得る。
総合的な栄養価で見た場合、マンゴーは果物の中でも特に優れている。

マンゴーの果肉には 25 種類ものカロテノイドが含まれ、中でもベータカロチンを最も高濃度で含有している。
また、各種ポリフェノール、天然化合物のルペオール、および、マンギフェリンと呼ばれるファイトケミカルも含む。
ルペオールは、抗腫瘍効果および抗炎症効果で知られ、    
マンギフェリンは、優れた抗酸化力と抗炎症作用を持ち、血管を健康に保つ働きがあると考えられている。

・ブルーベリー (10 位)

ほぼ全ての必須栄養素が含まれており、毎日の栄養摂取目標を達成する上で良い摂取源となり得る。
特に、食物繊維、ビタミン C、必須ミネラルのマンガンを多く含む。

皮の青色色素成分であるアントシアニンとレスベラトロールは、強力な抗酸化作用があるとされている。
シアニジンやデルフィニジンなどのアントシアニン色素が、老化、記憶力、身体能力、炎症、心血管系、代謝系、抗癌機構に及ぼす効果について、熱心な研究が続けられている。

動物を用いた研究では、ブルーベリー抽出物を与えられたラットにおいて、老化に関連した疾患の進行が遅くなったり、その進行が逆転したりした。   
一時的な若返り現象として一般にも話題になったが、これはブルーベリーの強い抗酸化作用および抗炎症作用によるものと推定されている。

■ 冷凍による栄養損傷について

果物に対して様々な加工が行われていますが、中でも、濃縮還元されたジュースは栄養の損傷が激しく、栄養価という観点から見た場合、全く別物と考えるべきです。
加熱殺菌の工程を伴うため、酵素は死滅し、ビタミン・ミネラルをはじめとする栄養素も損傷を受けています。
未加工のままの果物と、濃縮還元されたジュースの栄養価を以下のように比較することができます (『スーパーフルーツ』を元に作成)。


多くのローフード実践者が、市販の濃縮還元ジュースには手を出さずに自分で生ジュースを絞るのは、こういった理由からです。

それに対して、冷凍処理の場合は、未加工の果物や乾燥果実と近いレベルで栄養価が保たれると、グロス博士は言っています。
そして、その根拠となる理由も多くあるわけですが、以下、ポイントとなる論点をいくつか示したいと思います。

・前処理のブランチングについて   

冷凍野菜の場合、前処理としてブランチングという加熱処理が行われています。
加熱により酵素を不活性化させて、冷凍保存中の変質や変色を防ぐためです。

それに対して、冷凍果物の場合、ブランチングをしてしまうと新鮮さが失われてしまうため、ブランチングは行われていません。
ただし、ごく一部のスライス状の果物は、変色を防ぐためにブランチングを行うこともあるようです。
正確なことは、製造元に確かめなければわからないようです。

・急速冷凍と通常冷凍の違いについて

現代の冷凍食品は、急速冷凍により冷凍保存されています。
どの程度、"急速"かというと、マイナス 5℃~マイナス 1℃の範囲を「30 分以内」で通過する速さです。

この温度帯は、「最大氷結晶生成温度帯」と呼ばれており、食品の水分が氷結晶に変わる時間帯です。
この際、氷結晶の肥大化が起こり、食品の細胞膜が破壊されてしまいますが、
この温度帯をできるだけ素早く通過させることで、氷結晶の肥大化を抑制することができ、細胞破壊を防ぐことができます。

通常の冷凍 (緩慢冷凍と呼びます) では、この温度帯を通過するのに何時間もかかるため、食品体積の膨張とともに細胞破壊が起こり、品質の劣化につながります。
以下のグラフは、急速冷凍と緩慢冷凍の凍結曲線を比較したものです。 (参考:一般社団法人日本冷凍食品協会のホームページ内資料より)


・冷凍によるビタミン C の損傷について

栄養素の中でもビタミン類は損傷を受けやすく、特にビタミン C は、栄養素として重要性が高く、分析もしやすいことから、冷凍フルーツの品質を測定する上で最も代表的な指標になっています。

Bisset と Berry による研究 (*3) では、濃縮オレンジジュースを冷凍保存した場合に、ビタミン C がどれだけ保持されるかが調査されています。
濃縮オレンジジュースを、-20.5℃で凍らせた後、-20.5℃、-6.7℃、1.1℃の 3 通りの温度で冷凍保存を行いました。

最も低い温度である -20.5℃ で冷凍保存した場合、一年後のビタミン C 保持率は 91.5%でした。
それに対し、-6.7℃では 8 ヶ月の時点で 79%の保持率、1.1℃ではたった 3 ヶ月で 89%の保持率となりました。

-20.5℃の低温下では、かなり高い保持率で、ビタミン C が保持されていたと言えるでしょう。
以下のグラフは、濃縮オレンジジュースの冷凍保存時のビタミン C 保持率を示したものです (アルミ付紙パックで保存した場合のデータ) 。



・冷凍によるビタミン B 群の損傷について

Spiess による研究 (*4) は、冷凍保存におけるビタミン B 群とカロテンの保持に関するものです。
オレンジジュースとイチゴを -18℃で冷凍保存した場合の、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、リボフラビン、チアミン、ピリドキシンの安定性について報告されています。
12 ヶ月の冷凍保存後、チアミンとピリドキシンのみが減少していました。それ以外は、ほぼそのまま保持されていました。
従って、-18℃での冷凍保存が 1 年までであれば、ビタミン B 群において、はっきりとした栄養損傷は見られないと結論づけています。

Minasyan と Astabatsyan による研究 (*5) では、様々な冷凍フルーツで、ビタミン B 群の変化について調べています。
各フルーツは、-40℃で冷凍された後、8ヶ月間、ポリ袋で冷凍保存されました (-18℃~-20℃)。
冷凍前、冷凍後、冷凍保存後に、各ビタミン B 群 (チアミン、パントテン酸、ピリドキシン、ニコチン酸、イノシトール) の測定を行いました。
冷凍保存後、ビタミン量のわずかな減少が認められました。
イノシトールとニコチン酸の保持率は、94.9%~99.3%。ピリドキシンの保持率は、78.3%~97.6%、パントテン酸は 85.1%、チアミンは 88.2%でした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【参考文献】

1. Lester E. Jeremiah (ed.). Freezing Effects on Food Quality (Food Science and Technology Book 72). CRC Press (2019)
2. Paul M. Gross. Superfruits: (Top 20 Fruits Packed with Nutrients and Phytochemicals, Best Ways to Eat Fruits for Maximum Nutrition, and 75 Simple and Delicious Recipes). McGraw Hill (2009)
*3. O.W.Bisset and R.E.Berry. Ascorbic acid retention in orange juice as related to container type. J.Food Sci. 40(1):178 (1975)
*4. W.E.L.Spiess. Changes in ingredients during production and storage of deep-frozen food―a review of the pertinent literature ZFL 8:625 (1984)
*5. J.A.Venning, D.J.W.Burns, K.M.Hoskin, T.Nguyen, and M.G.H.Stec. Factors influencing the stability of frozen kiwifruit pulp. J.Food Sci.54(2):396-400,404 (1989)
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フルータリアンの基礎は菜食にあり――知っておきたいロマリンダ食

2022-03-30 | 20 世紀に学ぶ
■ フルータリアンにいたる道

普通の食生活をしていた人が、いきなりフルータリアンの食生活を始めるのは珍しいことです。
私の場合もそうでしたが、多くの場合、次のようなステップを経てフルータリアンに近づいていきます。

ベジタリアン(菜食主義)

ヴィーガン (完全菜食主義)

ローフード (生菜食) の導入(生食率を30%→50%→70%と徐々に上げていく)

フルータリアン(果菜食)

それぞれの段階に応じて超えるべき壁のようなものがあり、少しずつステップを踏みながら体を慣らしていく方が、最終的には長続きします。
実際、既にヴィーガンを実践していてローフードやフルータリアンに興味を持ち始めたという人の方が、圧倒的に長続きする可能性が高いです。

よって、今まで普通の食生活を送っていた人でフルータリアンを実践してみたいという人がいたら、「まずは菜食から始めてみてはどうか」「果物多めの菜食スタイルを試してみてはどうか」と提案すると思います。

例えば、日本でヴィーガンを実践する上で超えるべき壁の一つとして、スープに使われている出汁 (だし) をどうするかという問題があります。
大半の出汁は鰹節が使われているため、これを避けようとすると外食での選択肢は大きく狭まります。
だからといって自分で出汁を準備するのも手間だったりします。

そこで、うどんやそばを出汁を使わずに美味しく食べる方法はないだろうかと考えるようになるわけです。
そして、実際、四国地方には醤油うどんというメニューがあることに気付きます。
残念ながら現在の醤油うどんは出汁が使われているのですが、20 世紀前半頃、うどんに純粋な醤油だけをかけて食べていたという記録があり、しかも大変なご馳走であるとされていました。
そして今度は、どんな醤油がうどんに合うだろうかと試行錯誤を始めるようになります。

このような模索を重ねながら、そして、その過程で得られる様々な気づきを増やしながら、少しずつステップを踏んでいくわけです。
やはり食生活というのは、子供の頃から何十年もかかって身につけてきた習慣ですから、急激な変化には耐えられないのだと思います。

多くのフルータリアンはこのようなステップを経てフルータリアンになっているので、自分はベジタリアンである、またはヴィーガンであるとのアイデンティティを持っていることが多いのです。
今のところ日本では菜食主義者は少数派ですから、同調圧力が強いと言われる日本社会の中で、嫌でも自らのアイデンティティを意識せざるを得ないでしょう。
特に、「菜食主義者 VS 非菜食主義者」の健康上の議論に巻き込まれるのは必至です。

このような議論が巻き起こった場合、栄養学の最先端の論文を研究されている方などが、「最新の栄養学はますますプラントベースの食事を支持している」と総括して教えてくれることがあります。
これは世界中の研究者によって、もう何十年も前から叫ばれ続けていることです。
その一方で、菜食は健康に悪いという記事や論文も少なからず見つかることから、これらが非菜食主義者に取り上げられて、議論の応酬が続くことになります。

このような場合、両陣営とも、比較的最新の研究を持ち出してきて議論し合うことが多いようです。
しかし、そのような最新の研究に頼らなくとも、菜食の健康上の優位性という点については、20 世紀の時点で既に証明されているのだと思います。

それを最もわかりやすい形で示しているのがロマリンダ食です。

■ 禁煙・禁酒・菜食の町 ロマリンダ

ロマリンダとは、米国ロサンゼルスの東方 100 キロメートルに位置する小さな田舎町のことです。
ロマリンダは、キリスト教の一教派「セブンスデイ・アドベンチスト」(Seventh Day Adventists = SDA) の信者によって作り上げられました。
町の多くの住民は菜食主義者であり、町ぐるみで健康食・自然食運動が実践されてきました。

現在においてもロマリンダは有数の長寿地域として知られ、"アメリカにおける唯一のブルーゾーン"とも言われています。
ブルーゾーンとは、作家で探検家のダン・ビュイトナーによって調査・提案された、現代世界における 5 大長寿地域のことです。
(イタリアのサルデーニャ島、米国カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリア島、沖縄の大宜味村)
"一般のアメリカ人よりも 10 年長く生きるスリムな人々"といった文句で紹介されることもあります。

ロマリンダで最も活発な産業は医療事業であり、多くの市民が医療活動に従事しています。
ロマリンダは、人口一万人弱の小さな町でしたが、1984 年にロマリンダ大学医療センターが、世界で初めてヒヒの心臓を赤ちゃんに移植するというショッキングな手術を行ったことで、世界的に有名になりました。
その次に活発な産業が出版・教育事業です。
出版・教育事業に力を入れているのは、同教派が「キリストの再臨のメッセージを全世界に宣べ伝えることを使命としている」ためです。
現在、信徒数は世界全体で 2000 万人を越えており、日本での信徒数は 1 万 5 千人余だということです。

本記事では、現在のロマリンダではなく、20 世紀後半のロマリンダに焦点を当てようと思います。
大規模で貴重な栄養疫学調査の大半は、20 世紀後半に行われているためです (よって現在の状況とは異なる記載もあります)。

アドベンチストが菜食を実践するのは、聖書に
「神がはじめに穀類、堅果類、果物、野菜などの菜食を人間の食物として与えられた」(創世記第一章)
ことが記載されているためです。

また、次に挙げる五つの生活原理を日常生活の心がけとしています。

[1] バランスのとれた食事をする

[2] 自然治癒に努める

[3] 病気にならないよう予防を心がける

[4] 精神衛生に注意する

[5] 神と人間に対して愛を持つ

これら生活原理の内、特に[1][2][3]を忠実に守ろうとすれば、菜食だけではなく、禁酒・禁煙の習慣にもつながっていくわけです。
酒やタバコは、はっきりと「有害なもの」として認識され、町のスーパーマーケットでも売られていませんでした。
また、精製した小麦や砂糖のような"非自然食品"は、食料品売り場の片隅に追いやられていました。
香辛料やカフェインの入ったコーヒーやコーラなどの嗜好品も、"反自然飲料"と考える人が多く、避けられる傾向にありました。
[3]の病気の予防の観点から、適度な運動を心がけようとする人も多く、健康維持のために様々なスポーツやエクササイズが実践されていました。

■ SDA 栄養疫学調査

ロマリンダのような、禁煙・禁酒・菜食を実践する社会集団は珍しく、熱心な研究対象になってきました。
代表的で重要な疫学調査を取り上げたいと思います。
なお、各調査では、セブンスデイ・アドベンチストのことを「SDA」と簡略的に表します (Seventh Day Adventists = SDA)。

☆ セブンスデイ・アドベンチストの 5 つのダイエットグループと、グループ別の疾患発症リスク

最も大規模な疫学調査の一つが、2002 年から行われている AHS-II (Adventist Health Study II) と呼ばれる調査です。
米国とカナダの約 10 万人の SDA が調査対象になっています。
セブンスデイ・アドベンチストの食スタイルで最も多いのが卵乳菜食でしたが、信仰の度合いや信仰を食生活にどれほど反映させるかによってばらつきが生まれます。
本調査では、研究対象の人数が多かったこともあり、以下の 5 つのグループに分類して健康状態を比較することができました。

・グループ 1:ノンベジタリアンの SDA (ノンベジ)

SDA の中で最も大きな割合を占めるグループで、全体の 43.7%を構成。
果物、野菜、乳製品、卵、魚、鶏肉、赤肉を含むすべての食品群を食べる。
5 つのグループの中で最も不健康なグループ。

・グループ 2:セミベジタリアンの SDA (セミベジ)

すべての食品群を食べるものの、魚・鶏肉・赤肉の消費量が極めて少ないグループ。
SDA 全体の 8.3%を占める。
健康状態は、ノンベジタリアンよりも優れている。

・グループ 3:ペスコベジタリアンの SDA (ペスコ)

果物、野菜、魚、卵、乳製品は食べるが、赤肉や鶏肉は食べないグループ。
SDA 全体の 9.7%を占める。
赤肉や鶏肉を食べるグループより健康状態が優れている。

・グループ 4:ラクトオボベジタリアンの SDA (ラクトオボ)

動物性食品の内、卵と乳製品は食べるが、魚、鶏肉、赤肉を食べないグループ。
卵、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、アイスクリームなどの卵・乳製品を食べる卵乳菜食。
SDA では二番目に多く、全体の 34%を占める。
魚、鶏肉、赤肉を食べるグループより健康状態が優れている。

・グループ 5:ヴィーガンの SDA (ヴィーガン)

食事のすべてが植物性食品から構成され、魚、鶏肉、赤肉など一切の動物性食品を口にしないグループ。
いわゆる完全菜食主義者で、SDA 全体の 4.3%を占める。
最も素晴らしい健康状態を享受している。


各グループの割合と特徴を以下のようにまとめることができます。



次に、疾患別に、グループ同士で疾患リスクの比較が行われました。

・グループ別糖尿病リスク


ノンベジの罹患リスクを 1 とした場合、セミベジが 0.72、ペスコが 0.49、ラクトオボが 0.39、ヴィーガンが 0.22 と、ヴィーガンが最も低い。

・グループ別高血圧リスク


ノンベジの罹患リスクを 1 とした場合、セミベジが 0.77、ペスコが 0.62、ラクトオボが 0.45、ヴィーガンが 0.25 と、ヴィーガンが最も低い。

・グループ別体重比較 (BMI値)


ノンベジの BMI 値は28.3、セミベジは 27、ペスコは 25.7、ラクトオボは 25.5、ヴィーガンは 23.1。
ヴィーガンのみが、普通体重の範囲内。

☆ 平均余命の調査

次は、1974 年から 1988 年にわたって行われた AHS-I (Adventist Health Study I) と呼ばれる調査です。
カリフォルニア在住の 25 歳以上の SDA 信徒 34192 名が調査対象になっています。

・世代毎で平均余命を比較 (男性の場合)

すべての世代において、SDA の平均余命は、カリフォルニア住民を上回っていることがわかります。

・世代毎で平均余命を比較 (女性の場合)

男性の場合に比べると平均余命の上げ幅は少ないものの、女性の場合もすべての世代で、SDA の平均余命の方が長くなっています。

☆ SDA の死亡原因の比較

次は、SDA 信徒と 普通の食事をしている人とで、死亡原因を比較したデータです。
ロマリンダ大学で、1958 年から 1965 年までの 8 年間にわたって行われた調査で、カリフォルニア在住の約 5 万人の SDA 信徒 (35 歳以上) が調査対象になっています。
カリフォルニア全州の住民と比較しています。

平均寿命を比較すると以下の通りとなりました。

・カリフォルニア男性:71 歳
・SDA 男性:77 歳
・カリフォルニア女性:77 歳
・SDA 女性:80 際

個別の疾患毎の死亡原因発生率は以下の通りです。
カリフォルニア住民の値を 100 とした場合の SDA の値が示されています。


このように、すべての疾患において、SDA の方が低いことが示されました。
がんによる死亡についても、すべての部位のがんで、SDA の方が低い発生率となっています。
喫煙と深い関わりのある死亡原因、肺がん・口腔がん・咽喉がん・喉頭がん・気管支炎・肺気腫・膀胱がん、においてはかなり低い発生率となっています。
また、飲酒と深い関わりのある死亡原因、食道がん・肝硬変・交通事故においても明らかに発生率が低くなっています。

非喫煙の習慣のみが、低い死亡率に寄与しており、菜食の習慣は関係ないのではないかと考える人もいるかもしれません。
そこで、非喫煙の SDA と非喫煙の非 SDA のがん罹患率も比較されています。
そして、この比較においても、やはり SDA の方が低い値でした。

[非喫煙の SDA と非喫煙の非 SDA のがん罹患率を比較]

・がん全体の死亡率は、SDA 男性の場合で 85%、SDA 女性の場合で 78%。

・肺がんによる死亡率は、SDA 男性の場合で 67%、SDA 女性の場合で 42%。

・結腸直腸がんによる死亡率は、SDA 男性の場合で 67%、SDA 女性の場合で 42%。

・乳がんによる死亡率は、SDA 女性の場合で 81%。前立腺がんによる死亡率は、SDA 男性の場合で 93%。

・リンパ腫または白血病による死亡率は、SDA 男性の場合で 93%、SDA 女性の場合で 89%。

・全ての死因を総体的に比較すると、非喫煙 SDA 男性の死亡率は、非喫煙非 SDA 男性よりも 21%低く、非喫煙 SDA 女性の死亡率は、非喫煙非 SDA 女性よりも 9%低い。
冠動脈心疾患や卒中などのがん以外の死亡率も、SDA の方が低い。

この頃の日本では、一生涯のうち日本人の 4 人に 1 人はがんにかかると言われていました。
それが 21 世紀を迎える頃には、3 人に 1 人になり、今では、2 人に 1 人となっています。
これらは 50 年以上も前のデータですが、現代の日本人においてこそ意味のある調査研究でしょう。

菜食をするとがんの発生が少なくなる理由については、はっきりとしたことはわかっていませんが、2 つの観点から因果関係を推測することができます。
まずは、植物性食品に豊富に含まれる食物繊維、ビタミン類、ポリフェノール・カロテノイドなどの抗酸化物質が、がんを抑制する働きをしていることが考えられます。
もう一つの観点としては、肉を焼いたり揚げたりした場合に変異誘発物質が発生すること、また、PCB・PCD などの発がん性のある農業・工業用化学物質は、肉・魚・乳製品・油脂類に蓄積されやすいことなどが考えられます。
農薬というと果物や野菜を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実際には動物性食品に高濃度で検出されます。
世界的な環境活動家のジョン・ロビンズ氏も、
「すべての有害な残留農薬の 95~99 %は、肉・魚・乳製品・卵から体内に取り込まれている」
と述べています。
農薬の付着した飼料を家畜が食べることで、脂肪組織や筋肉組織に汚染が蓄積・濃縮されていくためです。

■ 日本の中のロマリンダ

「ロマリンダ」または「アドベンチスト」という名がつく病院があれば、菜食に理解のある病院である可能性が高いです。
最も古く長い伝統を持っているのが、1929 年に開設された東京衛生アドベンチスト病院です。
キリスト教系の病院ということで理由のない迫害を受けて、1945 年に閉鎖に追い込まれたものの、数年後に再度活動を再開して今日に至っています。
病院では菜食メニューが振る舞われ、禁煙教室や菜食料理講習会などの活動も盛んに行われてきました。

その他としては、神戸アドベンチスト病院や沖縄のアドベンチストメディカルセンターも長い伝統を持っています。
神戸アドベンチスト病院は、菜食レストランや菜食教室も運営しており、菜食のレシピ本なども出版しています↓

知花雅之著『神戸アドベンチスト病院栄養科スタッフがつくる おいしくて体にいい穀菜食レシピ』福音社

一度覚えてしまえばずっと使えそうなレシピが多く参考になります。

私は、事故や大病をして入院した経験などはまだないのですが、このような菜食に理解のある病院が日本にもあることを心に留めておきたいと思います。

セブンスデー・アドベンチスト教団の食品事業部である三育フーズも、菜食食品の会社として様々な菜食食品を手掛けています。
グルテンを抽出した代替肉を販売したのは三育フーズが日本初であり、昨今のヴィーガン食品への関心の高まりとともに菜食食品の需要も拡大しているようです。

このように、ロマリンダは遠く離れた日本においてもその活動を広げて、少なくない影響を与えてきました。  
日本人目線でロマリンダの存在を知ったときに改めて感動することは、飽食・肉食大国のアメリカにおいて、
ごく少数の社会集団でありながら、差別を受けることなく社会的に認められて、医療・出版事業を中心に大きな役割を果たしてきたことです。

これが日本であればそうはうまくいかなったかもしれません。
同調圧力の強い社会の中で、不当に差別されたり、偏見を持たれたり、嫌がらせを受けたりする可能性が高かったことでしょう。

アメリカには、互いの考え方の違いを自由として尊重する文化があります。
様々な人種がいるので、考え方の違いを認め合わないと社会的にやっていけないという側面もあるでしょうが、日本人としてはその態度に学ぶ点も多いはずです。
また、菜食同士の夫婦であっても、細かなスタイルの違いはどうしても出てくるものですが、こちらにおいても個人の自由としてお互いのスタイルを認め合う傾向が強いようです。

■ セブンスデイ・アドベンチストは果物をどのように捉えていたか

セブンスデイ・アドベンチストは果物をどのように捉えていたのでしょうか?
セブンスデイ・アドベンチストのリーダー的存在であり精神的な支柱でもあったエレン・グールド・ホワイト (1827 年~1915 年) の言葉を基に推察してみたいと思います。

エレン・グールド・ホワイトは、宗教家・教育家・著述家として、セブンスデー・アドベンチスト教会の創立において指導者的役割を果たした人物です。
「預言者」とも呼ばれており、生涯で見た幻の内容は文書として大切に保存され、教会の中では聖書に次ぐ重要文書という扱いを受けています。

☆ 果物から受ける祝福

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アダムがエデンの家郷を失ったとき、主が果物の供給を断たれなかったことに対し、私は神にとても感謝している。

『Statement from E.G.White Manuscript files』157 節、1900 年
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年間の大部分を通じて新鮮な果物が得られる国々に住んでいる人は、そのような果物によって受ける祝福に気付くよう主は望んでおられる。
木から採ったばかりの新鮮な果物に頼れば頼るだけ、その祝福も更に大きいのである。

『Testimonies for the Church. Vol.7』126 節、1902 年
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→ もともと初期の人類は果実が豊富に採れる森に暮らしていましたが、道具を発明して狩りをすることを覚えたり、農耕技術を発展させたりして、自らの生存領域を森以外に拡大させていきました。
人間は森を捨て去りましたが、森は人を見捨てませんでした。
その果実を通じて人間の健康を支え続けたのです。
アダムとイブは、旧約聖書の『創世記』に登場する理想郷「エデン」を追放されることになりましたが、それでも神によって果物の供給だけは断たれることがありませんでした。
果食に原始回帰的な意味合いを見出す人もいます。
失われてしまった森とのつながりを果食を通じて取り戻すという感覚です。

☆ 果物は最上の食物、しかし食後の果物は NG

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加工されず、単純であるが、量の豊富な果物は、神の働きのために準備している人々の前に備え得る最上の食物である。

『Statement from E.G.White Manuscript files』103 節、1896 年
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健康を支える仲介者として、我々は特に果実を推薦する。
しかし、他の食物で十分にまかなった食後に食べてはならない。

『Statement from the E.G. White Manuscript files』43 節、1908 年
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→ 加工されていない自然のままの果物が、最上であると言っています。
また、食後に果物を食べるのは良くないことも指摘しています。
消化が複雑になるためでしょう。
ビタミンという言葉すらも存在しない時代に、この原則を見抜いていたのはすごいことです。

☆ 食事の際に大量の飲み物を飲むのは変?

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大量に食塩をとってはならない。
ピクルスや調味料の入った食物を用いることを避け、豊富に果物を食しなさい。
そうするならば、食事のときにあれほど飲物を要求させた刺激は、大部分消失するであろう。

『Medical Ministry』305 節、1905 年
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→ ローフードは、食べ物自体にたっぷり水分が含まれているので、飲み物を特別に添える必要がなくなります。
逆に、普通の食事をしていたときはなぜあれほどまでに水分を欲したのだろうかと考えたくなります。
その一つの原因として、加熱食品特有のある種の"刺激"が考えられます。
単に水分を補給するためだけではなく、この"刺激"を抑えるためにドリンクを飲んでいたのかもしれません。

☆ 臨時のフルーツファスティング

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不摂生な食事が、しばしば病気の原因であって、身体が最も必要とすることは、これに負わされた無理な重荷を除くことである。
いろいろな病気の場合に最もよい治療法は、過労した消化器官が休息する機会を得るため、患者が一度か二度食事を断つことである。
数日間、果物だけの食事をとることは、しばしば頭脳労働者の荷を大いに軽減してきた。
多くの場合、短期間絶食をし、その後に単純で過度の食事をすることにより、自然そのものの回復力が働いて、全快に至らせた。
一、二ヶ月の節制した食事は、多くの苦しむ人々に、克己の道が健康への道であることを確信させることだろう。

『Medical Ministry』235 節、1905 年
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→ 不摂生な食事が多くの病気の原因であることは、この時代に既に知られていました。
また、酷使された消化器官の負担を取り除く上で、果物だけの食事が有効であることも知られていました。
果物だけの食事は、消化器官を休めるのに役立つだけではなく、豊富な栄養と浄化力によって、自然そのものの回復力が働くのを助けます。

☆ 有害な食品の代わりとして

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我々の医療機関においては、禁酒について明瞭に教えるべきである。
患者に、人を酔わせるアルコール飲料の害と絶対禁酒の祝福を示さなければならない。
彼らの健康を破壊したものを廃止するよう患者に求め、このような食物の代わりに、果物を豊富に与えるべきである。
オレンジ、レモン、プルーン、桃など、またその他多くの種類の果物を手に入れることができる。
骨折って努力が払われれば、主が造られた世界は実り多いからである。

『Statement from E.G.White Manuscript files』145 節、1904 年
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→ アルコールや砂糖などの健康に良くない食品の摂取を完全に断つのは難しいことです。
それらを断つことだけに意識を集中するのではなく、代わりの食品として果物を導入するのはよい方法です。
果物を多く食べていると、味覚が自然な状態に近づき、有害な食品が与える強い刺激に違和感を感じるようになります。

☆ 果樹園から採れたての果物は格別

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家庭も機関も、土地の栽培と改善のため更に努力することを学ぶべきである。
土地が季節に従って生じる地の産物の価値を人々が知りさえすれば、土を耕すために、もっと勤勉な努力が払われるはずである。
果樹園や農園から採れたての果物や野菜の特別な価値を、すべての者が知るべきである。
患者や学生の人数が増加するにつれて、更に広い土地が必要になってくる。
ブドウの木を植えて、その機関がブドウを生産することもできる。
また、その土地にオレンジ畑も有利である。

『Statement from the E.G.White Manuscript files』13 節、1911 年
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→ 土地の有効利用について述べた言葉です。
採れたての果物や野菜こそ健康に最善であり、果樹の栽培を積極的に検討すべきだと言っています。

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【参考文献】

1. 箕浦 万里子『ロマリンダの長寿食―アメリカの町ぐるみ自然食実践レポート』自然の友社 (1985)
2. 知花雅之『神戸アドベンチスト病院栄養科スタッフがつくる おいしくて体にいい穀菜食レシピ』福音社 (2013)
3. Elvin Adams MD MPH. The Healthiest People: The Science Behind Seventh-Day Adventist Success. iUniverse (2019)
4. Ellen G. White. Counsels on Diet and Foods. Ellen G. White Estate, Inc. (2010)
5. エレン・G・ホワイト『食事と食物に関する勧告』サンライズミニストリー (2002)
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重金属汚染とローフード式デトックス――爪ミネラル検査の結果も公開します

2021-12-31 | フルータリアンのメモ
■ 前置き――史上最強の猛毒「ダイオキシン」

私は「ダイオキシン類関係公害防止管理者」という、少しマイナーな国家資格を保有しています。
塩素を含むプラスチックを焼却炉で燃やすとダイオキシンが発生することから、未然に公害を防止・管理する目的で設けられている国家資格です。
ダイオキシンの毒性は極めて強く、強い催奇形性・発癌性を有します。
「自然界に存在する最も毒性の強い物質のさらに 10 万倍の毒性を持つ」と評価され、「史上最強の猛毒」とも言われています。
そして、資格試験の教科書の途中にあっさりと書かれていて驚くようなことなのですが、是非とも知っていただきたい一節があります。

それは、
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日本人のダイオキシン類摂取量のうち約 7 割は魚介類から摂取されている

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という事実です。

また、ダイオキシンは脂肪に溶けやすいという性質があるため、肉類、乳製品、卵にも多く含まれる傾向があります。
逆に、水に対しては不溶性または難溶性であるため、穀物類や果物はダイオキシンをほとんど含みません。
人の体内に入った場合は、脂肪分の多い母乳などに高濃度に蓄積していくことになります。
自分が女性であれば、この事実を重く受け止めると思います。

また、魚介類はダイオキシン以外にも水銀、カドミウム、有機塩素系農薬、PCB、有機スズ化合物、有機臭素系化合物なども含まれ、まさに汚染物質の宝庫と言えます。
PCB や有機スズ化合物は、環境ホルモンとも呼ばれ、内分泌攪乱作用が疑われています。
これら有害物質は、大型魚になるほど濃度が高くなります。
小型魚がプランクトンを食べて、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖の過程で、汚染が濃縮されていくからです。
日本人が当たり前に食べているマグロ、サケ、カツオなどは大型魚に分類されることを改めて認識する必要があります。
食物連鎖の頂点に立つクジラは、メチル水銀の濃度が最も高く、規制値を大幅に上回ることが話題になることもあります。
クジラ漁は、食文化の違いや動物の命といった観点から議論されることが多いのですが、海外の人はその水銀濃度の高さにも注目していることを知っておくべきでしょう。

また、2011 年の原子力災害以降は、これに放射能汚染のリスクが加わります。
特に、放射性物質ストロンチウム90は魚の骨に溜まりやすく、半減期も約 29 年と長いことから、その危険性を指摘する声は多いです。
当時、海洋汚染に対する懸念から、寿司業界の市場規模もかなり縮小していくのではないかと予想した人もいましたが、10 年経ってみて、その予想は外れてしまいました。
回転寿司チェーン「スシロー」を展開する FOOD&LIFE COMPANIES は、2021 年 9 月期決算で過去最高益を叩き出し、業界第 2 位の「くら寿司」も 21 年 10 月期決算で国内売上高の過去最高を更新しています。

事故後、「ベジタリアンではないけど、魚と乳製品は控えている」という人に出会ったことがありますが、現実的で賢い選択であると感じました。
「何を食べるべきか」ということは「何を食べないべきか、何を減らすべきか」を賢く選択することでもあります。
私は、菜食主義者として魚介類を長年口にしていないので、自身の体内の汚染状況も気になるところです。
そこで、比較的手軽に実施できる検査として、有害ミネラル検査を実施してみることにしました。
ダイオキシンを測定することはできませんが、食品汚染の代表格である有害重金属をはじめ、数十種類の体内ミネラルの状態を知ることができます。

■ 爪ミネラル検査の結果公開

ら・べるびぃ予防医学研究所が実施しているミネラル検査を受けることにしました。
検査には、毛髪ミネラル検査と爪ミネラル検査の 2 種類があり、どちらでも似た傾向が出るとのことですが、今回は爪ミネラル検査を選びました。
自身の爪を採取して送付すると、2 週間ほどで検査結果が帰ってきます。

検査項目は、

必須ミネラル 12 種 (ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、セレン、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、亜鉛)、
有害金属 5 種 (カドミウム、水銀、鉛、ヒ素、アルミニウム)、
準有害金属 3 種 (ストロンチウム、アンチモン、バリウム)、
参考ミネラル 3 種 (バナジウム、コバルト、ニッケル)、
その他金属 6 種 (ニオブ、バラジウム、ネオジム、タングステン、タリウム、プラチナ)

の全 29 項目です。

私の場合、有害金属系はすべて標準範囲内でしたが、必須ミネラルのセレンの値がかなり低く、「低値注意」と要注意項目になりました。
セレンというミネラルについて今まで意識することはなかったので、非常に良い機会になりました。

特に重要だと思われる有害金属 5 種 (カドミウム、水銀、鉛、ヒ素、アルミニウム) に焦点を当てて、もう少し詳しく振り返りたいと思います。
まずは私の検査結果ですが、以下のような結果でした↓



・カドミウムは、標準範囲 13.9 ppb 以下のところ、7.5 ppb で、「基準範囲」内でした。
(一般健常者の 84%が「基準範囲」、13.5%が「要注意」、2.5%が「注意」に収まります)
・水銀は、標準範囲 1413 ppb 以下のところ、7 ppb 以下で、定量下限値以下の測定値となり、「基準範囲」内。
(定量下限値以下の場合「以下」と表示されます)
・鉛は、標準範囲 425 ppb 以下のところ、127 ppb で、「基準範囲」内。
・ヒ素は、標準範囲 170.9 ppb 以下のところ、62.9 ppb で、「基準範囲」内。
・アルミニウムは、標準範囲 12690 ppb 以下のところ、7610 ppb で、「基準範囲」内。

次に、それぞれを個別に掘り下げていきたいと思います。

(1) 水銀――日本人の水銀蓄積量は欧米人の 2 ~ 6 倍

四大公害の一つ、水俣病の原因物質です。
神経系に障害を与える作用があり、重度の場合、知覚・運動・聴覚・触覚・視覚などに障害をきたすことになります。
自閉症や発達障害との関連性も指摘されています。

日本人の場合、水銀摂取の 8 割以上が魚介類経由となっています。
ワクチンの中にも防腐剤として水銀化合物が含まれています。
虫歯の充填剤として使用される歯科用アマルガムから、水銀が溶出してしまうことも摂取要因になっています。

日本人は魚介類の消費量が多いため、体内の水銀蓄積量は欧米人の 2 ~ 6 倍にもなります。
今回、私の検査値は定量下限値以下で、かなり低い値を出すことができましたが、水銀に関しては、やはり食事の選択が大きな影響を与えるようです。
わかりやすく言えば、魚介類を食べないこと、または、魚介類の消費をできるだけ減らすことです。

(2) ヒ素――米を危険視するスウェーデン

人体にとって猛毒であり、摂取量が少ないに越したことはありません。
体内に取り込まれると、酵素の働きを阻害したり、タンパク質の合成に障害を起こします。
その結果、頭痛、体重の減少、虚弱、甲状腺腫、筋肉萎縮、肝障害、心臓肥大などの慢性中毒症状につながる恐れがあります。    
発癌性が報告されており、IARC (国際癌研究所) の発癌性評価では最も高い「1」の「発癌性がある」に分類され、EPA (米国環境保護庁) の発癌性評価でも「A」の「人に対して発癌性の十分なデータがある」と、最高ランクに分類されています。

日本人は、無機ヒ素の 9 割を米とひじきから摂取しています。 (ヒ素には有機ヒ素と無機ヒ素があり、無機ヒ素の方が毒性が高い)
米は土壌のヒ素を吸収しやすいため、小麦や野菜などに比べて濃度は数十倍になります (参考:「食品に含まれるヒ素の実態調査」農林水産省 2014 年)。
米に含まれる無機ヒ素は、玄米の外側のぬかに多く含まれているため、玄米よりも白米の方がヒ素の濃度が低くなります。
また、ひじきのヒ素濃度も高く、イギリスの食品規格庁は 2004 年にヒジキの摂取を控えるように勧告したこともあります。
食品以外ではタバコの煙にも含まれています。

スウェーデンは、高濃度のヒ素摂取に対する懸念から米を危険視しており、「6 歳未満に米や米加工食品を与えてはいけない」と注意を喚起しています。
また、煎餅などの米菓子がアメリカに輸出された場合、「がん、先天異常、その他の生殖障害を引き起こす可能性があるヒ素が含まれております」といった警告がパッケージに表示されることになります。
米を主食とする日本人にとってはショッキングなことですが、米を主食としない海外の国は、米を冷静に見ています。

(3) カドミウム――日本人のカドミウム摂取の半分は米から

四大公害の一つ、イタイイタイ病の原因物質です。
過剰摂取すると腎機能障害を引き起こし、骨からカルシウムが失われて、骨が変形したり折れやすくなったりします。

カドミウムは、根本的には土壌や河川水の汚染に由来するため、あらゆる食品に含まれています。
日本人の場合、米の寄与率が 50%と最も高く、その次に寄与率が高いのが野菜・海藻類で 15%、その次が魚介類で 11%となっています (厚生化学研究 1981~2001 の平均)。

米の外側にある薄皮に多く含まれるため、玄米よりも白米の方が含有量が低くなります。
また、タバコの煙にも含まれています。

(4) 鉛――飲料水にも注意

鉛による急性中毒は古くから知られています。
鉛は中枢神経に対して有毒であり、たとえ低濃度でも、長時間曝された場合には、認知能力に障害を与え、精神遅滞や学習障害を引き起こすことが知られています。

鉛の主な摂取源は水道水です。また、タバコの煙にも含まれています。
水道管が鉛製の場合、水道管から鉛が溶け出して水に入っていきます。
昭和の頃に敷設された水道管は鉛製のものが大半であり、未だに多くの家庭で使われています。

ローフード食はそれだけで水分欲求が満たされやすいため、お茶やコーヒーの摂取が少なくなり、その分、鉛の摂取量が減少する可能性があります。
健康のために毎日水を 2 リットル飲んでいるという人もいますが、仮にその水に鉛が溶け込んでいる場合、高い検査値が出る可能性があります。
有害ミネラルを測るテスターも販売されているようなので、水道水やペットボトル水の濃度を計測してみるのも面白いかもしれません。

(5) アルミニウム――食品添加物にも含有

体内に蓄積した場合、認知障害、食欲不振、胃腸障害、神経疾患、骨障害等の症状が起きる可能性があります。
アルツハイマー病とのの関連性が長らく議論されてきましたが、現在はその因果関係を否定する声が大きくなっているようです。

最大の摂取源は食品であり、海藻、貝類、大豆、ごま類、葉菜類に多く含まれています。
ベーキングパウダーなどの膨張剤を使用した穀類加工品や菓子類からの摂取が最も多くなっています。
漬物に使われるミョウバンをはじめ、色止め剤、品質安定剤、着色料などの食品添加物にもアルミニウムが含まれています。

・総括

これら有害重金属は体内で自然に排泄されていくものですが、半減期 (体内に入ってからその量が半減するまでの期間) は、メチル水銀の場合、約 70 日、鉛では数年から 10 年、カドミウムでは数十年とされています。
私の場合、水銀の値だけ定量下限値以下でかなり低かったのですが、それは水銀の半減期が約 70 日と短いことも関係あるのかもしれません。
他の重金属については、摂取量を減らすことを意識しながら、気長にデトックスに取り組んでいく必要がありそうです。

魚、米、ヒジキなどは日本人の食卓には欠かせない食品ですが、重金属汚染という観点から見ると好ましい食品とは言えません。
日本人は、水銀の多くを魚介類から、ヒ素の大半を米とヒジキから、そしてカドミウムの半分は米から摂取しています。
その点、果物や野菜を主体にした食事は、重金属汚染を減らす上で、比較的望ましい結果をもたらすと考えます。

また、果物や野菜自身がデトックス食材と称されることもあります。
これは本当でしょうか?
次に、デトックスについて考えたいと思います。

■ ローフード式デトックスの極意――消化器官を休ませ、内なる医師を助けること

まず、多くの果物と野菜自体にデトックスに有効な成分が含まれていることを確認したいと思います。
すべてを列挙することはしませんが、大きく分けて、以下の 3 つの作用に分類することができます。

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・「捕まえて出す」系:
トマトやリンゴに多く含まれる水溶性食物繊維のペクチンは、有害物質を吸着し体外へ排出する効果があります。
タマネギ、ブロッコリー、リンゴなどに豊富に含まれるポリフェノールのケルセチンは、有害ミネラルとキレート結合する働きがあります。
 
・「肝臓の解毒を強くする」系: 
キャベツ、ブロッコリー、ダイコンなどに含まれるイソチオシアネートや、タマネギ、ニラ、ニンニク、ネギなどに含まれる硫化アリルは肝臓の解毒力を高める働きがあります。
アボカドに多く含まれるグルタチオンも生体の解毒作用を助けます。

・「活性酸素を抑える」系: 
体内に有害ミネラルが残った場合、そこから活性酸素が発生します。
野菜や果物に含まれるベータカロテンやビタミン C には活性酸素の働きを抑える効果があります。
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次に、これら果物や野菜のデトックス作用を最大限活かすことのできる、ローフード (生菜食) ならではのデトックス術「定期モノダイエット (Periodic Monodieting)」を紹介したいと思います。
定期モノダイエットは、ナチュラルハイジーンを世に広めた世界的ベストセラー『フィット・フォー・ライフ』の著者、ハーヴィー・ダイアモンド博士が自ら実践していたデトックス術です。

モノダイエットという言葉は「たった一種類の果物か生野菜に限定した 100 パーセントローフードの食事」という意味で使われることもありますが、博士の場合、「果物と生野菜、またはそれらのジュースから成る 100 パーセントローフードの食事」という意味で使っています。
つまり、定期モノダイエットとは、果物と生野菜、またはそれらの生ジュースから成るダイエットを定期的に繰り返すデトックス方法です。
デトックスの期間と繰り返す頻度についてははっきりと決まっておらず、個人のライフスタイルに合わせてフレキシブルに調整することができます。
例えば、以下のようなパターンが考えられます。

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パターン 1:新鮮な果物・生野菜のジュースだけを 1~3 日間飲む。

パターン 2:新鮮な果物・生野菜のジュースと、固形の果物と生野菜だけの食事を 3~5 日間続ける。

パターン 3:新鮮な果物・生野菜のジュース、固形の果物と生野菜、およびサラダから成る食事を 7~10 日間続ける。
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ここで示したパターンはあくまで一例であり、個人によって違います。
また、頻度についても様々なバリエーションが考えられますが、1 年のうちの 3~4 回の大型連休のタイミングで実施するという人もいれば、わかりやすく 1 ヶ月ごとに 1 度実施するという人もいます。
慣れてくると、どれくらいの日数、モノダイエットを続けたいのかが体でわかるようになってきます。
毎月モノダイエットを実践するのが楽しみに感じられるようになれば、デトックスの良いサイクルに入ったと言えます。

モノダイエットの目的は、消化活動の負担を最大限減らして消化器官を休ませてあげること、それと同時に、体が必要とする栄養素を最大限与えてあげることです。
この栄養素には、上述したデトックス効果のある栄養素も含まれます。
モノダイエットを実践する上で守らないといけない、最も大切なルールは、「決して加熱食品を摂らない」ということです。
加熱食品は消化に莫大なエネルギーを要するため、本来は毒物の解毒・排泄に使われるべきエネルギーが消化活動に奪われてしまうという問題があります。
酵素を豊富に含んだ生の食材を摂取することで、消化器官を休ませることができます。
その分、毒物の解毒・排泄にエネルギーを振り向けることができるわけです。

この原理を一言で言えば、「消化器官を休ませ、内なる医師を助けること」です。
人が有害重金属を解毒・排泄する場合、汗から 3%、毛髪から 1%、爪から 1%、尿から 20%、便から 75%の割合で排泄しています。
そして、この地道な作業は 24 時間休むことなく続けられています。
これは、まさに人の体に備わった"内なる医師"の働きのおかげです。
この内なる医師の働きを最大限解放するためのツールが、定期モノダイエットなのです。

■ たとえ最強の毒物に侵されたとしても――長期に及ぶデトックスの可能性は現代科学では計り知れない

デトックスの実践は、スプリント型の短距離走ではなく、マラソン型の長距離走と考えるべきです。
毎日の小さな積み重ねが大きな違いをもたらします。
そして、その積み重ねが、ときに思わぬ奇跡をもたらし、人を感動させることもあります。
私が感動させられたのは、ハーヴィー・ダイアモンド博士の 20 年以上に及ぶデトックスのストーリーです。

近年、博士の体調が優れないという噂が広まることがあり、そのせいでナチュラルハイジーンの効果を疑問視する人もいるようです。
しかし実は、博士が今も生きていること自体がすごいことなのだと思います。
博士は、軍人としてベトナム戦争に従軍した過去を持ち、その時に米軍が散布した枯れ葉剤「エージェントオレンジ」を浴びているからです。
エージェントオレンジには、史上最悪の毒物であるダイオキシンが不純物として高濃度に含まれていました。
博士は、エージェントオレンジが原因で、末梢神経障害と呼ばれる症状を抱えており、両腕の伸筋が麻痺して、腕をうまく上げることができず、両足にも少し不自由があるといいます。

エージェントオレンジが人体に取り込まれた場合、非常に奇妙な働きをします。
暴露されてから約 20 年後に、筋肉が劣化し始めます。しかも、これは確実に起こり、不可逆的なものです。 

博士が、エージェントオレンジを浴びたのが 1966 年で、1986 年に筋肉の劣化が始まりました。
その後、米国のエージェントオレンジ支援団体との出会いがきっかけで、ベトナム戦争の参加者に、同じような症状で苦しんでいる人が多くいることに気づきます。
そして、筋肉の劣化から 5 年後、多くの人が車椅子生活になったり、死んでしまいました。
しかし博士だけは、違いました。
筋肉の劣化から 15 年経って、その進行をなんとか食い止めることができたのです。
     
博士がナチュラルハイジーンを学び、定期モノダイエットを実践するようになったのが、暴露の 4 年後、1970 年です。
1986 年に筋肉の劣化が始まり、そのときに初めて、自分がエージェントオレンジを浴びていたことに気づきましたが、後から振り返ってみれば、20 年以上に及ぶ定期モノダイエットの実践が、結果的に博士の命を救ったのです。

博士のデトックスの奇跡が示していること。
それは、たとえ史上最強の毒物に侵されても、たとえ症状の悪化が不可逆的に思えたとしても、長期に及ぶデトックスによって、人体は、その毒物に打ち勝つ可能性を秘めているということです。

このような長期に及ぶデトックスの効果が、科学的エビデンスに基づいた形で、今世紀中に証明されることはないでしょう。
なぜなら、そのような食生活をしている人間は圧倒的に少なく、また現代の科学者ほど短期的な成果を求められる傾向が強く、20 年という長期に及ぶ効果を追跡して検証する余裕などないからです。
よって、博士が体験したようなデトックスの物語は、口伝のような形で、人から人へと語り継がれていくことになるでしょう。
中にはそれを奇跡と呼ぶ人もいるかもしれません。
しかし、それを体験した本人にとっては決して奇跡などではなく、すべては毎日の小さな積み重ねがもたらした、紛れもない現実なのです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【参考文献】

1. 大森隆史『毛髪ミネラル検査のすすめ 見てわかる図解版デトックス健康法の決め手』コスモ21 (2005)
2. 大森隆史『「重金属」体内汚染の真実 ―ほんとうのデトックスのすすめ』東洋経済新報社 (2017)
3. 大森隆史、永本 玲英子『頭皮毒デトックス――地肌力がみるみる再生!』コスモトゥーワン (2014)
4. 陽 捷行 (著, 編集)『農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響』 (北里大学農医連携学術叢書) 養賢堂 (2008)
5. カオ・ダイ レ (著), 尾崎 望 (翻訳)『ベトナム戦争におけるエージェントオレンジ―歴史と影響』文理閣 (2004)
6. David Hammond. Mercury Poisoning: The Undiagnosed Epidemic: How to detox. David Hammond (2014)
7. James Lilley. HEAVY METALS DETOX: The Easy Way to Detoxify - Detoxification Helps Protect Against Accelerated Aging, Sickness, Brain Fog, & Fatigue. Independently published (2019)
8. Harvey Diamond. Fit For Life: A New Beginning――The Ultimate Diet and Health Plan. Citadel (2021)

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