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好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

翠の騎士 炎の姫君1

2024年05月06日 | FLESH&BLOOD 異世界転生パラレル二次創作小説「翠の騎士炎の姫君」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「はぁ・・」

海斗は、何度目かの溜息を吐くと、山のように流しに溜まっている食器を洗い始めた。
リビングの方からは、夫が缶ビール片手に下らないバラエティー番組を観ている音が聞こえて来た。
こっちは朝から晩まで忙しく働いているのに、夫は家事を手伝ってくれない。
『え~、家事はお前の仕事だろ?』
一度、家事の分担を夫と話し合ったら、彼は笑って海斗の提案を一蹴した。
『海斗は外国育ちだから、わからないんだろうけどさぁ、ここは日本だよ?日本では昔から、男は外で稼ぎ、女は家事・育児・介護するのが普通なの!俺がちゃんと稼いでやっているんだからさ、海斗も上手くやっていてくれよな!』
夫とは、大学時代に所属していたサークル仲間の紹介で知り合った。
初めて会った時、夫は頼りになる人だと思った。
だが結婚した途端、夫は海斗にぞんざいな態度を取るようになった。
「あ、俺もう寝るわ。」
夫はテレビを消すと、そのまま寝室に入っていった。
海斗がキッチンからリビングに戻ると、そこには夫が飲み食いしていた缶ビールやポテトチップスの袋が散乱していた。
いつまで、こんな状態が続くのだろう―海斗がそんな事を思いながら自宅マンションの部屋を出て通勤路を自転車で漕いでいると、突然脇道から一台の軽乗用車が猛スピードで彼女の方に突っ込んで来た。
海斗は自転車ごと宙に舞い、アスファルトの地面に叩きつけられた。
「誰か、救急車っ!」
人々の悲鳴や怒号、そしてパトカーや救急車のサイレンも、徐々に遠ざかってゆくのを海斗は感じた。
「ん・・」
「お目覚めになられたぞ!」
「早く、医者を!」
海斗が恐る恐る目を開けると、そこは深い翠に囲まれた森だった。
「皇女様、大丈夫ですか?」
「ここは、一体・・」
「あなたはあの木から落ちたのですよ。さぁ、起き上がれますか?」
そう言って美しい翠の瞳で自分を覗き込んでいるのは、黒の衣装にその身を包んだ男だった。
「吐きそう・・」
突然起き上がった所為で、海斗は酷い偏頭痛と吐き気に襲われた。
「皇女様、ご無事でしたか!?」
男の背後から姿を現したのは、世界名作劇場に出て来るような、古めかしい服装をした男だった。
「どうやら、皇女様は木から落ちた際、頭を強く打たれたようです。わたしが、この方を城までお連れ致します。」
「そ、そうですか・・」
黒衣の男に横抱きにされ、海斗は訳がわからないまま馬に乗せられた。
「少し揺れますので、しっかりつかまって下さい。」
「うん・・」
馬に揺られながら、海斗はいつの間にか眠ってしまった。
“残念ですが、奥様はもう・・”
“・・君、あなたの所為よ~!”
ヒステリックな母の金切り声。
“まだ若いのに、可哀想ねぇ・・”
“あの人、婿養子でしょ?今住んでいるマンションの部屋、追い出されるんじゃないの?”
読経の声や、周囲の夫への心無い声は、もはや自分には関係の無い事だった。

(どうやら、眠ってしまわれたようだ・・)

黒衣の男―ビセンテは、そう思いながら海斗の髪をついていた木の葉をそっと払った。

(わたしが、生涯をかけてあなた様を全力でお守り致します、カイト様。)

やがて、ビセンテ達は森を抜け、白亜の城へと辿り着いた。

「カイト、一体何処へ行ってしまったのやら・・」
「皇妃様・・」
「カイト様はすぐに戻られますわ。」
白亜の城の中では、エステア皇国皇妃・アシュリーが海斗の身を案じていた。
「皇妃様、カイト様が戻られました!」
女官の言葉を聞いたアシュリーは、部屋を飛び出し、ビセンテ達を王宮の中庭で出迎えた。
「カイト!」
「お母様、心配をお掛けしてしまって申し訳ありません!」
「お前が無事で良かったわ。ビセンテ、カイトを見つけてくれてありがとう。」
「いいえ・・」
「お部屋で休んで参りますわ、お母様。」
海斗はアシュリーに一礼すると、王宮の中へと入った。
(広いな・・さっきはあの人の手前、部屋に行くと言っていたけれど、何処にあるのかわからない。)
海斗がそんな事を思いながら廊下を歩いていると、そこへビセンテがやって来た。
「お部屋まで案内致しましょう。」
「ありがとう。」
「後で医者を呼びます。」
「わかった・・」
漸く海斗が自分の部屋に入ると、ビセンテは彼女にそう言った後、部屋から出て行った。
(あ・・何だか、眠くなってきちゃった・・)
寝室に入った海斗は、そう思いながら次第に寝台の中で眠ってしまった。
同じ頃、アシュリーは夫であるレオンハルトを見舞っていた。
彼は病弱で、頑健な父が退位した後皇位を継いだが、一年の大半を寝室で過ごしていた。
「あなた、今日は調子が良いの?」
「あぁ。だが、わたしはいつまで君達と居られるのかわからない。」
「そのような事、おっしゃらないで。」
「アシュリー、もしわたしに何かあったら、カイトを・・」
「あなた、しっかりして!」
その日の夜、レオンハルトは崩御した。
葬儀には、彼を慕う多くの国民達が参列した。
「これから、どうなってしまうのかしらね?」
「陛下が、後継者としてカイト様を指名されたとか・・」
「カイト様なら、大丈夫ね。」
「確かに。」
「でも、あの方が黙っていないわね。」
レオンハルトの葬儀から一月後、ビセンテは海斗に呼び出された。
「カイト様、これから戴冠式の予行練習を行います。」
「あの・・」
「何でしょうか?」
「俺、本当にこの国の女王になるんですか?」
「そうです。」
ビセンテは、海斗の様子が少しおかしい事に気づいた。
「カイト様、もしかしてあなたは記憶を喪っておられるのですか?」
ビセンテの問いに、海斗は静かに頷いた。
ビセンテは大きく溜息を吐いた後、海斗の手を握ってこう言った。
「わたしが、命を掛けてあなた様をお守り致します。」
「ありがとう・・」
レオンハルトが崩御して半月後、エステア皇国に新しい女王が産まれた。
「カイト様、大丈夫ですか?」
「うん・・」
「では、参りましょう。」
ビセンテにエスコートされながら、海斗は女官達と共に馬車へと乗り込んだ。
彼らを乗せた馬車は、戴冠式の会場である荘厳な大聖堂の前で停まった。
戴冠式は、滞りなく行われた。

「God Save The Queen!」

海斗の頭上にダイヤモンドとエメラルド、真珠で飾られた王冠が載せられた瞬間、大聖堂の外から歓声が聞こえた。
「女王陛下、万歳!」
「女王陛下、万歳!」
馬車の中から国民達に手を振りながら、海斗は王冠の重みに耐えていた。
「あ~、疲れた!」
王冠をビセンテに外して貰った後、海斗はそう叫んでソファに横になった。
「陛下、休んでいる暇はありませんよ。」
「わかったよ・・」
ソファから起き上がり、ドレスについた皺を直した海斗は、舞踏会が開かれている大広間へと向かった。
「女王陛下のお成り~!」
海斗の姿を見た途端、それまで談笑していた貴族達が一斉に黙り込んだ。
「陛下、一曲踊って下さいませんか?」
「喜んで。」

海斗とビセンテがワルツを踊り始めると、周りに居た貴族達もワルツを踊り始めた。

(あれが、新しい女王・・)

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